第八章 Ⅱ
第八章
Ⅱ
雪時はじっと待った。もしかしたら、楽人が帰ってくるのではないか。儚い希望を持って待っていた。日常をなんとか過ごしてじっと待つ。
――だが、楽人が目の前に現れることはなかった。
何度か彼の名前を呼んでみた。効果はなかった。
部屋の中を何度か探してみた。効果はない。
パズルが置いてある部屋にこもってみた。効果はなかった。
探しても、呼んでも、何をしても、楽人が戻ってくることはなかった――。
そうこうして、楽人がいなくなって、数日が経過した。
雪時はふと思い出す。友人たちと会っていたあの日、楽人の声がしたようなあの時……。あれは、もしや本当に楽人が自分に向けて何か言っていたのかもしれない。
「……馬鹿か、俺は」
――永遠なんて、ない。
何故彼がいることが普通だと、ずっと傍にいると思っていたのか。
何故彼が急に現れたことを忘れていたのか。
何故、彼がいないことに、こうも不安になってしまうのか――。
雪時は自分の答えを知っているような気がした。
知らぬ間に、「楽人」という存在が、あいつのことが大事なものになっていたのだ。かけがえのない存在となっていたことに、今さらながらに気がつく。
今さら、何を思ったところで戻ってこないのだろう。あんなにも感じていたはずの、楽人の気配が一切しない。
「あいつ、なんて言っていたんだろう……」
もう一度、言って欲しい。聞き取れなかったあの言葉を、聞き間違いと判断してしまったその言葉を、もう一度、自分の前で伝えて欲しい。
届かぬ願いを、何度も心の中で呟く。「戻って来い」と、何度も強く思ってしまう。
「馬鹿だなあ、俺は……」
後悔したって遅い。人生を歩んでいく中で、後悔することがあると、知っていたはずなのに。
雪時は、ぽっかりと開いた穴を、塞ぐことができずにいたのであった。




