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第17話 戻らぬ鴉
聖書『ノアの箱舟』によると、洪水が引いた後、ノアはまず鴉を放った。
ところが、放たれた鴉は箱舟に戻らなかった。
自由で現実的な鴉は生存本能に忠実に漂流物をついばみながら、空のどこかへ消えていった――ネヴァーモア。
次に放たれた鳩は、オリーブの枝を加えて戻った。
箱舟の人々は喜び、鳩を希望と平和、神の約束の象徴として讃えた。
私は鴉の立場を知っている。
戻らなかったのは自分の意思で行動しただけで、世界の真実を知るのは鳩ではなく鴉だ。
そんな鴉が羨ましくも思えた。
「うちの子よく鴉を見てるけど、どうしてかしら?」
飼い主は愛犬を撫でながら呟いた。
犬の目の奥には誰も踏み込めない世界の片隅が映っていた――ネヴァーモア。
2026/03/30




