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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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食の安全性



 村に戻っても特に他の御使いが大挙して押し寄せ村人を虐殺……なんて事にはなっていなかったので、ユッカは無事な姿を見て思わず安堵していた。

 だがしかし、この村に来た御使いを倒した後、転移装置の近くで三体程倒している。

 この時点でユッカたち一行が仕留めた御使いは四体。

(正直四匹って言いたいけど……いやもう数の数え方は今はいいんだ。問題は……)

「他にも御使いがいる以上、他の御使いがこっちの村の様子を確認しに来る可能性があるって事だよ」


 そう言えば、村人たちの表情は明らかに曇った。

 まぁそうだろう。

 御使いがアレだけなら、もうあいつは来ないと喜べる。

 けれども他にいるのなら。


 そういやあの村担当してるあいつ、姿見ねぇなぁ……

 あっ、じゃあちょっくら確認してくるわ。


 そんなノリで他の御使いが様子を確認しに来ないとも限らないのだ。


「来るかもしれないし、来ないかもしれない。現時点どっちか、ってハッキリ言いきれない状況なんだけどさ。

 その、この村以外のところに別に村作るとか、そういう大掛かりな事はできそう?」


 他の町や村に避難しようにも、そっちには御使いが普通にいると考えればそちらに行くのも危ぶまれる。


 何? あの村から来た?

 あの村の担当どうしたよ?


 なんてそっちの町や村を担当している御使いが思った時点でアウトだ。


「ブチ倒したこっちが言える義理じゃないけど……身を隠す、っていうのはできそう?」


「元々ここに出る魔物相手なら、皆で力を合わせればなんとかなるけどよぉ。

 けんど御使い様が連れてる魔物、ありゃ駄目だぁ。

 あれはオラたちが束になっても敵わねぇよ」


「そっかぁ……あれも倒したらなんか仲間呼ぶしな……皆を連れて他の地区まで運ぶのも、正直ちょっと微妙な気がするんだよねぇ……」

「おや? 何故です」

「だって、そうやって逃がした後で、この地区に残った他の人たちに御使いが何もしない、って言い切れないでしょ。逃がすなら全員を一度にやらないと残された人が危険」


 あいつらが逃げた以上お前らもいずれ逃げ出すつもりだろう、なんて言って先んじて滅ぼす可能性はゼロではない。

 そう言えばディオスも「確かにあり得ますね」とあっさり納得した。


「食べ物はあるから、時間をかけて御使いとか全部倒すにしてもどんだけ時間がかかるかわかんないし……」


 御使いや御使いが使役してるであろう魔物がどれくらいいるのかがハッキリしていれば、まだ作戦の一つも立てやすくはあるけれど。

 この地区に来たばかりのユッカたちがそんな事は知るわけもなく。

 かといって村人たちもそれについてはさっぱりな様子だった。


「……よし、とりあえずこの地区を調べる事にするとして」


 数秒悩んだ結果、ユッカはそんな風に声を絞り出した。

「私たちはここを去る。で、他の町とか村とか調べる。

 正直言ってあの御使いが何を目的としてるのかもよくわかんないし」


 村人たちの話を聞いて、一応番人的な役目なのだろうなとは思っても、なんていうかこう……本末転倒というか、何かズレてる感が半端ないのだ。


 作物が育たなくなりました。それを旅の人が解決してくれました。

 ここまではいい。

 けれどもその解決法がいまいちよくわからないし、育つようになった作物は前と違って巨大化している始末。

 作物の巨大化に関してユッカとしては別にそこまでおかしいとは思わないが、あくまでそれはその部分だけであって、前提初っ端から考えるとおかしすぎる。

(遠い未来で食糧難になるかもしれない、って考えた結果品種改良でどんな環境下でも育ちやすくするとか、環境変化に左右されない丈夫なやつとか、そういう方向性の改良とかとセットで、育てる土地に限りがあるなら作物はせめて大きくして可食部分を増やそう、みたいな研究もあったはずだしね)


 ユッカの世界でもそういう話が出てはいるので、ここでそういった解決法が出ても何もおかしくはない。


 ただ、作物が育つようになったものの、それらを全て自分たちで消費せよ、というのは裏しかないように思えるし、食べ物を粗末にしないように見張りとして御使いを置いていくというのもおかしすぎる話だ。

