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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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詳しい事情はわかりませんが



 夜中に魔物が襲ってきただとか、御使いがやってきただとかの事件もないままに朝がきた。


「あれ? なんか景色変わった?」


 テントから出て周囲を見回せば、何が違うとはハッキリ言えなくても何かが違った気がして思わずそう問いかける。


「景色……あ、そういえば夜中にお腹が空いたので、ついそちらにあった作物を食べてしまったであります」

「食べたんだ」

「はい、つい」

「だからか」


 景色がなんか変わったな? なんて思ったのが気のせいでもなかったし、ついでにナナイが夜中に夜食として食べてしまったからというのもわかったので、ユッカとしては問題解決である。


「ってか、野菜も全部生で食べたの? いや、そりゃ生で食べれるのもあるけど、物によっては火を通した方がいいのもあったと思うんだけど」

「下手に火を使うと何者かにこちらの居場所を察知されるかと思ったので……

 ちなみに生でも問題なかったでありますよ」

「……そう」


 それ以上ユッカは特に何も言えなかった。


 夜に火もつけないまま野宿は、場所によっては危険であるのは言うまでもない。

 動物は火を恐れ近づいてこないと言うが、しかしその逆に魔物が寄ってくる事もある。

 だが、じゃあ火をつけなければ魔物がこないか、と言われれば普通に来る。

 つけてもつけんなくても来る、という点でじゃあどうしろって言うのさ、という気持ちになるが、火がついてる場合はそちらに最初に寄っていく事が多いらしいので、真っ暗闇の場合よりは若干時間を稼げるとかどうとか。

 ユッカはあくまでも聞いた話だし、そもそも野宿をする際ロゼが魔法で結界を作ってくれているから正直詳しくは知らない。


 けれども今回はうっかり御使いに発見されたら困るから、火も何もつけないままだった。

 結界を張れば火があろうとなかろうと大差ないのだが、ナナイからすると、そういった魔法を探知して御使いがやってくる可能性もある、との事だったので。


 いざとなったらナナイが大声を出せばユッカは起きれると思っていたし、ロゼも多分起きるだろうと思っていたからこそ、こうなったわけだが……


(まさか普通に夜食としてそこらの作物食べてるとは思わなかったな……)


「えーっと、じゃあ、朝ごはんとか特にいらないかな?」

 夜中にあれだけ食べてるなら、ユッカであれば朝食とか入りそうにないのでそう聞いてみたのだが。


「いえ」


 ナナイはそっと首を横に振った。


「食べます」


 そして、静かに、力強くそう宣言したのである。


(なんていうか、フードファイターとかそういう感じなのかなナナイって……)


 朝食の用意を済ませ、ユッカは食べながらもそっとナナイを見ていた。

 正直に言うとユッカの三倍くらいの量を出した。それでもぺろりである。

 ちなみにディオスも朝はしっかり食べる派なのか、ユッカの食べる量を一人前とするのなら、二倍とまではいかないがユッカの食べる量よりは多めに食べていた。


 ディオスとナナイにそれだけで足りるの? みたいな目を向けられたり聞かれたりすると、なんだかまるで自分が小食のように思えてくるが、普通に一人前である。


(この人たちの基準に合わせて食べるようになったら絶対太るんだろうな……あ、でもロゼの魔法で肉体の時間が止まって成長しないって事だったし、太ったりしないんだっけ……? 食べた分は魔法を維持するエネルギーに回ってるとか言われた気はするけど)


 じゃあ自分もいっぱい食べてもいいかな、と思わなくもないのだが、しかしそれが当たり前になるといつか元の世界に戻った時が大変である。

 食べたら食べた分だけ脂肪に変換されるようになっても、節制する事なく食べていたらあっという間に太りそう。それでなくとも女性は男性よりも肉がつきやすいと言われているのだ。

 若いうちは頑張って運動すればそれなりに痩せるけれど、年をとったら代謝が落ちて今までより食べてなくても太ると親戚のおばちゃんに言われたのもユッカの記憶にしっかりと残っている。


 食べてなくても太るし、肉がついて重たくなるから運動しようにも大変なのよぉ、と言っていたおばちゃんの食事の量は本当にちょっとだけだった。えっ、それでも太るの……!? と慄いたのも今となっては懐かしい記憶だ。

 いっそ薬の副作用で太ってしまった、とか言われた方がまだ「そうなんだ」で受け入れられた気がする。


 ともあれ、ナナイはまだまだ食べられそうではあったけれど、作った分が綺麗さっぱりなくなってしまったので、朝食はあっさりと終わった。

 ユッカとロゼ、ディオスにナナイ。この場にいるのは四名で、食事は四人分作ればよかったはずなのにトータルで六人分作ったという事実にユッカはそっと目を逸らした。


 ちなみに内訳はユッカ一人前、ディオスとロゼで二人前、ナナイ三人前である。ロゼは猫の姿なのでユッカの半分も食べられなかったので、その分をディオスに分配した結果だった。


 ディオスがあまり食べなければ、その分はナナイに上乗せされていたかもしれない。


(十人前とか作ってもナナイが綺麗に食べてくれそうではあるけれど)


 だがしかしユッカが朝食の支度をしたとはいえ、ユッカは普段から料理をするわけでもないのだ。

 家にいた時は母親の作るご飯を食べ、祖父母の家にいた時は祖母の作るご飯を食べていた。


 時々料理をする事はあっても、自分が率先して今日のご飯を作るね、なんて事は滅多になかったのだ。

 それなのにいきなり大人数用の食事とか、ちょっと難易度が高すぎる。


 材料を使い切るのに一人前より二人分作る方がやりやすい、とかそういうレベルを通り越しているのだ。


(でももしかしたら……食堂で沢山の人向けに作るスキルがこれから求められるのかもしれない……)


 身体はロゼの魔法で成長したりしないようになっているけれど、経験に関してはその限りではない。

(これはもしかしたらもしかしちゃうけど、ここにいると私の料理スキルがメキメキ上達しちゃったりなんかするのでは……!?)


