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短篇集  作者: 猫田たい子
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第15話 携挙の日

 隣に夫婦と犬が引っ越してきた。

 駐車場に止まっている車には、「携挙《けいきょ》の時、この車は無人になるでしょう」というシールが貼られていた。


 携挙という言葉が何か分からなかった。

 調べると、イエス・キリストの再臨《さいりん》の際に、信者が生きたまま天に引き上げられることらしい。


——生きたまま?


 信じがたい話だった。


 車の持ち主は若い夫婦と犬だった。

 携挙の時、犬はどうなるのかが気になった。


「イエス様に犬も一緒に携挙してほしいと祈っています」


 祈りは叶えられると笑顔で言われたので、私は苦笑した。


 ある朝、隣の家が妙に静かなことに気がついた。

 家の中で犬が鳴き続けている。

 鳴き声が気になり呼び鈴を押したが、返事はなかった。


——消えたんだ。


 不安が胸を過った。

 悪の世界に取り残された気分のまま、その日は犬の鳴き声を聞きながら過ごした。


 翌朝、警察に連絡をするとすぐに来てくれて、家の中も調べてくれた。

 携挙の話をすると警官は犬を見て言った。


「最近あるんですよ。携挙って言って夜逃げする人。――借金とか人間関係とか、全部置いていくんです。犬もね」


 私は信じきれずにいた。いや、確信していた。


——携挙は起きたのだ!


 警官は首輪の内側を調べて端末で何かを読み取った。


「この犬、マイクロチップの登録が別の家のものです」

「えっ?」

「三か月前に盗難届が出てますね」


――ただの泥棒やないかーい!


 夫婦を信じた自分に腹立った。




2026/03/24

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