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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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ナナイ加入



「うっそだろオイ……」


 空を見上げ、もう一度ナナイを見る。


 えっ、どっから落ちてきたのこの子……

 思わずそんな呟きが口から零れ落ちる。


 いやだって、相当な高さから落ちてきたよ……?


 空の遥か彼方からすっごい勢いで落ちてきてたよ……?


 普通だったら死んでる高さだ。


 ユッカであれば間違いなく死んでいる。

 護りの魔法がとかそんなものがあっても死んでる高さじゃないだろうか。護りの魔法があるなら大丈夫と言われてもじゃあちょっと試してみるねとは絶対に言えないし言いたくない。

 それくらいの高所だったはずなのである。


 だというのに本人は受け身を取り損ねたとのたまった挙句無傷。


 おかしい。どうかしている。


(異世界……ッパねぇぜ……)


 えっ、ちょっと待ってもしかして他の人たちもこんな……?


 これがデフォルトなのか? なんて考えて、しかしそうではないと思い直す。


 だってこのククルビタ地区で出会った村人たちはそこまで頑丈そうではなかった。

 ロゼが魔法で吹っ飛ばせるロゼ曰くそこまで強くはない御使いにですら抵抗できずに殺されるような人たちだ。

 ナナイみたいに頑丈だったらそもそも殺されていない。そう言い切れる。


「ていうか受け身取り損ねたならそこはせめて足を挫くとかなんか小さい怪我の一つはしておこうよ。受け身取り損ねても無傷とかどうかしてるってばよ……いや、怪我してないのは何よりなんだけどさ」

「怪我をしていてほしいのかしてほしくないのかどっちなんでありますか」

「心情的に怪我がなくてよかったけどめっちゃ高所から降ってきておいて無傷はねぇだろって気持ちが両方存在してるんだわ。複雑な乙女心に近い何かだと思って」

「成程。そうでありましたか」

「いや納得しないでそこ」


 素直に受け取られるのもなんだかとても微妙な気持ちである。

 じゃあどういう反応を返せばよかったの? と聞かれるとそれはそれで物凄く困るのだが……


「ねぇホントにちょっと聞きたいんだけど、ナナイは一体どこから降ってきたの? この上ってめっちゃ高い崖とかそういうのない所だからね!? 空にお城でも浮いてたとかそういうやつだったりする?」

「空にお城、でありますか?

 それはなんともメルヘンでありますね」

「あっ、そういう認識なんだ……」


 きょとんとした表情から朗らかに微笑まれて、ユッカの心の柔らかい部分に何かが刺さった気がした。

 いやそのメルヘン認識されたところにちょっと前までいたんだよ、実際はメルヘンの欠片もなかったけどな! と言いたい気持ちと、ナナイがそう思ってるなら夢は壊さない方がいいのかなぁ……という気持ちである。


「おや? 周囲の景色がなんだかすっかりと変わって……念のため確認しますが、ここはどこでありますか?」

「ククルビタ地区だけど」

「なんと」


 驚いたような声をあげて、ナナイは上空を仰ぎ見た。


「あー……突き抜けたでありますか……」

「突き抜けた、って……?」


「ナナイは先程までアドニ地区におりました」

「えっ」

「そしてそこで大怪獣ガルルガゴンと戦っていたのであります」

「なにて?」


「大怪獣ガルルガゴンであります」

「あ、うん、そこを復唱してほしかったわけじゃないんだけど。続けて?」

「どうにか勝利しましたが、奴は死の間際自爆して、ナナイは爆風にあおられ崖から転落し……アドニ地区を突き抜けてこのククルビタ地区にどうやら落ちてしまったようでありますね」


「……ロゼ、どういうこと?」

「あー、これはあんまりない事ではあるんだけど」


 思わず小声ではあったがどういう事かとロゼに問いかける。

 それに対してロゼもまた、どこか戸惑った様子だった。


「地区から他の地区へ移動するのに転移装置を使うのが普通ではあるんだけど……使わなくても移動は可能だったりするんだよね」

「そうなの?」

「ただ、陸続きってわけでもないから当然危険が伴う。

 地区の最果てから落ちてその下に運よく他の地区があればいいけど、まぁ相当な高さだから落ちて無事でいられるかはわかんないし、真下に地区がなければこの世界を突き抜けてどこか別次元に至る可能性もある。実際は知らないけどね。多分途中で死ぬんじゃないかな。

 ともあれ上から下、ではなく飛べるのであれば下から上に移動も可能だけど、ルボワール地区のクークラの城を考えたら、その更に上に行かないと他の地区へ行けないのはなんとなくわかるだろ?」

「アレも相当な高さだったけど」

「あぁ、だからその手の方法は現実的ではない。

 上下じゃなくて横同士、隣接する地区へ移動するにしても……それぞれの地区は常に移動していたりするからね……かなりの頻度で移動しているところもあれば、ゆっくりと移動してるところもあるから移動は不可能ではないけれども……でもそれだってやっぱり安全とは言い難いかな」


