第八章 Ⅰ
第八章
Ⅰ
雪時は、友人たちが帰ってから、すぐに家の中で文句を言う。
「おい、楽人! お前の、顔――」
しかし、楽人の姿がないことに気がついて、すぐに言葉を飲み込んでしまった。きょろきょろと周囲を見渡すが、いつも見ているあの陽気な人物の姿はない。声すらも聞こえない。
おかしい、そう感じた。
雪時はすべての部屋を確認するために、動き出した。一人暮らしの部屋だ。すべての部屋を確認するだけに、そう時間はかからない。だが、どこを見ても、何度確認しても、毎日見ていた楽人の姿はどこにもなかった。
確かに、さっきまでは……。
自分が友人たちと話している間、楽人は同じ部屋にいた。ニヤニヤと効果音がつきそうな顔で、雪時のことを見ていたのだ。
だから、友人たちが帰ったら、文句を言ってやるつもりだった。顔がうるさい、あの顔はやめろと、とにかく不満を伝えるつもりだったのだ。そうして、きっと彼なら、けらけらと笑って「いいじゃないか」と言ったはずだ。
――はずだった。
姿もなく、声も聞こえず、気配もないように感じる。霊感なんてものは、雪時にはない。だが、今まで一人ではなかった空間だったからか、誰もいないように感じていた。
――この部屋に、自分一人しかいない、それを感じ取ってしまったのである。
「ら、くと……?」
雪時の呼ぶ声が、言葉が、震えている。つい、空間に伸ばした手は、何も掴めずに、ただ自分の身体の横に下ろされただけだった。
雪時は、唖然とした。
何もない空間で、何度か彼の名を、いつも隣にいてくれた陽気な人物の名を呼ぶことしか、今の雪時にはできなかったのである――。




