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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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圧倒的吸引力



 思わぬ事からナナイと合流し、そして共に行動する事になった……とはいうものの。


「まぁ、問題としてはこの作物で道が塞がれてるから、別の道探さないといけないんだよね」

 ナナイが落ちてきたのがこの作物の上だったなら、今頃はぺしゃんこに潰れて道ができたかもしれない。

 多くの食べ物が残念な結果になるという事にもなってしまうが。


 だがしかしナナイが落ちてきたのはそこから少し離れた場所である。

 なので積み上げられた作物には何の被害も及んでいなかった。

 衝撃で吹っ飛ぶとかそういう事もない。


 魔法を使ってどかすにも、そうやって魔力をいたずらに消耗するのはいい判断とも思えない。御使いが弱いとはいえ、それでもいざという時に魔力が足りない、なんて事を考えると魔法の無駄撃ちは避けたい所存である。

 ユッカに自衛手段が無いので、ロゼやディオスの魔力が尽きた時点でユッカ終了のお知らせなので。


 魔法を使わずこの作物を撤去するにしても、高く積み上げられているせいで手作業でどかすのも難しい。

 この中で一番背の高いディオスが手を伸ばしたところで一番上の作物には届かないのだ。


「えぇと……これは食べても良いものなのでありますか?」

「そうだね、ここの住人に強制的にノルマとして食べろって言われてるやつのストックみたいなものだから、食べても大丈夫なら大丈夫」


 ロゼ、ディオス、そしてナナイが含有魔力量的に口に入れても問題はない、と言っているのなら大丈夫だろう。

「成程……それではこれらをナナイが食べても問題はないでありますか?」

「えっ?食べられる? だっていっぱいあるよ?

 果物ならそのままいけるかもだけど、野菜は全部生で大丈夫ってわけでもないし……」


 サラダにできる野菜ならともかく、加熱した方がいい野菜は流石にこのまま食べるのはお勧めできるはずもない。

「それ以前に、結構しっかり積まれてて途中から引っこ抜いて食べるのも難しくない?

 下手に手を出して崩れるまではいいけど、それで御使いに気付かれてこっちに来られるのも後が面倒な事になりそうだし」

「ご安心ください、上からちゃんと食べるであります」


「えっ?」


 とん、とナナイは自分の胸を軽く叩いて、それからとんっと跳躍した。

 重力を感じさせないそれをユッカは一瞬何を見たのかわからなくなる。


 それこそ、ナナイの背中に羽でも生えていただろうかと錯覚したくらいだ。


 けれども何度見てもナナイの背中に羽らしきものは存在しない。

 アーロスよりも軽やかなのでは……? なんて口には出さないながらも思い、そうして積み上げられた作物の上に着地したナナイが次に何をするのかを眺め――


「えっ!?」


 やっぱり今自分が何を見たのかがわからなくて、ユッカは何度か目を瞬かせ、軽くこすり、その上で何度かまた瞬きを繰り返して改めてナナイを見る。


 その頃には、積み上がっていたはずの作物の大半が消えていた。


「えっ? あれ、アイテム収納とかやった?」

「いいえ?」

 ナナイを見ていた視界が下に下がる。

 それはナナイが着地をしたとかではない。

 積み上がっていたはずの作物が綺麗さっぱり消えて、ナナイが地上に足をつけているからだ。


 正直な話、ユッカの背負っているリュックにこれらの作物を収納して道を作る、というのも考えはしたけれど、しかしなんていうか妖しさ満点な作物を一時的とはいえ自分の所持アイテム一覧に加えたいとは思わなかったから、迂回しようとかそういう話になっていたはずなのだけれど。


