2-8 災害襲来《弄編》
いつのことだったか……。
あれは確か、万年負け組と嘲笑われていた自分が、パトス・レイヴで毎日のように開催される奴隷闘会で、初めて勝ち星を“上げそうになった”時のこと。
────声が、聞こえた。
助けて、と……もう嫌だ、と……殺して、と……。
それがまるで、地獄から湧き出てくる呻き声のように聞こえて……当初は、何が何だか分からないまま、思わず耳を塞ぐように声を荒げながら、とにかくあちらこちらへと逃げ惑った。
だが、声は一向に止む気配すら見せず。
むしろ、聞かないように意識する程に、強く、鮮明になって、鼓膜を叩き付けてくるのだ。
逃がさない……聞け、聞け、聞けっ、聞けっ、聞けッ、聞けッ……と、何度も何度も、耳元で脅したてるように。
当時、生涯を奴隷として生きる獣人にとって、奴隷闘会とは、唯一の収入源であり、自らの地位を向上させる為に最も適した場所だった。
勝てば生き残り、負ければ死ぬ……そんな残酷な環境でありながらも、自らの命を懸けて戦い続けるしか……獣人たちには、生きる手段はなかったのだから。
それなのに、声が聞こえるようになって以来、闘技会に参加するのが無性に恐ろしくなり……しばらくの間、戦いから身を引くようになってしまったのだ。
しかし、まさか、その身を切るような決断こそが……。
遠くもない未来で、自らを────『かの者』たらしめる原因となるだなんて、夢にも思わなかった。
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侵略や略奪ではなく、『消滅』を促す言葉。
フィーネスや世界意志の視点ではなく、どちらかと言えば……埃に似た思想の持ち主。
だが、奴等とは何かが違う。
敢えて言葉にするならば、利己的ではなく、利他的な言葉に聞こえる、といったところだろうか。まるで、自分個人の意志ではないかのように。
(おいおいっ……本当に、その言葉の意味が分かって言っているのか……?こいつらの前で言う『排除』ってのは、つまり……)
────宣戦布告。
仮にもこの世界の守護者の称号を持つ者の目の前で、大胆な抹殺宣言を口にしたバシアは、不敵な目付きでキートを見下ろしている。
それに相対するように、静かな殺意を全身から滲み出すキートは、一切動じずに刀の柄に手を掛けた。
「あなたの主張は理解しました。ですが……させるとお思いで?」
「意気込むのは結構。だが、もう遅い。私が蒔いた調律の種は────既に、世界全体に根付いている」
「……!」
バシアが含みのある笑みを浮かべながら小さく腕を前に差し出すと、閉じた手のひらを、緩やかに開いた。
まるで、一つの蕾が花弁を咲かせるように。
次の瞬間。
彼女の言動に呼応するかのように、何処かから雄叫びらしきモノが響き渡ってきた。
「ガァァァァァァ────ッ!!」
思わず、雄叫びが聞こえてきた方向へと視線を向けると……先程、ウルが引っ張っていった二人の獣人が、明らかに正気を失った様子で喚き立てていたのだ。
周りの獣人たちが慌てて制止させようとするものの、一切耳を立てる気配も見せず、その巨木のような腕を振り回して暴れ回っている。
ただ、それだけではない。
よく耳を澄ましてみれば、聞こえてくるのは彼らの雄叫びではなかった。
一つ、二つ、三つ……五つ、十つ……いいや、まだ、まだまだ……。
幾多の声が入り混じり合うように、世界全体に反響していたのである。
「『四大獣』よ。貴様らの意志と、私の意志……どちらがより強固かつ鋭利なのか。貴様らの手駒の身を使って証明してみるが良い」
化け物としか言い様がない、斬られても痛手にすらならない身体を持つバシア。そいつは、エクォルトシティの住人たちを人質に、その地を守護する四大獣に宣戦布告を叩き付けた。
みるみる内に、正気を失った獣人たちはその数を増していく。
もたついている暇はない。
だが、相手の実力も、特性も、正体も未知数。
