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シェード・エプリコッド ─召喚者たちの異世界略奪戦争─  作者: 椋之樹
奴隷への明示─Intersect Feelings─【争奪編】
33/41

2-10 アミュファの初まり


「『アミュファ』、だぁ?あのよ……唐突に見たこともない世界に呼ばれたと思いきや、何でそんなアイドル染みた真似をしなくちゃならねぇんだ?」


 それは、『アミュファ』という配信グループが結成される前の出来事。

 『至宝』の力により異世界から召喚された、ウル、コリン、キートは……エクォルトシティの象徴であるグループを結成したいと言う、リノリスの突然な提案に目を丸くしていた。

 ウルのごもっともな問い掛けに対して、リノリスは意気揚々とこう答える。


「きっと楽しいと思うんだよっ!うんっ!」

「理由になってねぇ……」


 リノリス曰く、現在この場に顕現している器は、『明示録』とやらから召喚されるフィーネスとほぼ同等の存在であり、召喚者の強制力が働く訳ではない。

 つまり、この三人にはリノリスの要請に応える義務はなく、従おうが、逆らおうが、それは各々の自由であるということだ。

 ただ、中には予想に反してとてつもなくノリが良い者も居るらしく……。


「コリンっ、やりまぁすぅっ!」

「話が早くて安心したよコリンさん!」

「出演はこの四人だよねっ?まず最初の配信は何をするっ?自己紹介とかしながら何かゲームとかやっちゃうっ?」

「出演は三人でやって貰って、リノはプロデュースかな。ネットワークとの接続はリノしか出来ないから。配信中はもう好きなことやってもらっちゃっていいよ!」

「いーねっ!なら早速、ウルちゃんっ!キートちゃんっ!作戦会議を始めようかっ!」

「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て、オイ勝手に決め付けんな女狐、飛躍し過ぎだ、あと三歩ぐらい後ろに下がれ」


 えー、と文句を垂れるコリンの襟首を掴んで無理矢理後ろに下がらせると、溜め息を一つ。

 危なかった……あと少し、この狐に任せていたらトントン拍子で出演が決定してしまうところだった。


「全く……おい、キートとやら。お前からも言ってやれ。こちらには、そんなおちゃらけたことをするつもりは無いってよ」

「良いんじゃないですか、別に」

「あぁっ!?お前マジかっ!?」

「ほら言ったじゃーんっ!人間ってのは娯楽には逆らえないもんなんだよーっ!」

「うるっせぇ!そのフサフサそうな耳と尻尾引っこ抜くぞ!!」

「これアクセサリーじゃないよっ!?モノホンだからねっ!?血ブシャーだからねぇっ!?」

「じゃあ、三人とも承諾ってことで……」

「してねぇわっ!!喰うぞっ!!」

「ぷぅっ!?ここぞとばかりに肉食の権威を主張しないで!?こちとら草食だぞぉっ!?」


 ……といった具合に、良くも悪くも波長が合っていたのか、色々な意味で賑やかしい言い争いが絶えないのがこの面子の特徴でもある。

 そうやって話の脱線が混沌としてきた辺りで、堂々と本題を引き戻すのは、生真面目なキートの役割だった。


「エクォルトシティの象徴となる……その言葉には、何か他とは異なる意欲を感じたのですが、どうなのでしょう?」

「それは……えっと、何て言えば良いのかな……今のエクォルトシティは、現実世界という土台に紐糸で吊るされて、現実的に辛うじて成り立っている状態なの。放っておけばいずれ紐糸が千切れて、この不安定な世界は消失する。それを回避する為には、現実世界との繋がりをより密接にするしか方法はないってこと」


