第五章 Ⅰ
第五章
Ⅰ
楽人は悩んでいた。今は雪時から離れて、床に座ったまま腕を組んでいる。首を傾げながら唸っているその姿は、恐らく雪時が見たら物珍しく見るか、気味悪く思うかだろう。可能性としては、後者のほうが高いと思われる。
楽人の悩み、それは――。
……雪時にすべて力を使うと決めたはいいけど、具体的なことをまったく考えていなかった!
雪時が急に思い出しそうになっていることが分かり、楽人は内心焦っていた。できれば、気がつく前に、思い出す前にすべてを終わらせて、彼とは離れるつもりだったのだ。なのに、ずるずるとこの状況を楽しんでいたせいで、急な展開に困ってしまったのである。
……とは言っても、雪時がどうしたいのか、ってよく分からないんだよな。
実際、雪時が困っている、悩んでいる素振りをあまり見ていない。むしろ、今の状況で満足しているように見えるのだ。だけど、と楽人は思った。
……悩んでいるとしたら、自分の考え方だと思うけど、それを俺がどうこうするべきではないし……。むしろ、俺からしたら交友関係なんだよな……。そっちのが心配。
楽人は雪時が大学などの場所で人と話しているのを、ほぼ見ていない。彼自体が寄せ付けないような雰囲気を出しているというのもあるが、自分から話に行くこともしない。
俺がいなくなったら、一人になっちまいそうだし……。
恋愛など、この際どうでもいい。誰か一人、家族じゃない誰かが彼を見て、彼の側にいてくれれば、それは支えになるはずだ。楽人はそう考えている。そして、彼がいいやつなんだと、周囲に知ってほしいのである。
俺を助けてくれたのは、事実なんだ。あいつは、優しいんだよ……。
楽人が首を突っ込むことではないのかもしれない。だが、力を使うのであれば、彼の交友関係にするのが一番いいだろう、と考えたその時。
「何をしている」
突如入ってきた雪時により、思考は強制的に断ち切られた。
楽人は笑う。
「なーんも」
彼にはまだ、笑顔の裏を知られないために――。




