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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第九十話 道化師再び


「おーほっほ! ワタクシが来ましたよ〜!」


トラ怪人、ティーグルに向けて放った、デイジーの必殺技(パンチ)

それを正面から受け止めて見せたのは、ピエロ姿の怪人……道化師(クラウン)だった。


(……なんだコイツ!? アタシは全力だった! それを……!)


デイジーはその勝ち気な顔に冷や汗を浮かべながら、目の前のピエロを睨みつけた。

彼女のパワーは、魔法少女たちの中も随一だ。

特に黄の鉄拳(トパーズ・ナックル)は、何トンもある怪人を一撃で上空まで打ち上げるほどの威力がある。

それを正面から受け止めてなお余裕の表情を浮かべるなど、普通ならありえない。


そして、そのことは、リリィもコスモスも知っている。

この瞬間、道化師(クラウン)が異様な存在だと、彼女たちは瞬時に理解した。


「……デイジー、離れて!」


「おう! やれ、リリィ!」


デイジーが離脱すると同時に、リリィが氷の弾丸を発射した。

しかし……風切り音と共に飛来したそれを、道化師(クラウン)はことも無げにキャッチして見せる。

リリィは二発、三発と連射したが、全て結果は同じだった。


ぽんぽんとキャッチした氷の弾丸でお手玉をしながら、道化師(クラウン)は高笑いする。


「おーほっほ! ムダムダ、ムダですねぇ〜!」


「……チッ」


「コイツ、強いな」


ヘラヘラと笑う道化師(クラウン)を見て、リリィとデイジーは顔を顰めた。

デイジーのパンチだけでなく、リリィの氷弾も軽くいなすとなると、やはり尋常ではない手練れだ。


「油断しないで。コイツの戦闘力は未知数」


コスモスの言葉を聞いて、デイジーが苛立たしげに頭を掻く。


「チッ! 何で、こんな時に、こんな奴が出やがるんだよ……!」


「目的不明。でも、これはチャンス。ここでコイツを倒せば、後々やりやすくなる」


「……仕方ねぇ、やるか。さっさと倒して、和花と七海(アイツら)のことを見届けねぇとな」


デイジーの言葉に、コスモスがこくりと頷く。


「せっかく入園料まで払った。私、まだ東園を見てない」


「……そういう問題かよ?」


「あと東園には、カワウソまんが売ってるらしい。絶対に食べたい」


「目的変わってんじゃねーか!」


漫才を繰り広げるデイジーとコスモス。

そこへ、呆れ声のリリィが割って入った。


「あのねぇ……リ・ヴァースが出た以上、今日はもう閉園でしょ」


リリィの言葉を聞いたコスモスは、しばらく呆然としていたが……やがてポツリと呟いた。


「……殺す」


「こえーよ! いきなりエンジンかかり過ぎだろ!」


「私は元々暗殺者。今それを思い出した」


「どんだけカワウソまんを食いたかったんだよ!?」


「アンタらねぇ……」


呆れたリリィがツッコミを入れるまで、デイジーとコスモスの漫才は続いた。



魔法少女たちがわちゃわちゃしている間。

なぜか道化師(クラウン)は何もせず、彼女たちの会話を嬉しそうに聞いていた。

今にも鼻歌を歌い出しそうなぐらい上機嫌な道化師(クラウン)


