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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
一章 道しるべを探す旅

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思い出の重量



 動けるようになったクークラは、自分を留めようとする少女を邪魔だと思い振り払った。

 殺すつもりはなかったから、本当にただ振り払っただけだ。


 そうしてさっさとその場を離れた。


 気付けばローザがいるフラワリー地区から別の地区まで来ていたクークラは、ともあれフラワリー地区を目指したのである。

 しかし長い年月の間に周辺の地区は移動して、フラワリー地区はすっかり遠い地と化してしまった。

 それでもどうにかたどり着いて。


 記憶にある景色と違わぬ場所へ戻ってきて、クークラはローザの家へとやってきたのだ。


 だが、扉を叩く事はできなかった。

 聞こえてしまったのだ。ローザの呟きが。


 彼女は家の中ではなく庭にいた。

 そこにテーブルと椅子を用意して、どうやらお茶を飲んでいるらしかった。テーブルの上には本が置かれていて、天気がいいから外で読書をする事にしたのだな、とはクークラが見ても理解できる。

 けれど――


「はぁ、やっぱイシェルがいないと寂しいなぁ」


 課題はもうちょっと簡単なのにしておけばよかったかも。


 そんな風に続けて呟かれた言葉。


 ローザが今この家に一人なのはわかった。


 だが、イシェルとは一体。


 母親が戻ってこない事に寂しいというのなら、クークラもその気持ちに寄り添えただろう。

 ローザにとってもクークラにとってもマギサリュクレイアは母親なのだから。


 けれどローザの口から出たのはクークラにとって知らない名前で。


 クークラがいなくて寂しい、なら許せたと思う。

 けれどローザの中からはすっかりクークラの存在なんてなかったみたいで。


 許せなかった。


 今すぐこの場で乗り込んで思いのたけをぶちまけても良かったが、ローザは魔女として実力をつけてきている。昔もそうだったが、今はもっとだ。

 力を与えられたクークラにはそれがよく感じ取れてしまった。


 考えなしに突っ込んでいけば返り討ちにあって終わる。

 そう、理解してしまったからこそ。


 クークラは別の方法でローザに復讐しようと考えた。


 その結果が今に至るわけだ。


 自分の事を忘れてしまったのならば、何も知らないまま朽ちていけ。

 そんな思いで、クークラはしばしの間周辺の地区で力をつけて、そうして準備を整えた上でローザの家周辺を崩落させた。

 死んでしまった後の魂が残るかはわからないが、もし残るのなら、その後は自分こそがマギサリュクレイアの後継として名を馳せるその様を、物言わぬ魂だけの状態で眺めればいい。かつてただの人形でしかなかった自分のように。


 そんな思いで動いて、そうしてそのために、クークラの名を馳せるためだけに、ルボワール地区は犠牲となったのだ。準備から実行に至るまでに時間がかかったが、そんなものは些事だ。


 ローザの家周辺を崩落させたのは城にあった兵器である。それらの力を集めるために既にルボワール地区のほとんどが犠牲となってしまった。

 人は全て肉体を失い、意識は球体人形に移されてクークラの駒となった。


 あとはルボワール地区そのもののエネルギーを吸い上げて、それでフラワリー地区を落とせばクークラの復讐の狼煙は上がる――はずだった。


 だが実際はクークラはローザではないただの猫に負けて、その猫と共にいた小娘にお前の存在はもうみんなから忘れ去られると脅されて、そこでお前は完全なる死を迎えると言われてしまって。


 だから、最期に少しでも誰かの記憶に留まりたかった。傷痕というよりは爪痕を残したかったのかもしれない。


 最後に簡単に忘れるようなら呪ってやる、という恨み言を残してユッカに自らの記憶を見せた。猫に期待はしていなかった。確かに強い猫ではあるけれど、脳みその大きさから考えても期待はできなかったのだ。



 その猫こそが、ローザであるなんて気付きもせずにクークラは最期を迎えたわけだが。



 ユッカとしては驚きはしたけれど、まぁなんていうか。


(異世界版メリーさんって事ね)

 の一言で感想は終了した。


 捨てられた人形が持ち主の元へ戻ろうとする怪談系都市伝説。

 やってる事はユッカの知るメリーさんの話と違って相当物騒ではあるけれど、異世界だしな、の一言で終了である。


 クークラが己の思い出と感情全てを曝け出すべき相手は、脳みそ小さそうだし猫はなぁ……と思った相手であって、ユッカではなかった。

 ユッカの見た記憶を魔法でロゼにも見せる事はできたけど、ユッカのその異世界版メリーさん、というふわっとした感想のせいで二割ぐらいクークラの感情は薄まって伝えられたと思われる。


 だが、そんな事をクークラが知る由もなく。知っていたら最初からロゼに記憶を委ねていたに違いないが、結果は御覧の有様である。


 ロゼもまたユッカがそんな風に軽く受け止めた事なんて気付く事もないままに、クークラの記憶を受け止める。


「クークラの言葉に嘘はなかったみたいだね」

 マギサリュクレイアが母親で、ローザと一緒にいたのは嘘ではなかった。

 けれど――


「どうしてだろう。記憶を見ても、ちゃんと思い出せないんだ……」

 ロゼの声が震える。

「相当年数経過してるっぽいし、小さい頃の事って結構忘れてたりするからそういうもんじゃないの?」

「それでも、こんな風に見せられたらぼんやりとでも思い出せそうじゃないか。でも全然、そんな風にならなくて」

「ロゼにとってその記憶はその程度だったって事じゃない?

