第三章 Ⅲ
第三章
Ⅲ
そして、現在――。
そんなこともあったなー。雪時は覚えていないんだろうけど。
楽人はふよふよと道を浮きながら、雪時をゆっくりと探す。すれ違う人は自分が見えないから気にしなくていい。すれ違う人、人、人。全く違う視線で通り過ぎていく。
この視線を、人は怖く思うのか。
雪時は人と視線が交わらない。楽人はそれを知っていた。誰と話すときも、視線は合わない。楽人と話すときさえも合わないのだ。
けど、さっきは合った。
感情が高ぶったからか、気にする暇がなかったのか、初めて視線が合った。雪時自身は気がついていないだろう。それを思い出しながら楽人は道を歩くようで浮いている。
……あいつの、手助けがしたかった。あの時、俺に自分を思い出させてくれた、あいつに。
神様、というのは便利で、知らない人間でも名前を知ることができる。今回は、力を持っている神様に協力してもらって探し出した。そうして、何十年以上も共にしてきた祠に別れを告げて、雪時の前に現れた。
残りのわずかな力、すべてを雪時に使う。そう決意してここまで来たんだ。だけど、まだ、まだその時じゃない。だから、雪時をまずは引き止める。
楽人は思いを押し込め、空へと高く浮いた。
そうして、河川敷に座っていた雪時を空から見つける。
決意した顔はしまう。いつもの笑顔へ切り替える。
それから、空から来たことがばれないように、ゆっくりと雪時に近づいた。
「ここにいたのか、雪時ー。探したぞ」
「……」
「ほーら、帰ろうぜ。日も暮れ始めている。すぐ暗くなるぞ」
雪時はゆっくりと顔を上げた。その顔が、昔と重なる。
つい、楽人はブハッと吹き出した。
「なんだよ!」
「い、いや、悪いっ……! なんもっ、ない……!」
笑いが止まらない。何年も経っているはずなのに、まったく同じ顔で笑ってしまった。
笑っちゃいけねえのに……!
いまだにくっくっく、と肩を震わして笑う楽人を雪時は殴る。すかっと気の抜ける音がして、殴れていないことを物語る。雪時は悔しそうに顔を歪め、そのまま歩き出した。すれ違った際、ぼそりと「ごめん」と呟かれたのを楽人は聞き逃さない。あえてそれに何も言わず、飄々と返す。
「帰り道分かんねえだろー。俺が道案内してやるぜ!」
「……うざい」
楽人は今日も笑う。決意を胸に秘めながら――。




