表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/103

第九十七話 五人目のヒロイン


「……は?」


ティーグルが呆けたような声をあげる。


彼の自慢の右腕。

その肘から先が、ごっそり消滅していた。


「……うぎゃああああああ!?」


直後、情けない悲鳴をあげて、ティーグルが地面をのたうち回った。


「……なに、これ」


七海の全身を防護する、鮮やかなオレンジのオーラ。

そのオーラが、ティーグルの攻撃を弾き返して、七海のことを守ったのだ。


いつの間にか、手の甲には白いタトゥーが刻印されていた。

美しい円環と、その外縁部から伸びる無数の波型。

それはまさしく、太陽を模したマークだった。

そして、その太陽の刻印から溢れ出したオレンジ色の光が、彼女の身体を優しく包み込んでいく。


直後、七海は限界だった体力が、急激に回復していくのを感じた。

踏み砕かれた足をはじめとした全身の傷が、時間を巻き戻していくように再生していく。

どういう理屈か、服に付着した血液も、空気に溶けるようにして消滅する。

わずか数秒後、彼女は元通りの綺麗な身体を取り戻していた。


「……お願い。この子のことも治して」


それを見た七海が、オレンジ色の光に向かって懇願する。

彼女の視線の先には、ぐったりと横たわる和花の姿があった。

この光が何なのか、七海には分からない。

そもそも意思のある存在なのかすら不明だ。

ただ、決して悪いものでないことだけは確かだった。


七海の願いが通じたのか。

オレンジ色の光は、そっと和花のことも包み込んだ。


やがて、光が晴れると……。

和花の背中の傷は、すっかり元通りになっていた。

まだ気を失っているようだが、おそらくもう大丈夫だろう。


「よかった……! 和花……っ!」


思わず、和花のことを抱きしめる七海。

今、何が起こっているのか……彼女も理解できているわけではない。

ただ、自分の親友が無事でいてくれることが、今は何よりも嬉しかった。


その一方で、右腕を失ったティーグルはと言うと……。

今もなお、情けない悲鳴をあげ続けていた。


「ぎひぃ……! 何なんだ、これはよぉ……!」


必死に腕を庇いながら、七海から遠ざかろうとして、ずりずりと後退りしている。

彼は、目の前で起こった予想外の出来事に、ただただ怯え、戦いていた。


七海は、そんなティーグルのことを、ギロリと睨みつけた。


自分を狩りの獲物のように追いかけまわし、痛めつけたことは、確かに許せない。

だが、それ以上に。

自分の大切な友人を傷つけ、馬鹿にしたことは……。


「……絶対、許さないから」


七海は、燃えるような怒りを込めて、そう呟いた。


すると、彼女の手の中に、オレンジ色の光が収縮していき……。

やがて形となって、具現化し始める。


「……なにコレ」


気付くと、七海の手の中に、見たことのない機械(デバイス)が握られていた。

彼女の手の中に収まるサイズだが、ずっしりと重い。


(……いや、違う。何でだろ……ウチ、これが何か知ってる)


七海は、こんな機械は見たことがない。

だが同時に、彼女は()()()()()


