第28話 赤色の五月
五月の空気は不思議な色を帯びていた。
空き家のコンクリート壁には、朝日を受けた鮮やかな赤色の細かい点が壁全体を染めていた。
近づいて確認すると、赤色の虫たちは一匹ではなく群れとなって壁の表面をざわざわと波打って動いていた。
「気持ち悪い!」
隣に住む男の子がホースを手に取って虫たちを追い払おうとした。
「やめなさい!」
向かいに住む老婆が現れ、「これは赤色の宝。町を守ってくれるのよ」と制止した。
男の子は不貞腐れながらホースを片付けた。
放火魔が空き家に忍び寄った。
最近、町では放火が話題になっていた。
空き家に侵入してライターで火をつけようとした瞬間――赤い点が一斉に動き出した!
壁から屋根から、風に乗って赤い虫たちはまるで自分たちの意思を持つかのように、放火魔の身体に蠢いた。
一匹や二匹では弱く無力だが、数千、何万もの群れになると、真っ赤な炎のように揺らぎ、圧倒的な存在感で赤色が放火魔を襲った。
「わぁーーー!」
放火魔の叫び声に、男の子が飛び出した。
「燃えてる!」
男の子は驚いて助けを求めた。
燃えているわけではなかった。
赤色の群れが身体中に纏わりついているだけだった。
人が集まり、警官が駆けつけ、放火魔は取り押さえられた。
赤色の神秘は人々に恐怖と安心を同時に与えた。
害はないが群れの力は凄まじく、見る者の背筋をゾッとさせた。
六月になると赤色は姿を消し、壁は元の灰色に戻った。
その頃には空き家に新しい家族が住み始めた。
男の子は考えた。
放火魔に火をつけられていたら、この家族はここに住み始めていなかったかもしれない。
もし自分がホースで赤い物体を追い払っていたら、この家は放火されていたかもしれない。
五月にだけ現れる赤色は老婆の言う通り――町の宝だったのかもしれない。
2026/05/09
うちにも赤色の虫が! タカラダニって言うねんて。ほんまに赤色がキラキラ光って、宝に見えるから宝ダニって言うらしい。害はなく、花粉を食べて、翌月にはもういてない不思議な虫。
蠢くって漢字は、春の虫。まさにタカラダニの事やねー。
漢字って面白い。




