第8話 煙草の吸い殻
僕の叔父はクソだ。
お父さんの弟で30歳、無職。偶数月の十五日になると必ず僕の家にやって来てお婆ちゃんにお金をせびる。せびるくせに態度がデカい。お婆ちゃんはいつもビクビクしながらクソにお金を渡す。
僕は10歳だ。子供だから毎年もらえるお年玉を覚えている。誰からいくらもらえたか……。でも、クソからは1円すらもらったことがない。
お婆ちゃんからお金を奪う様子を睨んで見ていたら、「しばくぞ!」とクソから言われた。「しばく」って言葉が分からなくて、クラスの友達に聞いたら、関西弁で「殴る」って意味だと知った。クソは関西弁を使えば強くなったと勘違いしているんだ。
クソは禁煙の家でプカプカと煙草を吸って家の空気を汚して帰る。無職のくせに煙草だけは良い物を吸っているとお父さんが愚痴っていた。
クソの煙草はいくらするのか気になった。帰った後にビニール袋に吸い殻を入れて、翌日友達に見せた。コンビニを経営している親戚に銘柄を見てもらうと、なんと! イギリス製の煙草で一箱800円もした。
僕と友達は大笑いした。無職のくせにカッコつけて高い物を身に着けているからだ。
子供にとって二か月というのは、興味がないことを忘れる月日でもある。クソの煙草の銘柄すら忘れていた。
またお婆ちゃんに会いにクソが現れた。煙草をプカプカと何本も吸った後、今回はお母さんがお父さんよりも大切にしている猫を蹴った!
「何をするんですか!」
大人しいお母さんは初めて怒鳴った。
「うるせー! ババア!」
クソはお母さんに向かって手を上げた。――僕はとっさに前に立ちはだかったが、身体が小さくて叩き飛ばされた。
もう限界だった。
「お前に渡すお金はもうないから」
お婆ちゃんの一言に、クソは大声を上げて家の中で暴れ始めた。
警察官が数人現れた。被害届を出せばクソは逮捕される可能性があったが、お母さんは渋り、クソは警察から厳重注意を受けただけだった。お父さんも慌てて帰って来たが、ずっとクソを放置していた罪は重く、家族全員からの冷たい視線を感じていた。
家の中を片付けている最中、お母さんがクソの吸い殻を指紋がつかないようにこっそりとビニール袋に入れるのを見た。僕はそれを見てはいけないような気がして目を伏せた。
「また、緊縛強盗だって……怖いわね……」
ゴミ捨て場で、お母さんが近所のおばさんと世間話をしていた。
「いってきます!」
僕はお母さんに笑顔で手を振った。
「おはよう!」
友達が僕に声をかけた。と同時に、「近所で強盗事件があったんだって。犯人の煙草の吸い殻が見つかったらしいよ」と言った。
「吸い殻?」
僕は何気なく答えたが、お母さんの顔が浮かんだ。
「犯人のDNAとか出るかもな」
僕は一瞬違うことを考えたが、すぐに「絶対出るな!」と笑顔で答えた。
2026/02/27