この端末が、いったい何なのか。

そして……これから自分が何をするべきか。


七海は自身の直感に従い、そのデバイスを自らの腰に押し当てた。


光の粒子が、ぐるりと七海の腰回りを取り囲んでいく。

やがて寄り集まった光は具現化し、一本のベルトを構成する。


「《機構(システム)認識(リーディング)》っ!」


衝動に突き動かされるままに、七海は叫んだ。

腰のベルトが、眩いばかりに発光する。


同時に、七海の手の中に、とあるものが出現していた。

それは、一枚のメタルカード。


「《光 よ(ライト・アップ)》っ!」


七海の声に呼応するように、オレンジ色のエネルギーが轟々と渦を巻く。

腰のベルトも、手にしたカードも、それと同時に色を変えていった。

無骨なメタルグレーから、燦然と輝く、眩いばかりのオレンジへと。


七海がカードを見ると、そこにはクッキリと新たな紋章が刻み込まれていた。

彼女の手に浮かび上がったタトゥーと同じ、輝く太陽の紋章だ。


「《魔素(マギ・マテリアル)収束(パイル)》っ!」


七海の周囲で渦を巻いていた橙色の粒子が、彼女の身体へと集まってくる。


「《装束(バトルドレス)展開(スプレッド)》っ!」


光の粒が収束し、七海の身体を柔らかく包み込む。


そして……。


「《変 身(トランス・カード)》っ!」


七海がが鮮やかなメタルオレンジのカードを、腰のバックルに装填した。

カシュン!! という軽やかな金属音と共に、激しくベルトが発光する。


太陽光を思わせる、熱と光の入り混じったエネルギーの渦。

やがてそれは、七海の身体にまとわり付くようにして具現化し始めた。


絹のようでありながら、メタリックに輝くドレス。

全身の装甲は、可愛らしさと勇ましさを同時に体現している。

そしてメインカラーは、鮮やかなオレンジ。

見る者に勇気と元気を与えてくれるような、明るい配色だ。


そして、ウェーブのかかった明るい茶髪も、黒い瞳も。

今はドレスと同じ、太陽の色に染まっていた。

可愛らしいシュシュがスラリと伸びた髪をまとめ上げ、煌めくイヤリングが彼女の美しさを更に彩る。


それは、一瞬の出来事。

刹那の間に、七海の変身は完了していた。

彼女を中心にして、眩いばかりの熱と光が放射されているかのよう。

それはまさしく、万物を照らす太陽そのものだ。


天導衞姫。

またの名を、魔法少女。

和花(ローズ)と、琴音(リリィ)美香(デイジー)リブ(コスモス)

彼女たちに続く、五人目の戦乙女(ヒロイン)だ。



「……って、マジ!? ウチが魔法少女!?」


変身を完了させた七海は、ドレス姿の自分を見て……思わず驚きの声を上げた。

彼女は、魔法少女のファンを公言している。

(特にマギア・ローズがお気に入り)

そんな憧れの存在に、他ならなない自分が変身したのだ。

驚かない方がおかしいというものだろう。


「何だと……!? 何で……テメェが……!?」


驚愕しているのは、七海だけではなかった。

地面にひれ伏したままのティーグルもまた、ワナワナと身体を震わせている。


「バカな! あ、ありえねぇ! くそっ、汚ねえぞ!」


情けない声を上げるティーグル。

そんな彼のことを、七海は冷たく見下ろした。

和花のことを傷つけたティーグルへの怒りを、彼女は忘れたわけではなかった。


「ほら、どーすんの? ウチのこと、食い殺すんじゃなかったっけ?」


目の前で腰を抜かしている情けない怪人のことを、七海はジロリと見下ろした。

あれだけ恐ろしかった怪人(ティーグル)のことが、今は全く怖くない。

それどころか、どこからともなく気力と高揚感が湧き上がってくるようだった。


「……くそがっ! 図に乗ってんじゃねぇ!」


見下されたように感じたティーグルは、今の状況も忘れて、思わず頭に血を上らせた。

怒りで恐怖を押し殺しながら、七海に向かって向かって飛びかかる。


狙いは、七海の顔面。

残った左腕の五指を伸ばし、その鋭い爪で引き裂くつもりだ。


相手は所詮ニンゲン、それもメスだ。

なら、顔を傷つけられるのは嫌がるはず。

それに、獣魔族の中でも屈指の実力者であるオレ様に敵うはずがない。


実際、相手は避ける素振りを見せなかった。


(……もらったぜ! テメェは終わりだ!)


ティーグルは、勝利を確信した。

相手は、この一撃に反応できていない。


このオレ様を驚かせやがった罰だ。

その高慢な顔を、苦痛で歪ませてやるぜ。


そうした下劣な狙いで放たれた爪撃は……。

その直前で、ピタリと停止した。


「……は?」


思わず目を瞬かせるティーグル。


その視線の先では、七海の右腕が……。

思い切り振り抜かれたティーグルの左腕を、横合いから掴み取っていた。

ギリギリと七海の五指が食い込んでいき、ティーグルの意識を漂白せんばかりの痛みが襲う。


「ぐ……が……!」


「……これが全力?」


七海が煽るようにそう言うが、ティーグルはそれに反応することさえできなかった。


(……バカな! 左腕とはいえ、オレ様の全力だぞ! それを易々と……!)


