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傷物令嬢マリアローザは隠居がお望み  作者: ウメバラサクラ
CASE4 昨日の敵は今日の友

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42.婚約破棄を、プロデューース!

――あのマリアローザが、初めて屋敷でパーティーを開く事になった!


その噂は、社交界の中で瞬く間に広まった。

ある者は彼女に傾倒し、会いたいがために招待状が届く事を切に願っている。

またある者は、行けば自分も悩みを聞いて貰えるチャンスがあるのではないか、と期待した。

そしてまたある者は別の事に興味を示し、それが例の()()()()()()()()()屋敷なのだなと、一度見てみたいという衝動に駆られていたりする。


とにかく。

パーティーの開催について、世間からは何かと高い注目が集まっていた。


「ジーナ、準備は順調かしら?」

「はい、マリアお嬢様。滞りなく。」

「ジョゼフィーヌ様たちの方は?」

「そちらもご心配には及びません。間もなくこちらへ、商品の見本が届く予定との事でございます。」


マリアローザの忠実な侍女・ジーナは、ここを間借りしているジョゼフィーヌとルチアナの事業の事も、ずいぶんとよく把握しているようである。彼女らの事業が成功した暁には、すぐにでも転職出来そうだ。


「……貴女……、この先あの二人がここを出て行く時、引き抜かれそうね。」

「いいえ。わたくしはあくまでもマリアお嬢様のご命令とあって、お二方の事業の進捗を注視しているに過ぎません。何を提示されようと、わたくしがここを去る事はございませんわ。――貴女様がそうせよと、おっしゃらない限りは。」


……うん、久し振りに忠誠心が重い。ただの軽口のつもりだったのに……。


それはさておき、パーティーである。


表向きには屋敷の披露となっている、この催し。その真の目的とは、言うまでもなくジョゼフィーヌとダミアーノの婚約破棄劇である。

本当は、どこか大きな家や王宮主催のパーティーで出来たなら、理想的だったのだが――…。実際問題、人様の催しを荒らす行為は無礼千万。まして、主役の座を奪ってしまう事にでもなれば、新たな禍根を生むだろう。

多くの婚約破棄劇がそうであるように、余所様のところで!方々への許可も無く‼勝手に行うから、角が立つ。

その内容もさる事ながら、そういう教養の無さで顰蹙を買っているのが、公の場で行われる婚約破棄宣言であったりするのだ。


逆に言うと、それらを全てクリアしてしまえば、問題ないのでは?


――という事で。

今回、その全てをお膳立てして差し上げた。要するに、プロデュース。

『企画・制作、マリアローザ』の、婚約破棄劇の開幕である。






「――まあ!ここが、マリアローザ様のお住まいなのですのね⁉素晴らしいところですわ!!」

「本当に。こうして中へ入れる日が来るなんて、夢のようです!」

「いつもは、柵越しにしか見る事が出来ませんもの……」

「お庭も美しくて!はやり、王室が所有していたものは違いますわね。」


挨拶に来た女性客たちが、きゃっきゃとマリアローザの周りを囲んでいる。


「これはマリアローザ嬢、本日はお招きありがとう。」

「実に素晴らしい邸宅ですな。」

「中は全て、譲られた時のままで?ほう。これは一見の価値がありますなあ!」


男性客も多くやって来ていた。そのほとんどは、妻や婚約者などのエスコート役として、だったが……。初めて立ち入る屋敷の物珍しさに、なかなか興味深そうにしているようだ。


「ふふ。皆様、ようこそお出でくださいました。お食事などもご用意しておりますので、どうぞ()()()()……。是非、楽しんで行ってくださいまし。」


その言葉と笑顔に含みを持たせつつ、彼女は招待客らを出迎えた。

それらは主に「観客」として呼んでいる者たちである。“王太子の婚約者”時代の人脈を中心に、色々と噂を広めてくれそうな、お悩み相談希望者の中から見繕ってみたものだ。

それと、初開催だからと舐められないよう、現王太子とその婚約者も呼んでいる。これで、そんな伝統の無い集まりはどうたらこうたらとのたまう連中も、そうそう文句などは付けられないだろう。


一旦全ての客が邸内にあるホールに集められると、まずは飲み物の入ったグラスが配られた。

そのワインを手に、主催者・マリアローザが開会を宣言する。


「本日お集りくださった皆様に、感謝いたします。今日という日が、素晴らしい一日になる事を願って――乾杯!」

「乾杯!!」


パーティはつつがなく始まった。


一応「屋敷の披露」と銘打ってはいるが、基本的にはその辺で行われているパーティと変わらない。若い者は出会いを求めたり、それ以外は飲んで、喋って、踊って――…。中には本当に邸宅見学をする者もいるようで、各々が好きなように過ごしている。


