第五章 Ⅲ
第五章
Ⅲ
今日も今日とて、雪時の隣を楽人は歩く。歩く、というのは語弊かもしれない。浮いている状態で、ゆっくりと前進していた。
いつもと違うのは、楽人の視線だ。鋭い視線で周囲を見渡す。
細かなものまで、見逃さないように――。
だけどさー……。
楽人は頭を抱えたくなった。やはり、雪時は他人と距離を保っている。近づく気配は微塵もなかった。他人を近づかせようともしなかった。
これは、なかなか……。いや、知ってた気もするけど。
頭を抱えたくなったが、ここで抱えれば雪時に感づかれる可能性が高い。そう判断した楽人は、一緒につきたくなったため息も無理矢理飲み込んだ。
周囲の人間は、ただすれ違っていく。誰も声をかけることなく。これは、完全に楽人の予想が当たりそうだった。
こういう予想は当たってほしくなかったかなー……。まあ、でも交友関係って、入学してすぐにグループができるって言うんだよな。んー、どうしよう……。
楽人の視線は鋭くなる。しかし、それは雪時が振り返ったことですぐに元に戻った。にこにこしている顔に、不機嫌そうな顔が向けられる。
「どうしたよ、雪時ー?」
「……お前、今日なんか変だぞ」
どきっとしたのは、表に出さない。雪時の視線を受けつつ、笑顔はそのままに返答した。
「なんもないぜー。いつも通りだろ?」
「いつも通り変だが、なんか違う、と思う……」
雪時の声が尻すぼみになっていく。しかし、楽人はそこで気がついた。
あれ、雪時ってなんか変わった……? ちょっと、俺に心開きかけてる……? いや、違うか……?
確信が持てない楽人だが、結局ゆっくりと返答した。
「いつも通り変とか、失礼だなー。雪時、ひっでー」
「……やっぱり、何もない」
雪時はふいとそっぽを向くと、そのまま歩き出した。
……ダメだ、早くに見抜かねえと。俺が持たない気がする……!
楽人は、さらに鋭くなった視線で周囲を見て後に続くのだった。