 しかも制限時間を用意してこの期間内に消費できなきゃ見せしめで殺されるとか、何がしたいのかさっぱりである。


 人が死んでもノルマの量が減るわけでもない時点で、むしろ最終的に殺すつもりしかないように思えてくる。

「とりあえず村の皆には気を付けてとしか言えない。

 いっそこの村を担当してた御使いはどうした、って他の御使いに聞かれたら、真実の愛を見つけたとか言ってどっか行ったって言っておいて」


「真実の愛?」


「理由はなんでもいいの。どうせ貴方たちは空も飛べないし、走ったところで御使いから逃げられる程素早くもないんだから。わけがわかんないうちに飛び去っていきました、で納得させろ」


 暴論だろうと何だろうと、こちらは引き留める隙も何もなかった、でごり押すしかない。

 御使いの死体が転がっていたら嘘だと早々にバレてしまうが、既にない以上誤魔化しようはいくらでもある。


 仮に御使いを倒したのではないか、と思われたところで、この地区の住人たちは畑を耕したりするのは得意でも戦闘は不得手であると知っている以上、そんな疑いを持ったところで確信に至るまではいかないだろう。


「外部から来た誰かがやった可能性を御使いが気付くかもしれないけど、その時は……まぁ、私たちの事は言ってもいいし言わなくてもいい」


「えっ、けどよぉ、黙ってた方がいいんじゃねぇのか?」

「貴方たち嘘は得意?」


 相手を騙しきれる嘘が吐けるならそれでもいいが、下手に「し、知らねぇだよ……」なんて目を泳がせまくったり声をどもらせた状態で言おうものなら即嘘がバレてしまう。

 そうなった場合素直に吐けとか言われて最悪拷問して情報を吐かせる、なんて事になるかもしれないのだ。

 色んなドラマや映画で見た流れである。


 そこら辺を踏まえて伝えれば、村人たちは「確かに嘘は得意じゃねぇだな」なんて納得した。


「御使い失踪に関しての嘘はこっちもわけがわからなくて……みたいな戸惑いを前面に出せばいけると思うけど、外から来た誰かについて聞かれたら見かけた、くらいの話を出して他の場所に行ったみたいだ、自分たちはそれ以上知らないって答えてくれればそれで」


 実際これから他の町や村を目指すのだから、嘘でもなんでもない。

 こうやって話をした内容まで全部伝えられると困るけど、八割本当の事を話しているならそこだけ嘘が含まれたところで、まぁ誤魔化せるだろうとユッカはみている。


 嘘を吐くなら真実を混ぜろ、と言われているアレだ。

 今回に関しては逆で、真実を話しつつも一部嘘を混ぜるわけだが。


 ともあれ、村人たちに別れを告げてユッカたちは出発した。


 村の人たちが近場の町や村とはやりとりをしていたので、方角だけは教えてもらったのもあって手がかりゼロというわけではない。


 そうして進む事しばし……


「ところでこの含みありまくりな食料って本当に食べても大丈夫だと思う?」


 結局村人たちに縋りつかれるようにして差し出された時、ユッカたちは一口も料理を食べなかった。


 食べる食べないの問答をするよりも先に御使いが来てしまったというのもあるが、仮に御使いがあの時まだ来なかったとしても、ユッカは食べるつもりはなかった。

 だって怪しいし。

 無いとは思うが毒とか入ってる可能性だってあの時点では想像できたのだから、事情もわからずいきなりぐいぐい食べろ食べろと圧をかけられても、身の危険しか感じられない。


「問題ないとは思いますよ」

「そうだねぇ、魔力の流れも別におかしくないし」


 ディオスとロゼがそれぞれの見解を述べる。


「食べたら呪われるとかそういうのもなさげ?」

「呪いって……そういったものもないよ。ユッカは心配性だなぁ……」


 ロゼが呆れたように言うけれど、こちらからすれば理由も原理もさっぱりな状態で巨大化した野菜や果物だ。魔法的な力が含まれていたって何もおかしくはないし、魔法じゃなくたって呪いとか普通にありそうではないか。


「じゃあ、別パターンも出すけど、本当にこれは食料なの? 実は別の生命体とかそういうのない?