『さて……。本当の主役の方々は、どちらにいらっしゃるのかしら?』


マリアローザはホールの中を見回した。


……ああ、見付けた。

向こうにジョゼフィーヌの両親、アルト伯爵夫妻の姿が見える。そこから少し離れた場所には、ダミアーノの兄と義姉である、アルベルトとキアラが。そしてその近くには、彼らの両親であるバルベリーニ公爵夫妻がいるのも確認した。


それらはこの婚約破棄を行うにあたって、欠かせない存在たちである。

先に種明かしをしてしまうと、彼らは全て()()()()の人間だ。晴れの舞台を妨害されては困るから。そうならないよう事前にきちんと話は付けてあり、これから行われる事については了承済み――。

つまり、ダミアーノ以外はみな仕掛け人という事だ。


ちなみに、その当事者は今どこにいるのかと言えば……


あぁいた、あそこ。ホールの中央を、一人ウロウロと歩いている。あれはたぶん、愛しのルチアナがいないかと、捜しているところだろう。

……今はまだれっきとした婚約者であるジョゼフィーヌを、『エスコートするように』と暗に書いて招待状を送ったのに……。やっぱり、彼女と一緒には来ていないようだ。

そして、やっぱりまともに挨拶もしに来ないので、先日会った女がこの会の主催である事にもまだ気づいていないご様子。あっ、ジョゼフィーヌの方は、伯爵夫妻の側に一人ぽつんとしているのを発見。

本当に、何をやっているんだ、あの男は。


まあ、彼が彼女をほったらかしにする事は想定済みである。むしろその(てい)で今後の予定を組んでいるから、これでよし。

いくら捜したところでルチアナが見付からないのも、こちらの計画通りだ。


『――…ねえ、ダミアーノ様。婚約を破棄するつもりなら、徹底的に……。完璧な根回しをしなくてはならないのよ。わたくしが手本をお見せして差し上げる。』


宴もたけなわになった頃。人々が最も盛り上がる時を待って、本日の目玉である余興は開始される。

賑わうホールの中を移動し、マリアローザはジョゼフィーヌにそっと近付いた。そして、こそりと指示をする。


「……そろそろ、頃合いですわよ。」


彼女はこくりと頷き、会場を後にした。ホールの出口には、それを待っていたジーナの姿が。二人はそのまま、どこかへ消えて行った。

ガヤガヤと楽し気なパーティの中、その事に気付いた者など一人もいない。……ダミアーノは当然の事だが。

マリアローザも再び人の輪の中へ入り、何事も無かったかのように談笑していた。


それから間もなくの事である。


「――ダミアーノ・デ・バルベリーニ公爵令息!わたくしは今日この場で、貴方との婚約を破棄いたしますわ!!」


楽し気な会話で溢れていたホールの中に、突然絹を裂くような声が響いた。集まっていた人々は驚き、みな口を止めて声のした方を注目する。相手の名から察するに――…

そこにいたのはやはり、アルト伯爵令嬢・ジョゼフィーヌである。

彼女は、数メートル先にいる婚約者を指差し、険しい顔で睨み付けていた。


「……ジョゼフィーヌ??これは一体、何の真似だ⁇」


ポカンとしたダミアーノは、首を傾げて尋ねる。ジョゼフィーヌの宣言内容が不服だとか、そういう事ではない。本当に、ただ意味が分からなくて尋ねているのだ。

……あの“ジョゼフィーヌ”が、こんな行動に出るなんて……と。


「今申し上げた通りです。貴方のような方、結婚相手として相応しくありません!」


毅然とした態度で、彼女は返した。

……『結婚相手として相応しくない』……??その言葉は、ダミアーノの逆鱗に触れた。それを言う権利があるのは、自分の方だと思っていたからだ。決して向こうからではない。しかも、こんな大勢の前で……。

彼は公爵令息としてのプライドを汚され、辱められたと逆上した。


「…………ジョゼフィーヌ……!!こんな事をして、ただで済…」

「あら、ご不満のようですわね。よろしいでしょう。ダミアーノ様!貴方はこの方に、ずいぶんと酷い事をなさっていたそうではありませんか!」

「……えっ?()()()……??」


怒鳴り付けようとしていたダミアーノだったが、気勢を削がれ戸惑った。……「この方」って、誰??