 『アミュファ』が配信グループとして有名かつ人気になれば、現実世界の人間たちは、自動的にアミュファとエクォルトシティを認識するようになる。

 その認識度が多くなればなるほど、現実世界とエクォルトシティの繋がりはより密接的になっていき……少なくとも、その世界が自然に消失する事態は防ぐことが出来る筈だ。

 世界の認知度を上げたいとか、その規模を広くしたいとか、そういう野心めいたものではなく……あくまで最終地点は、世界存続の確定。

 幸いにも、現代はネット社会であり、動画配信が大きく流行している。

 それを利用し、上手く波に乗ることが出来れば……不可能な話ではない。

 リノリスは、そう語っていた。


「なるほどな、理屈は分かった」

「じゃあ……!」


 顔をパァッと明るくさせるリノリスに対して、ウルは未だ強張った表情で……こう吐き捨てた。


「────だからなんだ?」

「え」

「要は、お前自身の世界を守りたいってだけの、お前の都合に過ぎないだろう。それが、ウルたちとどんな関係がある?それを手助けしたところで、ウルたちに何の得がある?」

「あ……っ」


 何かを察した様子で目を見開き、顔を陰らせて口をつぐむ。

 そんな彼女の姿を見かねたように、キートが感情の起伏を感じさせない口調で語り始めた。


「リノリス様もフィーネスの身であるからこそ分かるでしょうが……自分たちは世界にとっての重要人物フィーネスではあっても、必ずしも、『英雄』という訳ではない、人助けが趣味という訳ではない」

「『英雄』っ!カッコいいっ!コリンも『英雄』になりたいんじゃーいっ!」

「てめぇは黙ってろ」

「はーいっ」

「自身を縛る制約が無く、そこに手を貸す意味を見出だせない以上……彼女らが協力することは有り得ないでしょうね」


 このままでは、見ず知らずの人が発した、ただの我が儘で話は終結する。

 御恩と奉公、双方の利益……結局、人間は自身に利益をもたらされなければ、他人のことに労力を提供する気は起きないものだ。

 特に、彼女ら(フィーネス)のように我が強い者たちならば、尚更のことだろう。

 だからこそ。

 リノリス=トラントは、用意していたカードを切ったのだ。


「つまり、こういうことだよね────要請に見合うだけの対価を示せば、協力もやぶさかじゃないってことだよね?」

「……!」


 その人が変わったような強気な発言を前に、もう一度、三体のフィーネスは目を見張らせる。

 それこそ、リノリスが有する〔至宝〕としての片鱗を現したものだった。

 フィーネスとしての器を持ちながら、同時に『至宝』と呼ばれる至高の存在をその身に秘めた、異例中の異例。

 『エクォルトシティ』は、『アミュファ』は、仮初めの『四大獣』は……間違いなく、この時に始動したのだ。


「じゃあ、今、提供してあげるね。ここに居る皆が────絶対に、協力せざるを得なくなる『対価』を」



─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─



 レイヴス宮殿のベランダから眺める、エクォルトシティの夜景は壮観だ。

 〔至宝〕の手で創造された当初は、宮殿を中心に半径数十メートル程度の町並みしかなかったが……今では、“現世からの認知度も相まって”、地平線の彼方へと広がる大都市にまで成長した。