 馬鹿みたいな量があったはずだ。

 ユッカだったら一人であれだけの量を消費しろと言われたら、間違いなく一か月やそこらで消費は無理そうな程。

 そうでなくても自分が知っている野菜や果物のサイズから更に巨大化しているのだ。

 リンゴ一つがスイカのようになっている時点で、一度に食べきれるわけもなく。


 サクランボやビワのような小さめ果実も中には紛れていたが、それだって大きめサイズのメロンくらいになっているのだ。一口サイズなどではない。


 それを全て食べた、というナナイの言葉をすぐには信じられなかった。


 ついでに視線を少し下におろしてナナイの腹部を見てみるも、満腹でお腹が膨れているという風にも見えなかった。そのせいで余計にナナイの言葉をすんなり信用できなかったのである。


「えっ、ホントに食べ……えっ? お腹苦しくない?」

「まだまだ余裕であります」


 けろっとした表情で言っているので嘘ではないのだろう。


「そっかぁ……」


 ユッカの脳内にピンク色の吸引力の変わらないまるっこい某ゲームのキャラクターが浮かぶ。

 見た目は一切かすりもしていない。共通点だってないはずなのに何故だか背後にカー〇ィさんのスタンドが見えた気がした。ついでに脳内で星の〇ービィのBGMが流れ始める。初期のソフトのデータがよく消えて毎回最初からプレイするのが癖になった事もあったな……じいちゃんが、とどうでもいい思い出も浮かんできた。


「とりあえずホントに大丈夫みたいね……いや、大丈夫って聞いてはいても正直信じ切れないっていうか……これはもうどうしようもない業みたいなものだと思うしかないんだけど……」


 食に関してユッカの国の人間は皆こだわりがあるので。

 皆が皆強いこだわりを持ってるとは言わないけど、譲れない部分は確実に持ち合わせているので。


 だがしかし大丈夫であるというのなら、これから先積み上げられた作物を見たらナナイに食べてもらうだけではなく、リュックの中に収納する事も選択の一つとして存在する。

 大丈夫かどうかわからないうちに入れるのはなんていうか……呪われた品をしまうみたいな感じがしてちょっとどころじゃなく遠慮したかったが、問題がないなら収納するのもそこまで抵抗はなくなってきた気がする。


 ともあれ道が開けたので、移動を開始する。


 道中でナナイに「アドニ地区ってどんなとこ?」と聞いてみたが、怪獣が跋扈しているところだと言われて正直戸惑いしかなかった。

 魔物じゃなくて怪獣なんです? 魔物と何が違うん?

 首を傾げているとロゼに、独特の生態系を築く地区もあるからね、と言われてしまった。


 つまり大怪獣どころか宇宙人みたいなのがいる地区もあるって……こと? と思ったが、宇宙人についてこの世界がどういう理解の仕方をしているかはわからないので「すごいんだねぇ……」とだけ言っておいた。

 もしかしたら地底人とか海底人とかそういうのもいるかもしれない。

 期待していいのか恐れるべきなのかはユッカにはわからなかったけれど。



 ともあれ、そんな風に世間話をしながら移動を続けていくうちに。


「あれじゃないかな、町」


 ロゼがユッカの肩の上で姿勢を正してピンと背を伸ばし、遠くを見ながら言った。


「どれ? えーっと……あ、あれね」

 ユッカも気持ち背伸びしながら遠くを見れば、確かになんというかそれっぽいものが見えた。


 最初に立ち寄った村に比べれば大きめで、建物も村と比べてそれなりにあるのが見える。

(というか、村は日本昔話に出てきそうな感じだったのにあっちはなんていうか……西洋の童話に出てきそうな感じの町だなぁ)