そんな不可解という言葉を形にしたような人物の残酷なまでの挑発に対して、キートは……。
「……いいえ、その必要はない」
そう言い捨てながら、その場で踵を返して、柄に掛けられた手をゆっくりと下ろす。
あまりにもアッサリとした引き際に、むしろバシアの方が驚いた様子で唖然と立ち尽くしていた。
「なに……?なに、を……言っ、て、ぇ、ェッ……?」
しかし。
バシアが口を開いた瞬間、何やら空気が漏れ出るような声が発せられたと思いきや……。
ズルッと、そいつの顔面がズレる。
何が起きたのか分からず、反射的に目を凝らしてみると……バシアの頭から足に掛けて、幾つもの筋が浮かび上がっているのが見えた。
それに沿って滑り落ちるようにズレている様子を目の当たりにして、ようやく、状況を理解する。
一瞬たりとも、そんな素振りは見せなかった筈だが……間違いない。
恐らくは彼女が、キートがその手を刀の柄に手を添えた瞬間には────既に、バシアの全身は“切り刻まれていた”。
「敬意を称しましょう、たった一人で宣戦布告に臨んだあなたの度量に」
「お……ッ……ッ」
「ですが、四大獣はこの世界に仇なす者を決して許しはしない。なれば、あなたの意志も、目論見もろとも……“徹底的にぶっ潰してやります”────四大獣が一人、『黄き獣』の名の元に」
そして、四大獣としての片鱗を見せたキートが、短く息を吐いたと同時に────輪切りにされたバシアの全身は、一斉に崩れ落ちる。
あまりにも速い太刀筋を前に、悲鳴すら上げられずにバラバラにされてしまったバシアだったが……。
「……ッ……ッ………………クスッ」
やれるものならばやってみろ……そう言わんばかりに、ほくそ笑んでいた。
身体のパーツが地面に叩き付けられる度に、ボトボトッと水面に落ちるような音が響くものの、それらが全て地面を転がる頃には……そのパーツたちは、地面に溶けるように消失してしまう。
だが、辺りを取り巻く異変に、収束の気配はなかった。
正気を失った様子で暴れ続ける獣人たちは、更に狂暴さを増し……先程までは彼らを止めようと奮闘していた者たちも、次々と倒れ伏せてはゾンビのように立ち上がって暴動を起こしていく。
今にも滅亡を起こしかねない、世紀末染みた現状を前に……キートはすこぶる落ち着き払った様子で、首を傾げていた。
「……脳も、心臓も、あそこまで切り刻んでも死には至りませんか……どうやら、正攻法で彼女を倒すのは不可能のようですね」
世界の命運をそっちのけで考えにふけるキートの少々無責任な言動に、妙な不信感を覚えて声を掛ける。
「……お前は、あの女のことを知っているのか?」
「えぇ、まぁ……ですが、今はそんなことどうでも良い。重要なのは、連中が『世界』という形態にとっての敵である、ということ。あの力が、洗脳系の特性なのか、侵食系の特性なのか……それすらハッキリしない以上、一度見失ってしまえば対処するのは難しいことでしょう」
「ならば、尚更落ち着いている場合ではないだろう?このままでは、あのバシアの宣言通り……このエクォルトシティが滅亡することになるぞ?」
世界の均衡は、いつだって一本の綱の上で成り立っている。
どちらかに大きく偏れば、必ず均衡は傾き、そのまま滅亡という奈落へと墜落してしまう。
今、このエクォルトシティの均衡は、いずこからか現れた『回廊』の手により蹴落とされようとしている。
それを防ぐには、何がなんでも事を起こした張本人を止める必要があるのだが……意外にも、その立案者として声を上げたのは、キートではなかった。
「────心配要らないよ」
「リノリス……?」
ようやく落ち着きを取り戻したリノリスが、腕をを擦りながら立ち上がると……彼女の目の前に立つキートが、分かりきった様子で軽く頭を下げた。
「……その言葉を待っていました、姫様。我らの覚悟は決まっております。どうかその気高き信念の元に……大いなるお力を振るい下さい」
(……なんだ……?大いなる、力……?)
