心臓に悪い再会
今はまだしも、この地区に長く留まるようならいずれはこの地区の食料に手をつけるしかなくなる。
そうなる前にこの地区で起きた出来事を解決できればいいけれど、恐らくそう簡単に事は運ばないとユッカは考えている。
手をつける事になるにしても、その前に本当にここの食料が安全だってわかればいいんだけど……と、自分の世界の食料の安全基準の高さに思いを馳せながらも周囲を見回す。
所々に塔のように積み上げられた野菜や果物が嫌でも目に入る。
塔、といってもクークラの城へ向かう時のような、あんな高さはない。
精々が電柱くらい――いや、それよりはもうちょっと高いかもしれない。
太い柱と言った方が適切かもしれない、とは思ったものの、野菜や果物の巨大さ故に柱というより塔に見えてしまうのだ。
しっかりと積み上げられたそれは、中が空洞なら間違いなく人が入り込めそうなもので。
(ま、入ったところで身動きは自由にとれないだろうけど)
一瞬想像して、うっかり笑いそうになる。
道の端々だけではなく、それ以外のところにも積み上げられているらしく木々が並んでいる向こう側にも所々カラフルな色合いが見てとれた。
「これさぁ、なんでこんな風に積み上げられてるんだろうね?」
「畑で収穫したやつを集めて、とは違うよね」
「だとしたら普通は村で採れたなら蔵とか、保管庫とか、ともあれそういうところに置くはずじゃないの?」
生憎ユッカは農家のあれこれを詳しく知らないので想像である。
ただ、ゲームなどでも村で自給自足してそうなところでは、畑の近くに収穫物を置くための小屋みたいなのがあったりするので、言ってることはそこまで見当違いでもないだろうと思ってはいる。
「作物が巨大化したなら、仮にそういった小屋があっても入りきらなくなったと考えるのが自然でしょう」
「それもそっか」
「ですが、だからこういったところに積み上げるというのは……」
ディオスが言葉を途中で切って、止まれとばかりに手で制してきた。
何かあった、と察してユッカも口を閉じる。
そうして適当な木の陰に隠れるように移動してみれば、御使いが飛んでくるのが見えた。
そうして一つの積み上げられた野菜の所までやってくると、何やら魔法を使ったのかそれらが一斉に浮かび上がる。
ふよふよと浮いたそれを牽引するように御使いはどこかへ飛んでいった。
「答えが出てしまいましたね」
それを見送って、ディオスは謎は解けたとばかりに呟く。
(な、なんかあの光景見た事ある~~~~)
そしてユッカは今しがた見たものが、以前にもあったような気がして思わず内心で叫んでいた。
あれは……なんだったか、そう、UFOだ。実際に見た事はないが、ゲームの中では見た。
UFOが牛とか捕獲して飛び去っていった時のやつ、と思い出して、確かにあの御使い餓鬼にしか見えないけどまぁ宇宙人って言われたらそう見えなくもない……か? と思考を少しばかり明後日の方向へ飛び立たせて。
「あぁして積み上げたのも御使いである、と考えれば納得はできなくもありませんね」
村人たちがせっせと積み上げる光景は想像できなくても、御使いならやっててもおかしくはない。
むしろああして定期的に各地に食料を運んでノルマだ食え、とやっているのだろう。
「そのうちこの地区ああした野菜や果物の柱みたいなので埋め尽くされると思うんじゃないかなって思ったけど、こうやって周辺見る限りはまだそこまでではなさそう……かも?」
ノルマが達成できずみせしめで殺されていく、と村人たちが言っていたが、それでも村の住人たちの数はそれなりにいた。
であれば、この地区がこうなったのはまだそこまで時間が経過していないのかもしれない。
だがこのまま放置していれば、いつかはこの地区は収穫物で埋め尽くされるかもしれないわけで。
この地区の住人が全て死んだ後、作物は果たしてどうなるのだろう?