 世界観どうなってんの? と聞きたいが、そもそもこの世界の世界観ってなんだろう? という疑問に行きついてしまって結局ユッカはそれ以上考えるのをやめた。


「町が見えてはいますが、ナナイとしてはそろそろ夜を明かす準備をする事をお勧めするであります」


 町が見えた事で気持ち急いでそちらに向かいたいところだったが、しかしナナイが足を止めそんな風に提案してくるものだから、思わずユッカも足を止めてしまった。


 言われてみれば、この地区についてから結構な時間が過ぎている。

 それでなくても移動し続けて疲れてきたし、何よりほぼ食事をマトモにとってすらいない。

 最初の時点で怪しさしかなかったから食べないぞ! という気持ちで我慢していたものの、疲れを自覚するとなんだかもう歩きたくなくなってきたし、お腹も空いてきた。


「そうですねぇ、このまま無理に進んでも到着する頃にはかなり遅い時間になっているかと。

 それに……あの町が安全である保障はない」

「はい、話を聞く限り御使いというのが常にいるとも限りませんが、夜間に逃げ出そうと考える住人を見張るなどしている可能性はあります。

 であれば、こういった何もない場所の方が夜間は安全である可能性もあるとナナイは判断します」


「でも魔物もいるわけでしょ? 町も外も変わんないんじゃない?」

「いいやユッカ、もしかしたら町の方が危険かもしれないよ」

「どうして?」

「御使いが連れていた魔物がいただろう。あいつらは鎖でつないで使役していた。

 普段から野に放っているとも考えにくい。

 倒した後に仲間を呼んでたから、遊撃隊みたいに自由行動させてる個体と、つないで見える場所で飼育している個体とがいると考えて……巡回させてる魔物も縦横無尽に各地を移動しているわけでもないだろうし、見張りのルートとかがあるかもしれない。

 そういうところで見つかってしまって戦闘になるにしても、その場合仲間を呼びやすい場所になると思うんだよね」


「町にしろ外にしろ、仲間が呼びやすい場所にいる、って考えかな?」

「そう。でもこの辺りはちょっと道からそれたら樹木で移動するには向いてない感じだし、隠れるだけなら打ってつけだ」

「そういうところこそを探される気もするけど……いや、でもこんな場所に逃げても仕方ないか」

「そういうこと」


「それにご安心ください、ここで休むのなら、ナナイが夜警をするであります。

 幸いにして先程空腹も解消できたので、見張りもばっちりこなせるでありますよ」


「本人がそう言うのなら、いいんじゃないでしょうか。

 どうでしょうユッカさん、僕たちもそろそろ休まないといざという時マトモに動けなくなるかもしれませんよ」


「それもそうだね……うん、じゃあ今日はここでキャンプかな」


 キャンプといっても火を熾したりはしない方がいいだろうけれど。

 とはいえ暗くなると視界もほぼ見えなくなるので、ロゼにほんのり自分の周辺を照らす魔法くらいは使ってもらう事になるかもしれない。


 周囲の警戒はナナイに任せ、ユッカたちはフラワリー地区で購入した携帯食料を胃の奥へと流し込んで早々に眠る事にした。

 テントは目立たないよう草木が生い茂った近くに設置した。大きめの葉っぱが落ちていたのを拾ってテントの上にくっつけて、上空から見てもテントと気付かないよう誤魔化しておいたので、仮に夜に御使いが飛び回るような事をしていても簡単に発見されたりはしないだろう。


「本当に大丈夫? ナナイ」

「お任せください、何かあれば起こしますが、何もなければ朝までしっかりと休んで下さいね」


 そう言われてしまえば、途中で起きて見張り交代するよ、とも言いにくい。

 いや、言ったところでその場合警戒するのはロゼなので、ユッカは役に立たない。


「わかった。それじゃあおやすみ」

「はい、良い夢を」


 焚火があるでもない状態で、ロゼの魔法でふんわりと照らしていたけれど、その魔法も発動をやめてしまえば周囲はあっという間に暗闇に包まれた。

 ナナイが休もうと言い出してから、テントを出して簡単な食事を済ませて……というところまでそれほど時間は経過していないのに、あっという間に夜が訪れていたのだと、今更のように自覚する。


「ロゼも、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


 寝台に横たわり寝る前の挨拶をして。


 思った以上に疲れていたのだろう。

 ユッカの意識はその直後にはなかったのである。お休み三秒どころの話じゃなかった。

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