キートの言うそれは、リノリスの、フィーネスとしての力を示しているのではないということは、何となく察知した。
そもそも、最初から疑問だったことだ。
何故リノリスが、世界意志の妃、等という極めて異例な立場に立つことになったのか。
その答えは、次にキートが口にした言葉で明かされることになる……。
────これまでの常識を軽々と覆す、衝撃的な事実と共に。
「エクォルトシティの創造主────『至宝』の所有者よ」
(し、『至宝』……!?)
今思えば、リノリスが居なくなったパトス・レイヴが滅亡したのは……必然だったのかも知れない。
『至宝』とは、世界存亡において唯一無二かつ必要不可欠な宝物。フィーネスとは別の意味で特別な力を有している、世界の命にも値する核も同然の存在である筈なのに。
それなのに……まさか、まさか……。
フィーネスとして顕現した筈のリノリス=トラントが────同時に、『至宝』の力をも持ち合わせていただなんて……。
「リノリス……お前は……っ」
動揺に暮れるこちらの声には反応せず、一歩だけ足を前に踏み出したリノリスは、緩やかに手を上に掲げると……天に向かって、呼び掛け始めた。
「……おはよう。うん、少し力を借りたい。リノが“敵の位置を割り出す”から、あなたは“リノの言った通りに世界を叩け”。そう、出来れば、少し手加減してね。あなたの衝撃は、世界一つだと支えきれないから」
一体、誰を相手に、何を話しているのだろうか。
少なくとも、自分やキートに対するモノではない。
そもそも、世界を叩けだったり、世界では支えきれない衝撃とかだったり……もしもそれが比喩ではなかったとしたら、彼女が口にする要請と思われる言葉の節々は、全体的に度を越えている。
そんな馬鹿げた現状を引き起こすことが出来るのは……最早、意志すら持ち合わせていないような、自然災害位しか有り得ないのではないのでは……。
「雅人様、ROSCの用意を。自身の身は、自身で守って下さい」
「え?」
隣からそう忠告されたと思ったら、既にキートはその場から避難するように走り去って行った。
彼女の後ろ姿を見ていると嫌な予感が頭を過り、慌ててROSCを握る手に意識を集中させる。
次の瞬間。
リノリスが掲げた腕を、緩やかに前に突き出すと……。
「そうじゃあ、行くよ。この世界に仇なす者に、獣の制裁を下せ────『紅き終獣』」
まるでリノリスの呼び掛けに呼応するかのように────文字通り、世界が大振動を起こすのだった。
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獣人を始めとした、『亜人』と呼ばれる種族が持つ最大の特性は……その並外れた身体能力だ。
一例として上げられる腕力や身体の頑丈さは、通常の人間のそれを遥かに上回っている。
各個体によってある程度の個人差はあるが……。
その拳を振るって地面を叩けば、大地に亀裂が走り……乗用車と正面衝突すれば、傷一つ付くこと無く、平然と立っていられることだろう。
仮に、このエクォルトシティに人間の鎮圧部隊が居たとしても……銃器や武器を用いたところで、暴走した彼らを止めるのは限りなく不可能に近い。
かつてのパトス・レイヴでは、人間たちは『束輪』と呼ばれる首輪型拘束具を獣人に付けて自由を奪うことで、彼らを奴隷として使役していたが……エクォルトシティには、そうした獣人への枷は顕現されていなかった。
つまり、この世界で暴れる獣人たちを止めるには、物理的な手段で再起不能に陥れるしか方法がない為、主にウルが現場に赴いて仲裁していたのだが……。
「チッ……こりゃあ、洗脳か何かってか?どんだけ殴っても痛がりもしないじゃねぇか……よぉっ!!」
青い炎を纏った拳で、大柄の獣人を思いっ切り殴り倒すものの……まるで跳ね返るように身体を起こしては、狂ったように反撃を繰り出してくる。
以前、コリンに無理矢理見せられたホラー映画とかに登場する、ゾンビとかいう生物ですら、強い衝撃を与えればしばらくは動けなくなる筈なのに……こいつらは、一向に倒せる気配が無い。
