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短篇集  作者: 猫田たい子
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30/47

第30話 広場のピアノ

 駅の広場には一台のピアノが置かれていた。

 誰でも自由に弾けるストリートピアノだ。


 賑わう人の流れの中で、誰かがピアノの前に座って演奏を始めた。

 拙い指先ながらも人を惹きつける音色だった。


 通り過ぎようとしていた人たちの足が止まっていった。

 気づけば、ピアノの周りには小さな輪ができていた。


 群衆の中から有名な歌手が現れた。

――何の前触れもなくピアノに合わせて歌い始めると、空気は一変した。


 さらに人が集まり、スマートフォンのカメラが一斉に二人に向けられた。

 その光景は瞬く間に映像としてSNSに流れていった。


 「駅で起きた奇跡のセッション」として拡散され、映像は瞬く間に話題となった。


 素人はピアニストとしてデビューし、一夜にして脚光を浴びた人物として語られることになった。


 だが、一部始終を偶然目撃していた者がいた。

 演奏が始まる何時間も前からピアノの下でくつろいでいた猫だ。


――猫は素人と歌手があらかじめピアノの前で打ち合わせをしているのを見ていた。


 群衆の熱狂を高い場所から眺めながら、猫は呟いた。


「人間というのは、つくづくあざとい生き物だ」





2026/05/16

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