「たとえばそれって、二頭の馬を用意して、片方の馬に乗った状態で各々好きに走らせつつ、走ってる状態でもう片方の馬に飛び乗るみたいな……?」

「それをもっとずっと危険な感じにしたようなやつだと思ってくれていいよ」

「教えてくれてありがとう、絶対やらないし移動は転移装置使うわ」

「それがいい」


「でもさ、落ちてきたっていうわりに上見ても地区らしきものは見えないよ?」

「そういうものだよ。たとえ上に見えたとしても、その影が下の地区を覆う事はほぼない」

「あぁ、そういう……」


 距離的にとても近い状態で上にある、とかならもしかしたら影で下の地区が暗くなるのかもしれないが、そうはならない程度に距離が開いているというのなら。


 天体のようなもの、と考えていいのだろうか。


 星空だってパッと見は距離の違いがわからないのと同じように。


「って、それじゃあナナイはそのアドニ地区から落ちて、運が悪かったらアウトだったって事じゃん」

「どうにかなったであります」

「そんな結果良ければ全て良しみたいに……確かに今回はそうだけども」


「それでナナイさんはこれから先どうするおつもりで? アドニ地区へ戻るのであれば、今現在この地区では転移装置が使えない状況にありますので……帰還するにしてもすぐは難しいかと」


 一通り会話が終わったと判断したのかディオスが話に入ってきた。


「いえ、別に戻る必要は特にないのでありますが……

 ともあれこの地区で何が起きているかを聞いても?」


 今更のように周囲を見回すナナイが、積み上げられた野菜や果物に思わず目を瞠る。


「えーっと、なるべく手短に話すけれども……」



 ――かくかくしかじか。


 そんな感じでザックリとこの地区に来てからの事を話せば、ナナイは「成程……」とわかったのかそうでないのか微妙な反応をして、それから積み上げられている作物をあらためて凝視する。


「確かに何らかの魔力が含まれているようではありますが、それも微量。

 魔力汚染を危険視するにしても、魔力抵抗の低い者が短期間で大量に摂取するとしてもこれは……難しいのではないでしょうか」

「何らかのっていうのは元々含まれているものと異なってる感じで?」

「えぇ、そのようであります。

 聞けばこの作物は本来の作り方でできたものではなさそうなのでしょう?

 意図して込められた魔力を感じ取れはしますが、本当に微量すぎてこれで何かを仕組んでやろう、とするには無謀すぎるかとナナイは愚考するであります」


「えっとー、じゃあ、これ食べても身体に悪い影響とかは……ない?」


「はい。魔力抵抗が極端に弱い者が食べたとしても、短期間で大量に摂取しない限りは問題はないはずでありますよ」


「見ただけでわかるものなの?」


「魔力感知が得意な者なら大体は可能かと」

「そうなんだ……」


 魔力感知も何も、というユッカは言われた言葉の意味をざっくり理解する事はできても、じゃあ実践してみようと言われたならばさっぱりである。

 ディオスやロゼも大丈夫、とは言ってたけれど、しかし二人はなんていうか強者側に位置してそうなのでその大丈夫は自分たちなら大丈夫だけど他は知らないよ、の可能性も捨てきれなかったので。


 いかにも魔法が使えますよ、という見た目ではないナナイも魔力感知が得意というのは少しばかり意外ではあるものの、敵討ちのために一人で各地を移動しているような相手が手練れでないはずがない。


「ちなみに短期間で大量に摂取、の目安はどれくらいになりそうとか、わかる?」

「魔力抵抗が極端に弱い者の場合なら……そうでありますね、精々一時間に自分と同じ体重くらいの量、とかでありましょうか」

「無理じゃん」

「魔力抵抗が低くもない通常、もしくは高い者ならもっと沢山摂取しないと悪影響は出ないかと」

「普通の人はまず自分の体重と同じ分だけとかそれ以上を一度に摂取とか無理なはずなんだわ」


 なんだ。

 じゃあ、本当に問題はないのか。


 あの御使いたちが村人にノルマを課して時間制限してまで食え食えとやってたから、もっと何かあると思ったのに……


 気にするべきは食べきれなかった時の事と、食べ過ぎでお腹を痛くする部分だろうか。

 あの作物のせいで悪影響が、とかそこまでを気にする必要はこれっぽっちもない、と三人に断言された事で、ようやくユッカも安心できた。


 これが一日かけて、とかであればまだしもナナイの証言を信じるなら一時間で自分と同体重の量を摂取だ。フードファイターでも正直無理だと思う。

 テレビで見る大食いチャレンジは大体一時間以内で総重量5キロのカレーとか、そういうのなので。それでも完遂できない人もいるのだから、人ひとりの重さをざっくり50キロ前後と考えたらもっと無理だ。


 村の人たちもノルマを課せられたとはいえ、無理矢理口に食べ物を詰め込むような事はしていなかった。

 無理に詰め込んでも吐き出したりするかもしれない事を考えたら、食べられる時に食べられる分を……となったのだろう。


「とりあえずナナイはこれから皆さんと同行したいと考えているのですが……よろしいでしょうか?」

「それは、うん。全然構わないよ。むしろ一人は危ないと思うし」


 そんな風にこたえたものの、いやでもこの子一人で大怪獣とかいうのと戦ってたんだよな……一人で全然大丈夫なのでは……? とユッカの脳内は冷静に突っ込んでしまったものの。

 けれどもだから一人で行動して、というのもあまりにも酷。


 正直この地区で起きている事に関しては、ユッカたちもナナイもどちらもほぼノー知識。

 別行動して後で合流して情報のやりとりを……なんてできるかも疑わしいし、だったら最初から一緒に行動した方がいいような気さえしてくる。


 ユッカとしても戦力が増えるのなら頼もしい限りなので。

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