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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第八十九話 爪牙のティーグル


スカイタワーでの一件から、関係性がぎこちなくなってしまった和花と七海。

そんな二人だったが、休日を動物園で一緒に過ごすことで、関係性を修復することに成功していた。

今はすっかり打ち解けあって、お互い笑顔でおしゃべりに興じている。


ここ最近の反動もあって、すっかり話し込んでしまった二人。

ふと七海がスマホを見ると、時刻は既に14時近くになっていた。


「やべ、もうこんな時間じゃん!」


「そろそろ、東園の方に行こっか」


「そーしよ!」


「東園には、どんな動物がいたっけ?」


「えっと、確か……」


その時だった。


動物園内に、けたたましい警報が鳴り響いた。

歪んだ不協和音からなるアラートは、どこか人を不安にさせる。

周囲で食事をとっていた他の客も、怪訝そうに周囲を見回していた。


「……どうしたんだろ?」


「……さーね。ライオンでも逃げたんじゃない?」


「大事件だよそれは!」


「実際、どーしたんだろ?」


七海の疑問に答えるように、近くのスピーカーから園内放送が流れ出した。



——動物園内に、リ・ヴァースが出現いたしました。

——来園者の皆様は、係員の指示に従い、速やかに避難ください。


——繰り返します。


——動物園内に、リ・ヴァースが出現いたしました……



和花は息を呑んだ。

この場所に、偶然リ・ヴァースが出現したということへの驚きも、確かにある。

しかしそれ以上に、「行かなくては」という使命感がそうさせた。


なぜなら、彼女は魔法少女(マギア・ローズ)なのだ。

そして、この場ですぐに対応できるのは、和花だけ。


彼女は、琴音たちが着いて来ていることを知らない。

だから、「今すぐに動けるのは自分しかいない」と考えていた。


和花は焦っていた。


リブとルーナは、感知能力を持っている。

タイムラグはあれど、必ず駆けつけてくれるはずだ。

幸い、ここは学校の寮からさほど遠くはない。

5分もしないうちに、仲間たちが駆けつけてくれるだろう。


しかし、それでも5分はかかってしまう。

もしかしたら、その5分で犠牲になる人がいるかもしれないのだ。


それを考慮すれば、今すぐにでも和花は出撃するべきだろう。

しかし、それでは七海を置いて行ってしまうことになる。

それでは、スカイタワーの時の二の舞だ。


せっかく仲直りできたのに、この緊急事態で彼女を置いていなくなるなどということになったら……。

もう二度と、七海は心を開いてはくれなくなるだろう。


和花は迷っていた。


もちろん、優先すべきは人命だ。

それが分かっているのに、身体が動いてくれない。


(……どうしよう!? 私、どうしたら……!)