具体的に言うならば、意志の無い操り人形を相手にしている気分だ。
正直のところ、相性はかなり悪い。
素直には認められないが……こういった、精神に働き掛けてくるような特性に対しては、潜質の扱いに長けたコリンの方が、より有効的に立ち回れるに違いないだろう。
「無理無理無理だよぉぉぉぃッ!!ウルちゃん助けてぇぇぇッ!!」
おい、少しでも期待を向けてやった気持ちを返せ。
通りの向こうから姿を現したのは、全速力でこちらへと疾走するコリン。
彼女の後ろの方からは、数多の獣型の獣人たちがヨダレを撒き散らしながら、その後を追い掛けてきていた。
「オイぃぃぃぃぃッ!!?どんだけ連れて来てんだ引率の先公かテメェはぁぁぁぁぁッ!!?」
最早それは、一個軍隊の襲撃。
色々な意味で衝撃的な光景を前にして思わず驚愕の声を上げてしまうが、コリンの人柄から考えても、その慌て具合が本気なのか冗談なのかが分からず、素直に心配することが出来ない。
取り敢えず、あんな大軍勢の大進撃に呑み込まれるのは御免だと、追い付かれる前に逃げ出そうとするが……その前にコリンは、いつの間にかウルの背後に隠れるように回り込んでいた。
「ウルちゃんっ!お得意の青い炎でコッコーンとやっちゃってぇっ!」
「引っ付くな女狐ぇッ!!原因が潜質によるモンならお前の分野だろうがよぉッ!!」
「上手く出来なかったぜっ、完全にお手上げだーいっ!」
「アァァッ!?何でだよもっと努力しろよてめぇッ!!」
「ウルちゃんっウルちゃんっ!早く逃げないとコンコンッてボコボコにされちゃうよぉっ!」
この女狐マジで……。
頬をツンツンと指先で突かれて現実に返ると、眼前には波の如く押し寄せる獣の群れ。
意識を飛ばすつもりで力強く殴っても無駄ならば、物理に頼りがちなウルには、解決する手立てはない。
加えて、コリンですら対処することが出来ないとなると……完全な八方塞がり。
残された手段は────逃げるしかない。
「クソがァァァッ!!あいつらより先にウルがてめぇをゴチャグチャにしてやろうかァァァッ!?」
「なにそれコワイっ」
首に両腕を回して引っ付くコリンをぶら下げたまま、獣の軍勢に背を向け……静かに深く、意識を沈めるように息を吐く。
すると、身体は前屈みに、両腕と両足の形が変型していき、その全容はみるみる内に……。
────獣型に変貌していった。
周りの獣たちを下に見る位の大きな体躯、全身を覆う長く深い青色の獣毛が風になびく。
その猛々しい姿は、まさに威厳をも感じさせる神獣そのものだ。
そして、全身を支える四本の肉厚な脚が、勢いよく地面を蹴った瞬間……。
────ウルの姿は、音を置き去りにして消失する。
正確には、消えたのではない。
消えたと錯覚してしまう速度で、大地を駆けたのだ。
突風よりも速く、立ち塞がる獣人たちを風圧で吹き飛ばしながら、通りを駆け抜けるウル。その背中から、ヒョコッと顔を出したコリンは楽しそうに声を上げた。
「ふわぁぁっ!これは爽快ですなぁっ!」
『振り落とされんじゃねぇぞ!』
「分かってますよぉっ。それにしても、この軽快ぶり……なるほどっ、相当に『獣』の経歴が長いと見たねぇっ」
『……チッ、余計なヒントをやっちまったかな……』
「ふっふっ、これでまたウルちゃんの〔属性〕に一歩近付いたもんねっ!」
ウルやコリンを含む『四大獣』は、パトス・レイヴとは異なる世界から召喚されたフィーネスだ。それも、“『獣人』をベースとする器”に入れられた、獣人型フィーネスという奴である。
その為、各々が別の三体の《特性》や〔属性〕を完璧に把握している訳ではない。
獣人かも知れないし、獣かも知れないし、人間かも知れない……どんな戦い方を好み、どんな相手が苦手なのか……四大獣たちは、エクォルトシティに召喚されて、『アミュファ』として活動しながら、密かにそんな腹の探り合いを続けていたのだ。
