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短篇集  作者: 猫田たい子
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第10話 三つの影

 国立西洋美術館にある「地獄の門」はロダンの作品だ。

 ロダンの生前には鋳造されず、死後(1917年以降)に鋳造された。


 門の最上部には同じ男の裸体像が三体、円を描くように前傾し、下を向いている。――『三つの影』。同じ原型からの反復だ。


 老後の私は美術鑑賞に夢中で、妻と一緒に美術館へ出かける。

 妻は老後に猫を飼いたいと言ったが、私は「一匹ならいい」と条件を付けた。美術館についてきてくれるなら、それくらいは認めようと思ったのだ。


 ある日、妻が里親募集サイトでかわいい黒猫を見つけた。

「この子のために、あと二十年は長生きしたいわ」


 猫を迎えた日、家に戻ると私は首を傾げた。


――同じ顔の猫が、二匹……いや、三匹いるような気がした。


「一匹と言っただろ」

「あなた、大丈夫? 一匹しかいないわよ」

 妻が心配そうに私の顔を覗き込む。


 同じ顔、同じ尻尾、同じ黒猫。

 私の目がおかしいのか、それとも……。


「ああ、きっとロダンの『三つの影』と一緒ね。一匹の内面が分裂して、きっとあなたには三匹に見えるのよ」

 妻は私の肩を優しく撫でて、にっこりと微笑んだ。





2026/03/03

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