第六章 Ⅰ
第六章
Ⅰ
雪時は大学の食堂で深いため息をついた。楽人は後ろできょろきょろと周囲を見渡している。面倒だったので、放っておくことにした。
雪時のため息は別にある。
近くの席に座っているグループから聞こえてくる声だ。うるさいとか邪魔だとかそう感じないわけでもないが、理由はもっと他にあった。
気になる……。
席に座るときにちらっと見えたのは、手元でカチャカチャとしたものだった。最初は音からして、ルービックキューブをしているのかと思ったが、よく見てみると違っていた。それは、立体パズルだったのだ。透明で立体的なパズルは、横に置かれていた箱から城を作る物だと分かった。城、と言っても、日本の城とは違う。物語に出てきそうな西洋を彷彿とさせる城。それを彼らは組み立てようとしていたのだった。
基本的にジグソーパズルしかしない雪時も、一度だけそれを購入したことがある。まったく同じパズルをだ。立体的だからか、そんなにパズルのピース自体は多くない。作り方もそう難しいわけではなく、雪時からしたら物足りないぐらいであった。
それを彼らはああでもない、こうでもないと騒ぎながら組み立てている。ジグソーパズルと違って、平面ではないため、初心者には難しいのかもしれない。
――それが、雪時は気になって仕方がない。
ああ、そうじゃない……!
様子を見ながら、一人やきもきしている。だが、そこから一歩踏み出す勇気はない。
誰か、声をかけてくれ……!
コミュニケーション能力が高い人間を探すが、パズルに興味がない人間は声をかけることもないだろうし、残念ながら周囲にはあまり人もいなかった。
「どうしたよ? 雪時」
楽人が不思議そうに声をかけてくる。いつもなら、「なんでもない」と淡々と返したことだろう。しかし、今の雪時にそんな余裕はなかった。
「……だあっ、くそっ!」
グループから声が聞こえてきた瞬間、雪時の中で何かが吹っ切れた。がたりと大きな音を上げて立ち上がる。これには、グループの人間たちも、楽人も驚いた。
雪時は勢いよく彼らに近づくと、ばっと手を前へ出す。びくっと目の前の全員が反応したが、雪時は気にせずに簡単に告げた。
「……貸せ!」
そこから、雪時はパズルを半ば奪うように受け取り、勝手に組み立て始めたのだった。