今は畑ですくすく育っていると村人も言ってはいたけれど、それは育てているから育っているのか、それとも村人たちが一切手をかけずとも勝手に育っているのか。
育てる者がいなくなった時、御使いたちも仕事を終えその場で死ぬとかであれば、少なくとも被害はそれ以上広がらないと考えられるけど。
もし住人がいなくなった後で御使いたちが今度は作物を育て始め、そうして他の地区へそれらを運ぶような事になった場合は……
(どうなんだろ? あの御使いそんな強くなさそうだから、他の地区だとあれに余裕で対抗できる人はいるかもしれないから、無理矢理食べろって押し付けはしないだろうけど……他の地区で食料を生産してるところはいい迷惑だろうし、仮に消費されないままだとしてもそこに不法投棄を続けられたらやっぱり迷惑だし……)
他の地区に進出しないでここで朽ちていくのが一番いいような気がしてきた。
勿論それはユッカの願望であって実際にそうなると決まったわけではないので、思ったからといってどうなるものでもないけれど。
「運ぶ先があの村ではなさそうなので、他の町や村ではもっと大変な事になっているかもしれません」
「まぁありそう」
とりあえず飛んで行った方向はわかったので、そちらへ進む事にする。村人たちに教えてもらった周辺の町や村の位置とも御使いが飛んで行った先はそう大きく外れてはいなさそうであった。
だがしかし。
「み、道が塞がってる……!」
村の人たちに教えてもらったルートでは通れるはずのそこは、しかし残念ながら塞がっていた。
巨大化した果物が積み上げられて完全封鎖である。
食べ物をそんな事に使うんじゃない。そう言いたいが、言ったところでこの場には御使いも誰もいない。
「乗り越えるにしても流石に無理がありそうな高さだし……かといって魔法で吹っ飛ばすのも御使いならまだしも食べ物にそれはちょっと」
食べ物は粗末にしちゃいけません、という教えがユッカの中に根付いているので、流石に物理的にぶっ飛ばすのは本気で躊躇われた。
かといって、道から外れて進もうにも、そちらは木々が乱立している。
人の手が入ったなら等間隔に木々が離れていたりしていたかもしれないが、しかし自然に任せた結果本当に無秩序レベルで存在しているのだ。
木々の間を通り抜けようにも、ちょっと無理そう。
低い位置からも枝が伸びているせいか、油断してたら顔や頭に命中しそうだし、そちらを注意していたら土から少しばかり盛り上がった木の根っこに足を取られそうだし……
身動きがとても取りづらいところを移動中にうっかり御使いと遭遇するような事になれば、流石にピンチに陥るかもしれない。
そうでなくとも森の中で魔法を使う場合、火事が怖いので使える魔法は限られてくるだろう。
「えー、どうしよ、一度引き返して別の道探す?」
「その方がいいでしょう」
「そうだね、流石になんでもかんでも魔法で吹き飛ばすわけにもいかないし」
「それやったらロゼの消耗がとんでもない事になるでしょ。道を塞いでるのが一つの大岩だけとかなら頼むかもだけど、ここでそれは……ん?」
「どうかした?」
「いや、なんか上から落ちてきてる気が」
他にどっか、行けそうなルートはないものかと周辺を見回した時にふと上に何かが見えた気がして、ユッカはそのまま顔を上げていた。
そうして見えたのは、黒い影である。
遥か上空から近づいてきているそれは、また御使いかと思ったがしかしどうにも違う気がする。
まっすぐに、一直線に大地をめがけて――
「あ」
飛んでいるのではない。
落ちている。
高所から落ちてきているのだ。
そう気付いた時に、ユッカは大変だと思ったし助けなければとも考えたけれど。
でも、一体どこから落ちてきたの? という疑問がちらついたせいで思わず更に上を見上げていた。
クークラの城のように上空に何かがあるとでも……?
そんな風に思って一瞬、落ちてきている人から別の事に意識が向いてしまった。
人が落ちてきている、という非現実的な事を受け止めきれなかったのかもしれない。
ユッカが限界まで首を傾けて上を見るせいで、ロゼも肩からずり落ちそうになって「わっ」と小さな声を出した。
「おや、あれは……」
そしてディオスも同じようにそれを見て。
どごぉん!
何かを言うよりも先に、とんでもない速度で地面に激突したためかゆっくりと地面へ視線が移動する。
「あっ」
助けなきゃ、とか思ってたのになんか思った以上に速すぎる落下速度で何もできなかった。
目の前で飛び降り自殺を見たようなものだ。
絶対無事でいるはずがない。
そう思いつつも、それでもユッカは恐る恐るそちらへ視線を向けた。
ところがそこにあったのは潰れたトマトのようになっている死体でもなんでもなく。
「いっ……たたた……受け身を取り損ねたであります」
落下時の衝撃で思い切りへこんだ地面から這い出ようと――
「ナ……ナナイ!?」
身を起こした姿を見て、ユッカは驚きでひっくり返りそうな声で彼女の名を呼んだ。
ローザの家が崩落した時に遭遇し、そうしてフラワリー地区で別れたはずの少女ナナイが。
「あっ、お久しぶりであります!」
無傷でそこにいたのである。