 元の世界に帰ったら身内が驚くくらい上達してました、なんて事になったら。


 別に困らないけれど、いつの間にそんなに上達したの? なんて聞かれても答えられないのが困る。

 適当に言葉を濁した結果、うちの子天才とか言われてもそれはそれで居た堪れないし……


 そんな風に考えながらも、ユッカたちは後片付けをして。


 そうして、町を目指したのである。


 なんだか童話の中に出てきそうな、ちょっとメルヘンを感じさせる町並み。

 カラフルな三角屋根の家が並んで、見ているだけでもそれなりに楽しくはある。

 ユッカの近所の住宅街とは全然違う景色なので。


 けれども――



 町の中央。

 広場になっているそこに、町の景観と合わない像がドンと存在していて、そこにずらりと御使いたちがいるとはユッカだって想像していなかった。


 町に入っても、人を見かけなかったからなんとなく嫌な予感はしていたのだ。これでも。


 誰もいないという時点で、ルボワール地区を思い出す。

 まさかここも……!? なんて思いながら、建物の窓から中がちょっと見えたりしないかなーと思ってちらっと覗き込んだりもした。けれどもどの家もカーテンが閉じられていたせいで、カーテンの隙間から見える範囲で中の様子を窺うにしても、ちょっと無理だったのである。


 時刻は朝。

 ユッカたちは町から少し離れた場所でそっと野宿をしたわけだが、そこで食事をしてから歩いてきた。

 だからまぁ、朝と言い切るにはちょっとばかり微妙な時間帯になってはいるのだ。


 昼というにはまだ早い。

 けれども、そんな時間帯で町の中に誰もいないとか、そんな事ある……? という気持ちでもって移動して。

 家の中に引きこもって出てこないだけ、という説であれ……! なんて思いながら広場を見た時のユッカの心境は。


「いやどう見ても邪教信仰では?」


 これに尽きた。


 カラフルでメルヘンな町並みに不釣り合いとしか言えない像は、誰か――偉人とかそういうのであろう、とは思うのだけれど。

 圧倒的に周囲の風景に溶け込むどころか異彩を放っているのである。


 違和感がどれくらいかと言われると、日本昔話に出てくるようなお地蔵様やお稲荷様が置かれてる場所に、自由の女神が鎮座ましましてるような。自由の女神のサイズを変更して大きさを揃えたところでどう足掻いても出る違和感。

 それに近いものがそこにはあった。


 像は石で作られているようで、色はついていない。

 一見すると聖職者に見える男性像。

 それだけならこの町にあってもそこまでおかしくはないんじゃないかなぁ……とはユッカだって思うけれど、しかしそれらを崇めるようにしている御使いたちのせいで一気に違和感がとんでもない事になっている。


 そっと建物の陰に隠れるようにして覗き込んでいたけれど、御使いたちは像を拝み何やら祈ったりした後で。


「さぁて、ではそろそろ行くとしようかのう」

「そうじゃな、食の大切さをその身に刻み込んでくれようぞ」

「きぇっへっへ」

「お残しをするような不届き者どもには我ら直々に天罰を下すべし」

「そうじゃな、畑の肥料にはうってつけじゃの」

「げっげっげ」


 御使いたちにとっては爽やかな朝のお祈りが終わった後の、今日も一日お仕事頑張ろうねトークなのかもしれないが、まぁユッカからすれば邪悪極まりない。

 所々に挟まる笑い声もどう聞いても悪役のそれ。

 大物悪役というより小物系悪役というか、そもそも三下悪役だってそんな笑い方する奴ぁ最近いねーよと言いたくなるもので。


「止めるしかなさそうだけど……ロゼ、いける?」

「不意を突けば大丈夫そう」

「では、一応こちらも援護に回るとしましょうか」


 ユッカが小声で問いかければ、ロゼも流石にこれを放置してはいけないと思ったのだろう。

 不意打ちかます気満々のロゼに、ディオスも参戦する意思を見せた。


「ナナイも」

「いや」


 そしてナナイも戦うぞ、とばかりのやる気を見せたがユッカはそれを止めた。


「ナナイには他にやってほしいことがある」

「ナナイに、でありますか?」

「そう。まだまだ余裕って言ってたよね。だったら、急いでこの周辺に積まれてる作物食べられるだけ食べてきて」


「それは……本当に、良い、のでありますか……?」

「良いも悪いも、このままだと強制的に出されたノルマを果たせず見せしめで殺される人が出ちゃうし」

「……了解したであります」


 ぴっ、と敬礼した後、ナナイは颯爽と駆けていった。

 バレないように来た道を引き返していったその背中をユッカは黙って見送る。


 ここにいる御使いが全部、というわけでもないだろう。

 だから他の御使いがノルマを各地に運ぶのは完全には止められない。

 だが、運ぶための作物がなくなってしまえば、この地区の人たちの延命には繋がるはずだ。


 勿論、ナナイ一人に任せたところで焼け石に水でしかないとはわかっているけれど。


「よし、それじゃあ、いくぞー」


 大声を上げれば気付かれるので、ユッカは小声で突撃宣言をかけた。

 それに対してロゼは速やかに行動に移り、ディオスもまた小さく頷く。


 かくして、戦闘――というか一方的な奇襲攻撃が開始されたのである。

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