 私だって小さい頃の話を親戚に言われてもあったっけそんなの、って感じだし」


 幼稚園くらいの頃の事とか、憶えてる部分もあれば忘れてる事だってたくさんある。


「でも、お母様が作ってくれた人形だよ!? なんで忘れてたんだろう」

「忘れたっていうか、一区切りついたからじゃないの?

 ある程度成長して、当時のローザにもうお人形は必要じゃなくなった。お友達になれそうな女の子の方がお人形を持つべきだと思ってローザが譲って、そこで、ローザの中では終わった事になっちゃったからじゃない?

 それでなくともあの記憶を見る限り、結構な人の手に渡ってるし」

「そう、なのかなぁ……?」

「そういうものだと思うよ」


 そもそもローザがクークラを抱えて常に一緒にいた記憶を思い返す限り、特に何かトラブルがあった様子もなかったのだ。

 ローザがクークラを使った一人遊びをしているばかりで、うっかり犬にクークラが咥えられてズタボロにされかけただとか、すっ転んでクークラが遠くに放り投げられた拍子に移動中の荷馬車の上に落ちただとか。

 そんな、ドキドキハラハラなエピソードすらなかったのだ。


 ユッカからすれば、じゃあ忘れてても仕方なくない? としか思えなかった。


 昔見たアニメや漫画、ゲームの内容だってユッカは全部を憶えているわけじゃない。

 序盤から中盤にかけてはしっかり憶えていてもエンディングどうだったっけ……? なんて作品だってたくさんあるし、その逆にラストは憶えてるけどそれ以外はさっぱり、なんてものもある。

 一部でも憶えてるならマシな方で、タイトルは憶えてるけど内容全く憶えてないや、なんてのもある。


 ロゼにとってのクークラは、当時は確かに大切にしていたかもしれなくても、今はもう忘却の彼方。

 そういうものなのだと、ユッカには思える。


(いや、可能性として、ロゼの記憶を誰かが魔法で封印したとか、そういうのがね? あったりすれば話はまた違ってくるんじゃないかなぁとは思わなくもないけど?

 でも、それ言っちゃうと、じゃあ誰がそんな事を……? ってなるわけで。

 私が知る情報からできそうなのって、お母さんでもあるマギサリュクレイアと、弟子だって言ってたイシェルだけなんだよね……容疑者が他にいそうっていうならまだしも、ロゼの方もその二人しか心当たりない、なんて事になったら今後の人間関係が怖い事になりそうだから……これは言わんとこ……)


 藪蛇どころか地雷原に突っ込むような気がしないでもないので、ユッカはその考えをぶん投げる事にした。

 ロゼが自分からその可能性を口にした場合はともかく、これは自分から言うべき事ではない。


 そんな風に記憶を共有したり、ロゼの幼い頃の記憶について話をしているうちに、気付けばすっかり静かになっていた。


 崩れた城がルボワール地区に降り注いでいたのが嘘のように、静寂が訪れる。


「……ロゼ」

「うん、そうだね」

「休憩はそろそろおしまい。ディオスとアーロスを探しに行かなきゃ」


 なんていうかあの城から脱出できていたとしても、大丈夫な光景が想像できない。

 けれども、それでもそうやって口に出さないと、なんていうか行動に移る勇気が出そうになかったから。


 己を奮い立たせるようにユッカは椅子から立ち上がり、ロゼもまたユッカの肩によじ登った。

 そうして椅子を片付けて。


「無事でいてくれるといいんだけど……!」

 知り合って間もないとはいえ、死なれるのは流石に思う部分が出まくりである。


「なんっかディオスは大丈夫そうな気がしなくもないけど、アーロスがねー」

「まぁ、それは、うん。そうなんだよね。むしろ精神的にも色々とあったから」

「大丈夫かな、世を儚んで自殺とかやりそうな雰囲気あるよねアーロス」


「あぁ、それでしたらご安心を。

 無事ですよ」


「うわっ!?」


 ロゼとそんな風に話しながら、いざ! とばかりに歩き始めた矢先に。


「え、はっ!? ディオス!? え……えっ!?」


 突然背後から聞き慣れた声がして、ユッカはまるで幽霊でも見たみたいな反応しかできなかった。

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