そこへ、ピンチから救ってもらったティーグルが、道化師(クラウン)の背後から声をかけた。


「……た、助かったぜ! アンタ強かったんだな!」


馴れ馴れしく肩にポンと手を置くティーグルを、道化師(クラウン)は一瞬、ゴミでも眺めるような目で見た。

しかし直ぐに、何を考えているか分からない顔に戻って笑った。


「おーほっほ! 構いませんよ〜! これもみんな、()()()()()()ですからね〜!」


「……はぁ? こっちの都合……?」


「気にしないでくださいな! そんなことよりも、早く逃げた方がいいんじゃありませんか〜?」


「お、おう! そうだったな! 恩に着るぜ!」


そう言うが早いが、ティーグルはダッ!と駆け出した。

彼は傲慢かつ残忍ではあるが、勝てない相手とは戦わない主義だ。

当然、逃げ足も速い。


あまりに迷いのない逃走に、魔法少女たちも一瞬だけ反応が遅れてしまう。

慌ててリリィが視線をやるも、既にティーグルは十数mも距離を開けていた。


「……待て!」


「おっと! させませんよ〜!」


ティーグルを引き止めようとしたリリィが、彼の背中に向けて氷の弾丸を発射する。


しかし、それを見た道化師(クラウン)が、即座にそれを全て撃ち落とした。

先ほどまでお手玉をしていたリリィの氷弾を、指で弾いて飛ばしてみせたのだ。

尋常ではない指の力とコントロール力である。


見る見るうちにティーグルの姿は猛スピードで遠ざかり、見えなくなってしまった。


「……やられた」


悔しそうに顔を歪ませるリリィ。

デイジーも焦りを露わにして舌打ちした。


「くそっ! 早く追いかけねぇとマズいぜ!」


デイジーの言葉を聞いて、コスモスが前へ歩み出た。

彼女は、この中で最もスピードに優れている。


「……ここは任せた。私がアイツを追いかけ……」


しかし、そう言いかけたコスモスを遮るように、道化師(クラウン)が叫ぶ。


「行かせませんよぉ! 〈夢幻のシャボン玉(ドリーム・バブル)〉!」


直後、道化師(クラウン)を中心に、ぶわりと透明な力場が広がった。

身構えるリリィたち。しかし、彼女たちには影響はなかった。

ただ、周囲の空気が少しおかしい。リリィたちは、それを肌で感じ取った。


コスモスが悔しそうに呟く。


「……やられた」


「おい、コスモス! 今のは何だ!?」


「今のは結界。私たちは、この場を離れられなくなった」


コスモスは、かつて転移術式を得意としていた。

魔法少女になった時にその技能は失われたが、空間術式に対する感受性は今でも有している。

そのため、道化師(クラウン)が使用した結界が、空間を鎖ざすタイプのものだと分かったのだ。


「……やられたね」


「くそ、どうすんだよ!?」


焦燥を顔に浮かべるリリィとデイジー。

そんな二人を宥めるように、コスモスが言った。


「さっさとコイツを倒して追いかける。それが一番の近道」


「……そうだね。やろう」


「ふん、ぶっ飛ばしてやんぜ!」


気合いを入れ直して構える魔法少女たち。

それを見て、道化師(クラウン)が嬉しそうに高笑いした。


「おーほっほ! 遊んであげますよぉ、魔法少女!」


***


リリィ、デイジー、コスモス。

三人の魔法少女が、リ・ヴァースの幹部、道化師(クラウン)と激突する。


「——喰らえオラァ!」


初撃は、やはりデイジーだった。

空中を猛スピードで飛び、全体重を乗せた拳を叩き込む。


ドゴン!という凄まじい轟音が周囲に響いた。


「おーほっほ! ムダだと言ったじゃありませんか〜?」


「……チッ!」


しかし、デイジーのパンチは、最も容易く受け止められてしまう。

黄の鉄拳(トパーズ・ナックル)さえ正面から止めて見せた相手に、通常の拳など届くはずもない。


しかし、それは想定内だった。


「……リリィ!」


「分かってる! 〈蒼き猛吹雪サファイア・ブリザード〉!」


デイジーが離脱し、それと入れ替わるように、リリィの攻撃が放たれた。

それは、かつて数mもあるサイ怪人を一撃で氷像に変えて見せた、リリィの必殺技である。


しかし、道化師(クラウン)には通用しなかった。


「ムダだと言っているじゃありませんか〜? 

 〈|道化師の大道芸(パフォーマンス)火吹き(ヘルファイア)〉!」


道化師(クラウン)の口から、真っ赤な炎が吹き出した。

そして、リリィの放った蒼い吹雪と、正面からぶつかり合う。

数秒後、紅い息吹と蒼い吹雪とが完全に相殺しあい、いずれも消滅した。


「さっきと同じ手順……こんなものでは、ワタクシを倒すことなど、とてもとても……」


やれやれと言った仕草で、わざとらしく肩をすくめてみせる道化師(クラウン)