全力の一撃を容易く掴み取られたことで、ティーグルは狼狽する。

そんな彼に向けて……七海はもう片方の腕を構えると、ぎゅっと拳を握り込んだ。


「なら……お返しだしっ!」


直後、七海のパンチが、彼の鳩尾に叩き込まれた。

ずん!という衝撃とともに、ティーグルの巨体がわずかに浮き上がる。


「……ぐぼおおおおお!?」


腕を掴まれていては、回避することもできず……。

ティーグルは、腹を押さえて悶絶した。


「ほら、立ちなよ。あれだけ吠えてたんだし、まだ戦えるっしょ?」


(……どうする!? こんなやつに勝てるわけねぇ!)


ティーグルは、必死に頭を働かせる。

どうやったら、この場を生き残ることができるだろうか。


(……こうなったら……!)


「ま、待て! 降参する! オレ様の負けだ!」


「……ふん。ウチが許すと思う?」


ティーグルが必死に叫ぶ。

しかし、それを見る七海の目は、燃えたぎるような怒りに満ちていた。

それを見たティーグルの頬を、冷や汗が伝う。


「お、おい! 降参してる相手を殺すのか!? 卑怯だと思わねぇのか!?」


自分のことを高い棚に上げて、ティーグルは命乞いする。


その時……。

掴まれた腕にかかっていた圧力が、微かに弱まった。

七海が、ティーグルの左腕を掴んでいた力を緩めたのだろう。


(……バカが!)


ティーグルは、内心で七海のことを嘲った。

ちょっと下手に出てやれば、簡単に油断する。

敵に情けをかけるなど、甘いにも程があるだろう。


「隙ありぃぃぃぃ!」


不意打ち。

ティーグルは口を大きく開けると、その鋭い牙を剥き出した。

そして、七海の喉元を食い千切ろうとする。


牙のうち半分はデイジーに叩き折られてしまったが、もう半分あれば十分だ。

頸動脈を噛み切り、その血を啜ってやる!


しかし……。


「……そうくると思ったし」


「……がふっ!?」


ガツン!と言う衝撃に、ティーグルの意識が一瞬だけ途切れた。

残っていた牙が粉々に砕け、宙を舞うのが分かる。


顎を蹴り上げられたのだと気づいたのは、地面に倒れ伏す直前だった。


七海による、ゼロ距離からの飛び膝蹴り。

凄まじい威力で放たれたそれが、彼の顔面を粉砕していた。


「ぐおぉぉぉぉ!?」


ティーグルは、砕かれた顎を押さえて、地面をのたうち回った。


「ぐ……くそっ!」


痛みを堪えて、七海のことを見上げる。

苦痛に歪む彼の視界に映ったのは、彼のことを冷たく見下ろす、七海の姿だった。


その目。

彼女の目は、まるでゴミでも見ているかのようだ。

ティーグルは、それを見た瞬間、背筋がスッと冷たくなるのを感じた。


「……ひ、ひぃぃぃぃ!」


今の膝蹴りによって、結果的に自由を取り戻したティーグルは……脱兎の如く逃げ出した。

先ほどまでハンターを気取っていた彼が、今や逃げる立場になっている。

今や、強者に狩られる獲物は、彼自身だ。

それは、何とも皮肉な姿だった。


必死に彼女から逃げようとするティーグル。


しかし……。

七海が、それを許すはずもない。


「いや、逃すわけないし」


七海は、そっと胸の前で両手を重ね合わせた。

すると、彼女の合わせた掌の間に、オレンジ色の光が収束していく。

凄まじい熱と光がバレーボール大に圧縮され、煌々と輝いた。

溢れ出す灼熱の光が、ジリジリと七海の肌を焼く。

それはまさに、ミニサイズの太陽そのものだった。


「くたばれっ! このゲス野郎!」


七海はオレンジの光球を、逃げるティーグル目掛けて発射した。


「〈橙に輝く陽光アンバー・サンシャイン〉っ!」


高速で飛来する、灼熱の光球。

それは逃げるティーグルの背中に、吸い込まれるようにして命中した。


「ま、待っ……うっぎゃあぁぁぁぁ!」


命乞いの声すらも完全に飲み込んで……。

直後、ジュッ!と言う音とともに、卑劣な怪人は、細胞(チリ)一つ残さず消滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ザ、王道!だからこそ、黒幕さんの予定通り感凄まじい。このまま王道展開を楽しみたいのもあるし黒幕さんの予定にない展開も楽しみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