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短篇集  作者: 猫田たい子
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19/48

第19話 意味のない完璧

 その男はいつも『正しそうなこと』を言った。


「本質とは定義されないことによって初めて輪郭を持つんです」


 誰も意味は完全には分からなかったが、誰も反論もしなかった。

 分からないまま頷く方が会議は早く終わるからだ。


 やがて男は『思考の専門家』として扱われるようになった。

 企業は彼を呼び、学校は彼の講義を教材にした。


「重要なのは理解ではなく、理解したという錯覚の共有です」


 拍手が起こるが、内容ではなく既視感に向けられた拍手だ。


 ある日、若い職員が資料を見ながら言った。

「先生、この理論はどこで検証されていますか?」


 男は笑って答えた。

「検証とは誰がそれを『真実として扱うか』の問題です」


 会議室は静まり返った。

 誰もそれ以上質問しなかった。


 数年後、男は『思考を最適化する国家アドバイザー』になった。

 政策文書には彼の言葉が並んだ。


『意味の空白は、最も効率的な合意形成装置である』


 誰も異議を唱えなかった。

 理解できないことは正しいとされたからだ。


 そしてある日、システムが完成した。


『全ての説明は、理解度に応じて自動的に調整されます』


 人々は称賛した。

 もう難しい言葉を考えなくていいからだ。


 最後に残ったメモにはこう書かれていた。

「一番賢そうな言葉が、一番中身を空っぽにしていく」


 そのメモはすぐに『情報の最適化』によって削除された。




2026/04/24

TEDのウィル・スティーヴンの「TEDxで賢そうにプレゼンする秘訣」観て浮かんだ。

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