 中には夜行性の獣人もいる為、真っ暗闇な夜中でも町並みには点々と穏やかな光が灯っていて、まるで壮大なイルミネーションを眺めているようだ。

 個人的には景色を眺めて感傷に浸るような性格ではないのだが……召喚当時からこの世界に関わってきた存在としては、何処か感慨深いモノを感じるものである。

 そうやってベランダの高欄に腰掛けて、ただただ無心に夜景へと没頭していると……後ろから陽気な声が掛けられた。


「やほーっ、キートちゃんっ」

「コリン?あれ、ウルは一緒じゃないんですか?」


 ヒョコリと視線の端に顔を出したコリンは、軽快な動作で隣に腰掛ける。

 いつもの流れならば、彼女ともう一人、ウルも集まってくるのだが……どうやら、一緒に来た訳ではなさそうだ。


「なんか話したいことがあるって、リノちゃんのとこ行ったよーっ」

「そうですか……」

「何話すのかなぁっ……頑張って偉かったねってナデナデしてあげるのかなぁっ……いいなぁっ、コリンもナデナデして貰いたいなぁっ」

「はぁ……あなたは平常運転ですね、羨ましい位に」


 身体を左右に揺らしながら楽しそうに語るコリンを横目で見ながら、思わず呆れて溜め息を一つ。

 リノリス=トラントの心情を全て察することは出来ないが……少なくとも彼女は目の前に敷かれた分かれ道の内、エクォルトシティに残る道を選んだ。

 だが恐らくは、もう片方の道に無感情だった訳でもない。

 きっと、苦渋の選択だった筈だ。

 そうでなければ、“とうの昔に決断した筈の選択”を告白するのに……ここまで引き延ばす意味はなかった筈なのだから。


「(じーっ)」

「な、なんですか?」


 気付けば、コリンが食い入るように開かれた瞳で、ジッとこちらの顔を見ていることに気付き、反射的に驚いて肩を震わせてしまった。


「キートちゃーんっ、そこはキートが代わりにナデナデしてあげましょうか、って気を利かせるところだと思うんだけどなぁっ」

「知りませんよそんな気遣い」

「……だめっ?」

「……」

「だめだめっ?」


 ズイッと吐息が当たる位にまで顔を寄せ、キラキラと輝く瞳を見せ付けてきた。

 『アミュファ』の視聴者たちからは、コリンのそういった純粋無垢な人柄が好きだという声が多く上がっている。確かに、年頃の男子がこうやって美少女から詰め寄られてしまったら、誰でも好意を持たざるを得ないだろう。

 確かに彼女は一人の人間として内外共に魅力的な人物だが……慣れ親しんだ人物が詰め寄ってくるのは、ただ単に鬱陶しく感じるだけだったりする訳だ。


「あーっ!もうっ!分かりましたよっ!撫でますよっ!撫でればいいんでしょうっ!?」

「わーいっ!コンコンとご立腹しながらナデナデだーいっ!あははははっ!」


 仕方がないので、コリンの服を引っ張って膝に寝かせると、両手で乱暴に彼女の小さな頭を掻き撫でてやった。

 髪をグシャグシャに乱されながらも無邪気に笑うコリンだったが、こちらは彼女の調子に翻弄されて力が抜けてしまう。

 気付けば、片手の指先で彼女の艶やかな白髪の手触りを堪能するようにして、その乱れた髪を綺麗に整えていた。衛生的な意味合いは何一つもないが……毛繕いでもしているような気分である。

 すると、気持ち良さそうにニンマリと笑っていたコリンが、唐突にこんな話題を持ち出してきた。


「召喚された身なのに勝手なものだよねぇっ、フィーネスって連中はさぁっ」

「……まぁ、この身に制約が無ければ、この心に義務がある訳でもありませんから」

「条件は異世界を渡ることだけ。それさえ満たしちゃえば、強靭な肉体と、常軌を逸した力を与えられる……今時の求人でも見ないよっ、こんなメリットばかりの召喚条件なんてねっ。まぁ、自分で決められる訳じゃないんだけどっ」

「求人って……現代っ子ですか、あなたは。ですが、あのバシアの言った通り……現世にとってのフィーネスの存在は、調和を乱す不穏因子でしかない。それを、全面的に擁護することは出来ませんが……」


 例えるならば、戦争兵器に人間の思考力と匹敵するAIが搭載されているようなモノだろう。

 人は兵器を持たなければ兵器に太刀打ちすることは出来ないが、フィーネスは生身だけで兵器と同等の力を発揮することが出来る。

 現世には、フィーネスのように超能力を持った人間は居ない。居たとしても、あくまでもフィクション上だけの架空の存在だ。

 だが、それこそが現世における平常な環境であり、その環境の中で人々は調和と平穏を保って生きている。

 そう、そもそも最初から彼らに超能力は必要ないのだ。

 そんな中、異世界という名の外部から、余計な存在を引っ張ってくる行為は、ただただ混沌を招くだけの愚行に過ぎない。


「正直、ここまで危険な者たちを野放しにしてしまう位ならば……最初から、フィーネスの器なんて創造すべきではなかったんですよ」


 もし、何らかの理由でそれらを招くことがあったとしたら、あくまでも現世の人間でも自制させることが出来る楔を埋めておき、自らの意思通りに動く道具に留めておく必要がある。