――するとジョゼフィーヌの後ろから、一人の可憐な少女が姿を現した。どうやらそこに隠れていたらしい。


「ルッ……ルチアナじゃないか!?」


ずっと捜していてようやく会えた嬉しさと、さっき聞いたジョゼフィーヌの言葉とが、彼の中で混ざり合う……。どんな表情をしていいのか、分からない。

その愛しのルチアナは、うるうるとした目でこちらを非難するように見ながら、ジョゼフィーヌの側にぴったりとくっ付いていた。……何、これ⁇どういう状況??


「――!そうだジョゼフィーヌ‼お前が、ルチアナを苛めたんだろう⁉」


ハッとして、ダミアーノは反撃をする。しかし、ジョゼフィーヌは間髪を入れずに打ち返した。


「何をおっしゃいますか‼……確かに一時期、彼女の事を誤解していた事もありましたわ。ですがわたくしたち、お話をする機会がありましたのよ。その時に、色々な事を伺いました。……貴方のお話をね。」


それを聞いて「えっ!?」と嬉しそうな反応をするのだから、本当に救いようがない。まさにお花畑である。ワクワクとしながら、彼は口を開いた。


「私の話とは――…」

「まず、彼女が断っているにも拘わらず、無理やり食事やデートに誘いましたわね⁉」


ビシッと指を差し、ジョゼフィーヌは指摘する。ダミアーノは胸を張って反論した。


「無理やりではない!忙しいと言うから、連絡はいつでもいいと言ったぞ!!」


……いや、それ以前に。婚約者持ちが余所の女を誘うなよ……と、聴衆は思った。


「女性の言う“忙しい”は、お断りという意味ですっ!」

「そんなわけがないだろう!!私に笑顔を向けてくれたのだから‼」

「では彼女は、一度でもその誘いを受け入れた事があったのですか!?」

「だから、忙しくて仕方がなかったんだ!!」

「――次!!」


埒が明かないので、ジョゼフィーヌは強制的に話を進める。


「それに貴方は彼女が何度断っても、花束を送った!これは嫌がらせにもなりますわよ⁉」

「嫌がらせ!?そんなわけがあるか!あのなあ、ジョゼフィーヌ……。それはルチアナが謙虚な女性だから、照れてそんな言い方をしてしまうだけなんだぞ‼」


彼女にぴったりと寄り添ったルチアナが、死んだ目をしながら「気持ち悪い」と呟いた。


「それなら、今のルチアナさんの事はどう説明なさるの?彼女は貴方ではなく、わたくしに助けを求めているではありませんの!」

「それはお前がおかしな事を吹き込んだせいに決まっている!」

「これだけではありませんわ!」


ジョゼフィーヌの非難は終わらない。ネタはまだまだあるのだ。


「貴方、ルチアナさんが気に入っているお店に入り浸って、彼女が来るのを待ち伏せているそうね⁉」

「それの何が悪い??」

「怖くて行けなくなってしまったそうよ!!」

「怖い!?何が怖いと言うんだ⁇」

「〰〰そういうのを、ストーカーと呼ぶのですっ!!」


するとルチアナが、ジョゼフィーヌに泣き付いた。


「ジョゼフィーヌ様ぁ!私、本ッ当ーに怖かったですぅ……」

「まあ!何て可哀想に……!!」


ジョゼフィーヌは、ひっしと彼女を抱き締める。そしてキッとダミアーノの方を睨み付けた。


「……その上、自分たちは恋人関係にあると、周囲に誤解させましたわよね?それで彼女が、どれだけ肩身の狭い思いをして来たか……貴方に想像出来まして!?」


……『違う』『そんな事はない』と思うが、ではなぜルチアナが向こう側にいるのか……。ダミアーノには、さっぱり理解が出来なかった。


「……そういう事でしたのね……」


この騒動を見ている者たちが、周囲でヒソヒソと話しているのが聞こえて来る。


「何だか、おかしいとは思ってましたわ。」

「最低……」

「待ち伏せですって!恐ろしい……」


ここまでジョゼフィーヌがぶちまけた内容は、全て真実だ。そしてその所業は、これまでに皆が見て来た事実でもある。疑いの余地は一つも無く、誰もが納得をしてルチアナに同情していた。


「……火遊びであれば、わたくしは大目に見るつもりでいました。でもこれでは、お話が違います!両想いどころか、ルチアナさんにご迷惑を掛けていただなんて……言語道断‼」


傍らにルチアナを置いたジョゼフィーヌは、最後に決め台詞を言い放つ。


「こんな男とは、結婚など出来ません。――今ここに、ダミアーノ様との婚約破棄を宣言いたします!!」


彼女は、台本を()り切った。

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