第四章 Ⅲ
第四章
Ⅲ
あれから、しっかり眠りたかったのに、意外と眠れなかった雪時は不機嫌だった。しかし、気になることは気になるので、不機嫌さを醸し出しながらも、じっと楽人を見つめる。楽人は「あんまり見るなよー、恥ずかしい」などと茶化してくるが、そんなものは眼中にない。雪時は、視線をそのままに考える。
こいつ、だったのか……? 確証なんてない。しかし、気になる……。
答えは出ない。結局、眠れなかったことも理由の一つであるが、あの夢は続かなかった。しかも、顔がちゃんと見えていないときている。さらに言えば、誰なのか確証がないのに、楽人には聞きづらい。
大体にして、ここ何年、そんなことを人に聞いたことがない。雪時は悩むしかなかった。不安、葛藤、迷い……、いろんな感情が渦巻く。
こいつにそんなことを聞いて、答えが返ってくるのか……。むしろ、今みたいに茶化されて終わるのでは……。
それに、気になっていることが一つある。
聞きたいはずなのに、聞きたくない気もするのだ。まるで、開けてはいけないパンドラの箱のように。
「なあ、雪時、結局何なんだよー」
じれったくなったのか、直球で聞いてきた楽人。雪時は、腹を括ってみた。
「……楽人。俺とお前は、昔に会ったことがある、のか――?」
それを聞いた楽人の瞳が一瞬、揺らいだ気がした。
やはり、お前、なのか――?
続けて言葉をかけようとした雪時の言葉は、彼の言葉によって紡がれることはなかった。
「……ゆ、雪時、お前、」
雪時は待った、彼の言葉を。しかし、出てきた言葉は――。
「そんな口説き文句、どこで覚えてきた!?」
「……は?」
「あのな、雪時、そういうことを言われたら、女の子はくらっときちゃうんだよ? 簡単に言うことじゃねえって!」
「本当にお前の頭はどうしようもないな」
「で、誰口説こうとしてんの。教えろよー」
「もういい、やっぱりお前は黙ってろ。聞いた俺が馬鹿だった」
雪時は再度不機嫌さを露にし、さっさとその場を後にする。昨夜あまり眠れなかったので、昼寝をするつもりであった。
雪時が立ち去るのを確認した楽人は、静かに告げる。
「……もう、時間がねえのかもな」
雪時が思い出し始めている。そのことに、一瞬ぐらついた。気づかれたかもしれない。それでも――。
「気づかなくて、いいんだよ……」
楽人の言葉は、空間に零れていったのだった。