しかし、その直後。

道化師(クラウン)の背後に、緑の暴風が出現した。


それは、マギア・コスモスの必殺技。


一見単調に見えた、デイジーとリリィの攻撃は全て、このための陽動だったのだ。


「しまっ……!」


「……翠の暴風撃エメラルド・サイクロン!」


圧縮された緑の竜巻が、道化師(クラウン)を直撃した。


「ぎゃああああ〜!」


必殺技を受けた道化師(クラウン)が、暴風に飲まれて悶え苦しむ。

やがて、無数に引き裂かれたピエロの身体が、バラバラと地面に転がった。


「やったか!?」


「デイジー、それは……」


「生存フラグ。もはや復活の呪文」


デイジーの台詞に、リリィとコスモスが呆れ返る。

それを証明するように、地面に転がっていた道化師(クラウン)のパーツが、一斉に寄り集まって、元の身体を形成し始めた。まるで映像を逆再生しているかのようだ。


しかし、その動きは、どこかぎこちない。

カチャカチャと身体を鳴らしながらお辞儀する道化師(クラウン)を見て、コスモスが小さく呟く。


「……人形?」


「おーほっほ! よく分かりましたねぇ! 大正解です!」


頭上から、人をおちょくるような声が投げかけられる。

弾かれたように空を見上げる三人が目にしたのは、人形使い(パペティアー)のように指を動かす、道化師(クラウン)の姿だった。


「おーほっほ! すっかり騙されましたねぇ!

〈|道化師の大道芸(パフォーマンス)操り人形(マリオネット)〉!

 人形と戦っていた気分はいかがですか〜?」


どうやら、本物の道化師(クラウン)は、ずっと頭上にいたようだ。

そして、これまで戦っていたのは、どうやら道化師(クラウン)が能力で作り出した人形だったらしい。


リリィとコスモスが、ジト目でデイジーのことを見る。


「ほらね、デイジー。アンタのせいだよ」


「これはデイジーのせい。責任とって」


「何でだよ!?」


大声でツッコミを入れるデイジー。

……確かに、少し理不尽かもしれなかった。


冗談まじりに言い争う魔法少女たちを、どこか嬉しそうな顔で見下ろしていた道化師(クラウン)は、やがて次の攻撃を開始した。


「お次は、こっちの番ですよ〜?

 〈乱回転する紅茶杯クレイジー・ティーカップ〉!」


直後、リリィたちの視界がぐるぐると回転し始める。

前後、左右、上下……。目まぐるしく変化する視界が、正常な感覚と思考を同時に奪う。


(くっ……これは、和花(ローズ)の言ってた幻覚攻撃!)


(……おえっ、気持ち悪りぃ……)


(パンダまんが口から出そう)


「おーほっほ! ほらほら、ワタクシはこちらですよぉ?」


苦しむ魔法少女たちを見て、道化師(クラウン)が高笑いする。

ここでリリィは、隠れているもう一人の仲間に向けて、SOSを出した。


「……ルーナ!」


リリィの叫びに、ルーナが応える。


「任せなさい! 〈現実(リアリティ)〉!」


現実を強く認識させることで、幻覚攻撃を上書きする精神干渉魔法。

それによって三人を襲っていた幻覚が即座に消滅し、魔法少女たちは正常な視界を取り戻した。


「おーほっほ! またもルーナさんにやられてしまいましたねぇ! 学習しませんねぇワタクシも!」


道化師(クラウン)が、どこか楽しそうに高笑いする。


ルーナは純粋な戦闘タイプではない。

どちらかといえば、結界や呪術、幻覚などの間接攻撃を得意とした、後方支援型の術者だ。

最初は身体機能に優れたトラ怪人が相手だったので、彼女は隠れていたのである。


ちなみに、コスモスが容易く道化師(クラウン)の背後を取れたのも、ルーナのサポートがあったからだ。

先日、道化師(クラウン)と戦った際に、彼女の【幻想(ファンタジア)】が短時間なら通用することを、ルーナは学習していた。

そこで今回も、コスモスの存在を認識から外すことで、不意打ちを可能としたのだ。


本当は、最後まで隠れていた方が都合が良かったのだが……。

幻覚攻撃を解除すれば、すぐにルーナの存在が道化師(クラウン)にバレてしまう。

ならば、姿を見せて【幻想】を警戒させた方が有利になる。

リリィのヘルプコールは、状況をそこまで見越してのものだった。


ルーナは、頭上で笑い転げている道化師(クラウン)に向かって叫んだ。


道化師(クラウン)! 私がいる以上、もう幻覚はムダよ! 大人しくしなさい!」


「おーほっほ! ワタクシの攻撃が幻覚だけだと思ったら、大間違いですよぉ?」


「……流石に説得するのは無理みたいね。……行くわよ、三人とも!」


「うん」


「おう!」


「任せて」


魔法少女VS道化師(クラウン)

この戦いは、まだ始まったばかりだった。

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