第19話 意味のない完璧
その男はいつも『正しそうなこと』を言った。
「本質とは定義されないことによって初めて輪郭を持つんです」
誰も意味は完全には分からなかったが、誰も反論もしなかった。
分からないまま頷く方が会議は早く終わるからだ。
やがて男は『思考の専門家』として扱われるようになった。
企業は彼を呼び、学校は彼の講義を教材にした。
「重要なのは理解ではなく、理解したという錯覚の共有です」
拍手が起こるが、内容ではなく既視感に向けられた拍手だ。
ある日、若い職員が資料を見ながら言った。
「先生、この理論はどこで検証されていますか?」
男は笑って答えた。
「検証とは誰がそれを『真実として扱うか』の問題です」
会議室は静まり返った。
誰もそれ以上質問しなかった。
数年後、男は『思考を最適化する国家アドバイザー』になった。
政策文書には彼の言葉が並んだ。
『意味の空白は、最も効率的な合意形成装置である』
誰も異議を唱えなかった。
理解できないことは正しいとされたからだ。
そしてある日、システムが完成した。
『全ての説明は、理解度に応じて自動的に調整されます』
人々は称賛した。
もう難しい言葉を考えなくていいからだ。
最後に残ったメモにはこう書かれていた。
「一番賢そうな言葉が、一番中身を空っぽにしていく」
そのメモはすぐに『情報の最適化』によって削除された。
2026/04/24
TEDのウィル・スティーヴンの「TEDxで賢そうにプレゼンする秘訣」観て浮かんだ。