 現世からすれば、フィーネスは圧倒的強者。

 一度、この弱者しか居ない世界で、フィーネスたちが支配を目論んだら……最早、それを止める術は無いも等しいのだから。

 だが、フィーネスは、奴隷とも道具とも違う。

 行動制限が無い身体に、自由の思想と意思を持った存在として顕現してしまった。

 それは現世にとって、いつ起動するか分からない爆弾を抱えてしまった、と同様なのではないだろうか。


「ん~っ、創造すべきじゃなかったって……その台詞って、ちょっと他人事じゃないかなぁっ。フィーネスの器があったからこそ、キートちゃんも蘇ることが出来たようなモノだし……」

「キートは、嫌いです」

「えっ?」


 コリンの言葉を遮るように頭を垂らしながら口にした一言に、彼女は呆気に取られた様子で目を見開いた。


「フィーネスだとか、力だとか、戦いだとか……そういうの、キートは嫌いなんです。そんなもの全部、何処かへ消えて無くなってしまえば良いのに……」


 戦いは、嫌いだ。

 競い事も、争い事も、自分と誰かの優劣を決めるなんて行為は、願わくばやりたくもない。

 特に、自らの命を懸けて戦う、戦争や殺し合いのようなモノは、何よりも。

 フィーネスとして召喚されなければ、力を授かることもなかった……力を授けられなければ、戦いに身を投じることもなかった……だが、その経緯が無ければ、フィーネスとして顕現することはなかった。

 そう考えると、至極複雑な気分になるものだ。


「コリンのことも、嫌いなの?」

「……へ?」

「コリンは、皆のこと好きだよ。自分のことも、リノちゃんのことも、ウルちゃんのことも、そしてキートちゃんのことも……みんなみんな、大好きっ。勿論、現世に戻った日陰舘雅人ちゃんのこともねっ」


 瞳を潤わせながら語るコリンを前に、またまた溜め息が漏れる。

 この地の獣人ならばまだしも、エクォルトシティにとって不利益でしかないだけの日陰舘一族まで好く意味が、到底理解出来ない。

 だが、そういう突拍子もないところも含めて、コリンというフィーネスであることは、ここ最近でようやく分かってきた。


「……まったく。あなたは、本当に仕方がない人ですね」

「んっ……?」


 だからもう、“気遣う必要もない”。

 不思議そうに首を傾げるコリンへと、ゆっくり、ゆっくりと顔を近付けていくと……。


 ────その喉元を鷲掴みにする。


 そして、少しでも力を加えれば簡単にへし折れそうな華奢な首を握りながら、こう囁き掛けた。


「んッ……けほッ……」

「つくつぐ思います。あなたとは今後も────一生、分かり合えることはなさそうですね」


 今にも絞め殺そうとする横暴な行為を前に、コリンは苦しそうに一つ咳払いをしてから……何もかも見透かしているかのように、ニッコリと、無邪気な笑顔を浮かべるのだった。


「そだねーっ────とっても同感かなぁっ、ふふっ」



─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─



 〔奴隷〕属性を与えられたフィーネスの特性の中に、《服従》というモノがある。

 

 《服従》とは────己が主と定めた者に忠誠を誓い、その者の命令に従うことによって己の身を縛り、ステータスを大きく向上させる《特性》。ただし、一度その特性を発現させた者は、半永久的に主なる者に付き従うことを強要される。


