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シェード・エプリコッド ─召喚者たちの異世界略奪戦争─  作者: 椋之樹
奴隷への明示─Intersect Feelings─【争奪編】
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2-11 手放した繋がり 還ってきた日常



 ────主様っ、主様っ!駅前にアイスクリーム屋台が期間限定で出てるんだって!一緒に行ってみようよっ!ねっ、ねっ!

 ────それは構わないが……兎って、アイス食べても大丈夫なのか……?

 ────リノの胃袋は特別製だから大丈夫っ!十個でも、百個でも食べられちゃうんだからねっ!

 ────いやっ、百個は辞めとけ。その量は人間でも無理があり過ぎない?精々二個位で収めておいた方が良いと思う。絶対に腹を下すから。

 ────はーいっ!



 ……。

 …………。

 ………………。



 ────元々リノリスは、パトス・レイヴで闘士として闘っていたらしいな?やっぱり、戦闘欲みたいなモノがあったりするのか?

 ────うぅ~ん……確かに、周りには戦闘狂みたいな人達は沢山いたけれど、リノはあまり好戦的って訳でもないかな。それに、ほら、万年負け組って言われていた位だし、あははは……はぁ~……。

 ────あー、あまり聞き出すことじゃなかったかも知れないな。

 ────ううん、大丈夫だよ。それよりも、何で急にそんなこと思ったの?

 ────学校で俺の所属している部活の先輩が、化け物並みに強い訳だよこれが。リノリスが戦うことが好きなら、是非とも相手をしてやって貰いたくて。

 ────無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ぃぃぃぃッ!!それって天桐先輩のことでしょっ!?あんな強い人相手に戦ったら死んじゃうよッ!!瞬殺されちゃうよッ!!

 ────到底フィーネスとは思えない程に弱気な発言だな……。



 ……。

 …………。

 ………………。




 ────主様っ!見て見てっ、マヒナさんから借りたの着てみましたっ!

 ────メイド服か……本格的に付き人って感じが出てきましたな。

 ────えへへっ、似合うかなぁ?

 ────よく似合っている、普段はその格好で良いんじゃないのか?

 ────……っ!えっ、と……なんか恥ずかしいから、やっぱ見ないで欲しぃ……。

 ────え、なんで。

 ────うぅぅぅ……だって、そんなに、ストレートに誉められると思ってなかったんだよ……褒められるの、あまり慣れてないからぁ……うぅぅぅ……っ。

 ────(可愛いかよ)




 ……。

 …………。

 ………………。




 ────どうした?

 ────……なんだかムラムラしてきた……興奮して眠れない……主様、一緒に寝てもいい?

 ────(今から襲われるのか俺?)

 ────ダメ?

 ────……いつもみたいに寝ながら服を脱がないことを約束するなら、構わない。

 ────……っ!うんっ、するするっ。えへへっ、やった……!それじゃ、お邪魔しますっ。

 ────……。

 ────……。

 ────いつまでも悶々としていないで、出来る限り早く寝るんだぞ。

 ────くぅ……っ。

 ────(寝てるーーーーーーーっ)



 ……。

 …………。

 ………………。



 ────ん……っ。

 ────主様、朝だよ。離元空間の中だと朝の日差しとかは感じられないけれど、きっと良い朝だと思う、かな?

 ────リノリス……いつもながら、起きるのも早いな……。

 ────主様は朝が苦手かな?ほらほら、頑張って起きよ?学校に遅刻しちゃうよ……っと、そうだ。

 ────うん?





「────おはよう、主様」





 目蓋の裏で、全てを包み込むような柔らかい笑顔を浮かべるリノリスが浮かび上がったと思いきや……ふと目を覚ませば、儚い泡のように消えた。

 寝起きだと言うのに、妙にハッキリと見える景色の中で途方に暮れる。

 どうして今更、走馬灯のように記憶が蘇ってくるよか、と。


「……おはよう、か……」


 数ヶ月と短い期間だけでしかないが……いつしか当たり前になっていた、リノリス=トラントとの日常。

 朝の早い時間に起こされてから、学校に行く時も、屋敷で過ごす時も、夜の就寝の時間まで……いつも傍らには彼女の姿があった。

 罪悪感がなかった訳ではない。

 だが、思い掛けずそれを忘れてしまう程に、優しく、暖かい時間を、彼女は沢山与えてくれた。

 そう、貰っていたのは自分の方だ。

 本当ならば、憎まれても、殺されても、何一つ文句も言えない立場だったのに……これまで彼女は、それを言及することも、責め立てることもなく、静かに寄り添っていてくれた。

 そんな彼女が、出ていってくれ、関わらないでくれと……そう願うのならば、黙って頷くしか無い。

 それが、彼女に対するせめてもの礼儀になると信じて。


「……ん?」


 ふと、枕元の傍に放られたROSCに視線を向けると、通知を知らせるランプがチカチカと光っているのが目に入った。

 その場で寝返りを打って仰向けになり、片目を閉じたままROSCの画面に目を通す。

 それは、今何処にいるかも分からない、トア=ラィド・イザベリングからのメッセージだった。 


『今度、闇討ちをしに行っても構いませんか?』

(……闇に紛れて殺しに来るってこと?)


