第四章 Ⅰ
第四章
Ⅰ
「……楽人ってさ、俺から離れることできたんだな」
それは、とある休日にぽつりと呟かれた雪時の言葉であった。
ぱちりとパズルをはめる中、雪時の言葉はその音にかき消されるかのように小さかった。しかし、そんな小さな音も近くに座っていた楽人にはちゃんと届いていた。楽人は目を瞬かせる。
一向に返ってこない答えにしびれを切らしたのは雪時だ。じとっと彼を見つつ、静かに言葉を続ける。
「……おい」
「……そうか、そうかー」
「……は?」
うんうんと頷きながら何度も呟く楽人へ思わず気の抜けた言葉を返す。
しばらく一人で納得していた楽人は、そのうち涙を浮かべて拳を固く握る。
「やっと、雪時が俺に興味を……! お兄ちゃんは嬉しいぞ……!」
「お前のような兄なら絶対に返品しているな」
雪時はあほらしい、とパズルを再開させた。
ここのところ、なかなか進めることができなかった東京の夜景を映したパズルは、やっと時間が取れて少しずつ進んでいる。上機嫌になりつつあった雪時は、気になったことを彼にぶつけてみたのだが。テンションの差か、それとも性格の違いか。結局会話にならない。
下降した機嫌を直すために、再度パズルへ専念することにした。
そこを邪魔するのはやはり彼である。
「おいおい、せっかく話してくれたんだから、話しようぜー」
「誰のせいだよ。お前のテンションにはついていけない」
「いやいや、感動してただけじゃーん。拗ねるな、拗ねるな」
「拗ねていない」
雪時がぱちりとパズルをはめる。楽人はニシシ、と笑いながら告げる。
「離れることはできるさ」
「……そう、なのか」
雪時は視線を彼に向ける。やはりまだ彼は笑っていた。
「だって、もう一人のお前だぜ? 別にずっと一緒ってこともないだろ」
「その割には今まで離れたことなかったじゃないか」
雪時はそこが疑問だった。以前はずっと離れなかったのに、この間の口論の際は離れることができたのだ。
まさか、こいつの意志で――。
そう考えてやめた。考えれば考えるほど、なんとなく腹が立つからだ。
俺の意志は無視、ってことだろうしな……。
「まあ、雪時の気分によってはちゃーんと離れてやるさ!」
「今がその時だから引っ込んでろ」
「嘘つけー」
雪時は盛大にため息をついた。
結局離れることはなく、その日一日二人で部屋に籠り、パズルを進めたのだった。