 食べたらなんか寄生されてとかそういう」


 ユッカがこの世界に召喚された時にもうっすら考えた黄泉戸喫みたいなのがあるかもしれない。

 もしくは……

(某ゲームで、一見すると果物っぽいけど実は虫の卵でそれ食べると人類卒業とかそういうのあったもんな……ここが一見底蟲村っぽい雰囲気とかそういう名前だったらアウト)

 生憎とここはククルビタ地区という名称なので不吉さはそこまで感じられないから、大丈夫だと信じたい気持ちはあるけれど。


(や、でもなぁ。ククルビタってどういう意味? ククルが括るとかそっち系の意味だったら不吉さはアップなんだよね)


 だがしかしククルビタってどういう意味? とこの場でロゼやディオスに聞くのも躊躇われる。

 地区としての名前に意味があるのか、それとも音の感じで作られただけの特に意味のない言葉なのか。


 仮に意味があったとしても、この二人も名前の由来なんて知らない可能性もあるわけで。


(その質問をしてそっちで頭を悩ませる状況でもないんだよね~)


 考えるべき事はもっと他にあるだろう。

 ユッカの脳内の冷静な部分が自分自身にそう突っ込んでいるし、ユッカ自身もっともだなと思ってしまう。


「大丈夫って言われても心情的になぁんかヤなんだよね」

「わからなくもない」


「そこら辺は人によりけり、ですね」


 どう考えても訳あり食材。

 村を出てそれなりに歩いているが、道中に塔のように積み上げられているのだ。

 普通に考えれば、こんな風に無防備に置いて誰かに盗まれたりはしないのか、とか考えてしまいそうだがしかしあの村の様子を思い返すに、むしろ盗んでくれるなら盗んでそっちで消費してくれ、というのが容易に想像できた。

 誰かが勝手に消費すれば、少なくともこの地区にいる住人たちのノルマは少しとはいえ減る。


「てかさ、食糧難とか言われてたけど、それが解決したとはあの人たち言ってなかったよね」


 思い返しついでに聞いた話を整理して、そういえば、と遅れてその部分に気が付いた。


「作物が育つとはいえ、それらは自力で消費しなければならない。外に売りに行く事もできず、また育つようになったとはいえ巨大化していて、以前の作物としては育たない。

 表面上食糧難ではなくなったとはいえ、解決したと言うにはちょっと……というところだからでは?」


「まぁ確かにね。村の人たちが言ってたダミアンって旅人が何をしたかにもよるもんな。

 自分たちだけで消耗し続けてる間は豊作だとか、そういう謎の制約が働いてるとかもありそうだし」


 昔話とかでもありそうな感じではなかろうか。

 自分のために消費している間はいいが、それを売りに出して富を築き始めた途端駄目になるとかそういうやつ。

 そのままドンピシャな話はユッカにはすぐ思い浮かばなかったが、少しばかり状況を変えて見方を変えたらそういう話の童話とかありそうな気がしている。


「呪いでなくとも制約としては有り得そうですね」


 ディオスもユッカのそんな思い付きの発想に、なくはない、と返してくる。


「あとさ、これ、今はこの地区の皆で消費してるとはいえ、ノルマ達成できなかったら見せしめで殺されるんでしょ? じゃあいずれはこの地区の皆が殺される事になる。その時、じゃあ余った食料は? 増え続けるの?

 それともその後で何か別の事が起きたりするの?

 他の地区に進出とかないよねこれ」


 この地区内で消費し続けろ、と言っていたのなら他の地区に流れる事はないと思いたいが、しかしこの地区の人たちが全滅した場合はその限りではないようにも思える。

(そう、この巨大作物は侵略者で、この地区の住人皆がいなくなったら新たな狩場を求めて……いや、微妙だな。昨今SFでも流石に侵略者が野菜とか果物はないわ。そこはちゃんと異星人だったわ)


 だがしかし、考えれば考えるだけ謎である。


「それらも含めて調べるだけ調べてみようか」

 ロゼがそう言った事で、結局はそうなるよね、とユッカもそれ以上考えるのをやめた。


 食料の買い足しに来ただけのつもりが、ちょっと食材が怪しすぎて手を出したくない。

 当面はリュックの中にある食料で凌いでいくしかないか、と頭の中で大体どれくらいの日数もつだろうかと考えて。


(うーん、無理かも)


 中の確認をしてどれくらい食料が残っているかを把握しているユッカは、最終的にそう結論付けた。


 頑張っても一月くらいなら自前の食料でどうにかできるが、それ以上かかるようなら確実にアウト。

 いずれはここの食料に手を付けるしかない状況であった。

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