 各々によって度合いは異なるものの、パトス・レイヴから〔奴隷〕として選出されたフィーネスに関しては……《服従》の効力は桁違いに高いと言えるだろう。

 パトス・レイヴで生じていた主従関係とは、『絶対』に近い常識だった。

 “世界が滅亡するその時まで”、誰一人として、それを破ろうとする者が居なかった位なのだから。


 そしてそれは、リノリス=トラントも同等だった。


 エクォルトシティという世界を創造し、フィーネスをも召喚した、『至宝』の力。

 これさえあれば、ひょっとすると、“属性”の変革さえも可能なのではないかと踏んでいたのだが……現実は、思い通りには動いてくれなかった。

 〔奴隷〕の属性と『服従』の特性は、リノリスがリノリスで在る限り、一生付いて回る。

 それを証明するかのように……自分が召喚されたと同時期に、『ジェスタ』という人物が、現実世界に顕現された。

 彼の正体は────パトス・レイヴにおける、自分の元主様だ。


「どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?」

「い、いえ、そういう訳では……」


 そこは、レイヴス宮殿奥部の『四跡の玉座』。

 玉座に腰掛けるジェスタが腕を伸ばせば届く距離感に立ち、彼の心配するような言葉を投げ掛けられ、反射的に首を横に振る。

 かつてのパトス・レイヴの時も、そうだった。

 彼はいつも、優しい言葉を投げ掛けてくる。

 奴隷である者を、気遣うように寄り添い、慰めるように頭を撫でて、傷だらけの身体と心を癒してくれる。

 そして、安心しきって彼の胸に身体を埋めると、最後には……。


「そうですか。ならば────さっさと、脱げ」

「…………っ……は、い……」


 まるで、「お前に逃げ場はない」、と恐ろしい程の低い声で脅し立ててから、奴隷たちを竦み上がらせ……その服従心を、手中に収めるのだ。

 凄まじい豹変ぶりで放たれたアメとムチによる調教は、これまで何人もの奴隷たちを廃人にまで追い込んで来た。

 彼のドスのきいた命令を受けると……途端に頭の中に霧が掛かり、拒否しようとする思考がドロリと溶け落ちていってしまう。

 そして、自分でも気付かない内に……小刻みに震える指先が自分の服に手を掛け、一枚、一枚、衣類を脱ぎ下ろしていく……彼の、望むがままに。


「ふふっ、そうやって従順な姿を晒している方があなたらしいですよ、リノリス」

「……ぅっ……ゥ……ッ」


 針の穴のように狭まった視界の中で、ジェスタがニヤけた顔を浮かべているのが微かに見える……。

 何をされているのかは、分からない……。

 なんというか、全身がむず痒くて……だけど、抵抗することが出来なくて……とにかく、もどかしくて、気持ち悪くて……何より、何でか分からないけれど……。


 ────悔しくて、堪らない……。


「あなたが何を目論もうと、何を目指そうと……全てが、無駄なこと。精々、覚えておくことです。エクォルトシティも、獣人も、そこにある命も……ぜぇんぶ、私がこの手で握り締めていることを」

「……はッ……は、ァッ……ぁ……っ……ァ……ッ」


 息遣いは荒くなっていくのに、意識は段々と薄れていく。優しく頭を撫でるジェスタの手つきが、眠気を誘ってくるかのように。

 何を、言っている……?

 無駄って、どういうことだ……?

 眠い……寝たら、駄目だ……苦しい……聞いちゃ、駄目だ……忘れるな……忘れちゃ、駄目だ………………何を?


「だから、安心して委ねれば良い。奴隷共あなたたちの未来は────この、私様が決めてやる」


 次の瞬間、視界が完全に暗転。

 意識が真っ暗闇の中へと溶け落ちた時……最後の最後で、自分は“何事か”を無心に呟いていたのだった。


「…………は……い……愛して、います……ご主人、様……」

「私も愛していますよ、リノリス……」


 だから、気付かなかった。

 『四跡の玉座』の入り口付近に身を隠して、険しい表情で玉座の上を睨む────ウルの存在があったことを。


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