果たして、相手の《特性》と〔属性〕の正体を見破ることが出来たのか……その真意は、まだ明らかにされていない。
『ところで……この現状、お前はどう見る?あいつらに、何が起こってやがるんだ?』
「現状はぁっ、フカフカなベッドで寝ている気分かなぁっ」
『おいっ、ふざけている場合じゃねぇぞ』
少しだけ呆れたように真剣な口振りを返すと、背中に寝そべっていたコリンは無言で上体を起こしてから、腕を組みながら首を傾げる。
次に、彼女の口から出てきたのは、今までの呑気な口調とは裏腹に、芯まで引き締まった卓越者の優れた推測だった。
「……潜質による洗脳や暴走を発生させる類いの特性は、大抵の場合、対象者の身体の中に潜質が侵入しているだけに過ぎない。その程度なら、コリンが直接掴み取って除去することも出来る……だけど……」
『だけど?』
「それをありのままな表現で言葉にするなら、そう────“彼らの骨格そのものにまで、潜質が侵食している”、ってところかな」
『……何者かの潜質が、あいつらの皮と肉を被って、身体の中から無理矢理動かしている、って訳か……』
まるで、着ぐるみを被っているかのようだ。
相手の思考を洗脳して自らの意のままに操る、といった《特性》は数多く存在することだろう。
だが、身体内部の骨格に侵食して相手を直接動かす、性悪い《特性》があるだなんて……気味が悪い話もあるものだ。
「正直、ちょっと驚いたかな。これは通常の汎現の適用範囲と比べて、極めて生物の深い部分にまで侵食する稀有な力だよ。多分、コリンが無理矢理その潜質を引き抜いたら、一緒に彼らの骨格も破壊することになっちゃう」
『つまり、同族同士で潰し合いをさせようって腹積もりか……ったく、厄介なことをしでかす野郎がいたもんだ。だが、どうするよ。このままじゃ、いつウルたちにも影響が出るか分からねぇ。下手をすれば、全滅も待ったなしだぞ』
特性の一つとして考えられるのは、対象となるのは一人だけではなく、疫病のように広がって、幾多の存在を巻き込んでいくタイプだということだ。
その規模と影響力は、通常とは比較にならない。
こんな命を陥れるような現象が自然災害ではなく、何者かの意志によるモノであるというのならば、そいつが望んでいるのは間違いなく……。
人々の虐殺から連なる、世界の滅亡。
四大獣の称号を持つ者として、ウルとコリンには、自らの身を懸けてでもその思惑を妨げる義務があるものの……今の段階では、文字通り、手も足も出せない。
せめて、この不可解な《汎現》を仕掛けた本体を見つけ出すことが出来れば、事態の好転が望めるのだが……。
「……ん~……もしかしたら、心配要らないかも知れないよ?」
『あん?』
ウルの背中の上で足を投げ出して座るコリンが、左右に身体を揺らしながら何事かを呟く。
彼女の細く開かれた瞳は、遠くに見える丘の方向へ。
その上に建つレイヴス宮殿を遠目で眺めていた。
そして、ゆっくりと口を開いて告げる────今まさに到来しようとしている、世界の覚醒を。
「さっきから、凄い勢いで“巡って来てる”んだぁっ────『四体目』の気配が」
その言葉を聞いたウルは驚愕した様子で目を見開き、慌てた様子で声を荒げながら、進行方向を前方から真上へとシフトする。
『な……っ!?さっきからって……てめぇそういうのはもっと早く言えッ!!跳ぶぞッ!!』
「わーいっ!コーンっと、空中散歩だーいっ!」
このエクォルトシティは、異端だ。
本来あるべき世界の在り方から大きく逸脱して、一歩間違えれば、次元という枠組みを揺るがしかねない、不安定な存在として成り立っている。
もしも、世界の抑止力や次元の調律者の目に止まれば、彼らはこれを必ず排除しに現れるだろう。
だが、忘れてはならない。
そんな、いつ足元から崩れ落ちるかも分からない不安要素抱えながらも……エクォルトシティは、今日この日まで存続していたということを。
彼女らは、ずっと備えていた。
世界の脅威に匹敵するだけの力を有していることを、絶対的支配者たちへと思い知らせてやる為に。




