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短篇集  作者: 猫田たい子
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44/48

第44話 自分の文字

 母が亡くなって一年経った。


 父が老人ホームに入るのをきっかけに、二人で実家の片づけをすると、母のノートが見つかった。


 父とノートを開くと、縦書きの美しい文字が並んでいた。


「お母さんは文字を書くのが好きやったからな~」

「お母さんの字、きれいだね~」


 私はスマートフォンを取り出してページを撮った。

 今は何でも写真に残すのが当たり前になっていた。


 最後のページだけ、横書きだった。

『これを読んでいる頃には、私はもういないでしょう』


 母は誰に宛ててこの言葉を書いたのか気になり、写真を撮る手が止まった。


 続けてこう書かれていた。

『最後の一行は、あなたが書いてください』


 父ではなく、私宛だと思った。


 そのページの写真は撮らず、スマートフォンを置いて、机の引き出しからペンを取り出した。


 紙にペン先を当てたが、何を書けばいいのか分からなかった。

 父の視線が気になりながら、最初に浮かんだ言葉を書いた。


「ありがとう」


 たった五文字なのに、ミミズ文字のように出来が悪かった。

 母の字と比べると、情けなくなった。


「写真は撮らないのか?」

 父が尋ねた。


 私はスマートフォンをポケットにしまい、もう一度ペンを握りしめた。

 時間をかけて、ゆっくりと「ありがとう」と書いた。


 力が入ってノートに文字の跡がついたが、最初の文字よりもきれいに書けた気がした。


「お母さんの字に似てるな」

 父に褒められたように感じた。


「このノート、私がもらっていい?」

「ああ」


 私はノートを閉じて抱きかかえた。

 早く家に帰って、文字を書きたくなった。




2026/10/07


今朝の The Japan News の社説がよかった。

「国語世論調査 文字を手で書く機会大切に」


Sometimes, thoughts become deeper as one is writing.

「書いているうちに、考えが深まることがある」


文字を書くのは大切って話を書きたかった。

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