 物騒である。

 文面だけ見れば、ただ危害を加えようとする危ない人の予告状にしか感じられない。

 ふと、リノリスが別れる前に言っていたことを思い出した……日陰舘雅人には、トア=ラィドが付いている、と。

 確かに、それに関しては否定するつもりは無い。

 どんな関係性だったとしても、彼女が『敵対者』という体裁を崩さない限りは、そこに明確な繋がりがあると考えて間違いはない筈だ。

 だが……トアのことと、リノリスのことは、そもそも全く違う話であって……。


「……あーっ、もうやめやめ。ただ考えたところで、ただ後悔したところで……現実が変わってくれる訳じゃないだろうが」


 仰向けに寝転がって、トアから送られてきたメッセージへとどのような返信をしようかと考えながら、しばらくの間、画面とにらめっこを続ける。

 どちらにせよ、自分の側にはリノリス=トラントという付き人はもう居ない。

 しかし、それを悔やむことも、嘆く必要もないだろう……ただ、はみ出たピースが収まるべき場所に収まり、従来の景色に戻った、それだけのことなのだから。

 ならば、そろそろ日常に還ろう。


 リノリス=トラントとの関係は────これで終わりだ。



─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─



 端末を片手に持ってキーボードを親指でタッチしながら、頭に浮かんだ短い文を入力していく。

 そこに並んだ文字列を見ながら頭の中で何度かリピートすると、若干顔をしかめて頬を指先で掻いた。


「……『少し、お話したい』……うぅん……これだと雰囲気が出過ぎでしょうか……別に重要な話って訳じゃないし、ちょっと、こう、世間話を、したいって、だけ……んー…………」


 さて、どうしたものか。

 「気安く連絡しないで」だと邪険にし過ぎで、愛想を尽かされてしまうかも知れないし……。

 かといって、「私も一緒に遊びに行きたい」だと逆にドン引きされてしまう可能性もある……。

 リノリスを経由して伝えるのも一つの手だが……自分の感情を、わざわざ別の人に代弁して貰うことに何の意味がある?

 告白は自分の言葉で伝えるべきだ!

 それが本当に伝えたいことならば、他人に頼るのは正解とは言えない!

 ……いや、別に告白とか、そういうのではないのだけれど……。


「……ふぁぁ…………あ~~っ、どうしよ……」


 しかし、これがまた難易度が高い。

 ほんの一言、二言だ。

 面と向かって話をする訳でもなく、ただ文通するだけのことなのに……自分の体裁を崩さずに、それとなく意志を伝えるのが、こんなにも気恥ずかしいことだったなんて……。

 だったら、連絡なんてしなければ良い。

 そもそも敵同士で仲良く文通するなんて、今までに聞いたこともないやり取りではないか。

 だが、だが……。

 昨日、リノリスから送られてきたツーショット写真を目の当たりにしたら、こう、胸の奥から熱い感情が沸々と沸き上がってきちゃって……。

 

「うぅぅぅっ……リノぉ……恨みますよ……」


 別に、悔しい訳じゃないし……。

 別に、羨ましい訳じゃないし……。

 むしろ、「殺してやる」と言ってやった方がスッキリする位だし……彼と、初めて戦った時みたいに……。


「……あっ」


 ふと、頭の中に、とある記憶の片鱗が蘇る。

 そうだ、いつものように言っていたではないか……「殺してやる」と。

 だったら下手に取り繕わないで、この際ハッキリと、「殺してやる」という言葉をもう少しオブラートに包んで……不意討ち、もしくは闇討ち……とかに変える。

 そこに、あえての疑問形……良いですか、もしくは構いませんか……というアクセントを加えれば……。

 我ながら、完璧なのではないだろうか。

 “これ”ならば、自分達の体裁を崩すことなく、遠回りしに再会の約束を取り付けることが出来る。

 かくして生まれたのが……。


 ────『今度、闇討ちをしに行っても構いませんか?』というメッセージだった。


 ただ、それを送信して数秒程で、再び疑心暗鬼が心の中で渦巻き始める。

 本当にこんな文面で良かったのか……ちゃんと伝わったのだろうか、と。

 すると、意外にもそれに対する彼からの返事は、五分も経たずに帰ってきた。


『首を洗って待っててやる』


 恐らくこれも、彼が自分の体裁を考えながら送ってくれたメッセージなのだろう。

 何も事情を知らない者からすれば、今から戦いでも始めるのか、と思ってしまうような物々しい内容だが……どんな内容でも、自分達が理解していればそれで良い。

 なんとも、不思議な気分だ。

 そんなことを考えていると、先程までの心配が嘘であるかのように……思わず、笑みが溢れてくるのだから。


「……馬鹿な人……ふふっ」



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