その時、ピロンとの和花のスマホが鳴った。

和花が慌ててスマホを見ると、琴音からメッセージが入っている。

そこには、


「敵は私たちに任せて。和花は七海を守って」


とだけあった。


焦りから沸騰しかけていた頭が、スッと落ち着いていくのを感じる。

仲間たちへの信頼が、彼女の迷いを断ち切ってくれた。

彼女たちが「任せて」と言うのなら、きっと大丈夫だ。


ならば、今、和花が為すべきことは、たった一つ。


和花は急いで立ち上がると、怯えた様子の七海の手をとった。

驚いたように和花を見上げる七海の顔を、真剣な表情で和花は見つめ返した。


和花は相手を安心させるようににっこりと笑うと、七海の手を強く握った。


「大丈夫だよ、七海ちゃん。私が守るから。 ……逃げよう!」


***


「ゲハハハハ! オレ様の名はティーグル! 爪牙のティーグルだ! ぶっ殺してやるぞ、ニンゲンども!」


下品な声で高笑いをするのは、一体の怪人だ。


体長は2mと少し。

筋肉隆々の体躯に、黄と黒の縞模様。

三角の耳と縦に割れた瞳孔は、猫科の猛獣を思わせる。


何よりも特徴的なのは、その巨大な爪と牙だった。


その爪は易々と岩石も引き裂き、その牙は分厚い鉄板をも穿つ。

それ故に与えられた銘が【爪牙】。


トラ怪人、爪牙のティーグル。

それが、彼の名前だった。


ティーグルは、動物園を我が物顔でのしのしと歩く。

客や係員たちが逃げ惑うのを、彼は喜悦を含んだ表情で眺めていた。


密林の王者がベースになっているからか、ティーグルは残忍かつ傲慢だ。

人々が自分へ向ける恐怖の感情は、彼のプライドを存分に満足させてくれた。


「しかし、物足りねーな! 必死に抵抗する相手を嬲り殺しにするのが楽しいのによ!」


そんなふうに喚くティーグル。

彼は、弱者を蹂躙すること至上の喜びを感じる性格だった。

抵抗できない獲物を甚振るのが、ティーグルの崇高な趣味。


逃げ惑う雑魚を鑑賞しているのも楽しいが、そろそろ血を見たい。

そんなことを考えていたティーグルは、前方でうずくまっている人間がいることに気がついた。


「……おっ? 逃げ遅れたバカ、はっけーん!」


そこにいたのは、老夫婦だった。

どうやら婦人の腰が抜けてしまい、逃げ出せなくなってしまったようだ。

夫は必死な表情でティーグルに向けて杖を構えているが、それは蟷螂の斧でしかなかった。


中級とはいえ、彼は身体機能に長けた獣魔族。

ニンゲンの、それも老人などは相手にならないほどの戦闘能力を、ティーグルは備えている。


「ゲハハハハ! いい度胸だ!」


ティーグルは高笑いする。

猛獣としての本能が、彼を殺戮へと駆り立てた。


ティーグルはニヤリと笑うと、その巨大な牙を剥き出して、哀れな獲物へと飛びかかった。


「ぶち殺してや……ぶほぉ!?」


直後。

老夫婦に飛びかかったティーグルは、思い切り殴り飛ばされて吹き飛んだ。


「へぶーっ!?」


近くのゴミ箱を巻き込みながら、盛大に地面を転がるティーグル。

殴られた衝撃で、しばらく無様にピクピクと痙攣していたが、数秒後、彼は怒りを湛えた目で立ち上がった。


「クソがぁ! どこのどいつだぁ!? このオレ様を殴りやがったのは!」


疑問への回答は、すぐに(もたら)された。


「アタシだぜ」


「……なっ!? テメエは……マギア・デイジー!?」


黄色のバトルドレスに、鮮やかに輝く装甲。

それは紛れもなく、マギア・デイジーに間違いなかった。


デイジーは燃えるような怒りを目に浮かべながら、ティーグルを睨み据えた。


「動けねぇヤツを狙いやがって……このゲス野郎が! アタシが成敗してやんぜ!」


デイジーの剣幕に、思わず及び腰になるティーグル。

怯えた自信を叱咤するように、彼は一歩前と踏み出した。


「く……クソッ! ぶっ殺してやる!」


再び飛びかかったティーグル。

踏み込んだ衝撃で、盛大に足元のコンクリートが砕け散った。

その脚力は、怪人たちの中でもトップクラスと言って良いだろう。


ティーグルは、その自慢の牙を剥き出した。

彼の牙は、鉄板すら貫通する鋭さと、硬い岩石すら噛み砕く咬合力を兼ね備えている。

まともに食らえば、魔法少女ですら倒せるだろうという強い自負が、彼にはあった。


もしその牙による噛みつき攻撃を躱しても、次は爪による一撃が待っている。

考えなしに見えて、隙のない二段構えの攻撃なのだ。


(……もらった! 魔法少女、打ち取ったりィー!)


それをデイジーは、正面から迎え撃った。


「——オラァ!」


工夫も何もない、シンプルなストレートパンチ。

しかし、異次元の速度(スピード)膂力(パワー)で放たれたそれは、容易くティーグルを吹き飛ばした。


「……ほぶるぁーー!?」


ドガン!と言う轟音と共に、再び無様に地面を転がるティーグル。

しばらくピクピクと痙攣していた彼だったが、なんとか立ち上がることに成功する。


しかし、足元はおぼつかない上に、頬が大きく腫れ上がっており、当初の自信満々の姿からは、想像もできないほどに満身創痍な様子だ。

また、彼の受けたダメージは、それだけではなかった。


「あが……あが……オレ様の、牙が……!」


デイジーのパンチは、ティーグルの牙をへし折ることに成功していた。

自慢の牙が根本からブチ折れており、なんとも情けない有様になっている。


加えて、折れていたのは、彼の牙だけではなかった。


(……な、なんてヤツだ! ……だめだ、勝てねぇ!)


デイジーのパンチは、一撃でティーグルの戦意をも刈り取っていた。


彼女の拳から伝わってくる、底知れないパワー。

それはティーグルに闘争ではなく、逃走を選ばせた。


(……このままだとやられる! に、逃げるしかねぇ!)


ティーグルは、素早く身体を反転させると、デイジーに背を向けた。


「……とう!」


「……あっ!? テメ……!」


慌てた声を漏らすデイジー。

彼女も、まさかここに来て敵が逃げ出すとは思っていなかったのだろう。


「……ゲハハハハ! 逃げるが勝ち! あばよ……げげっ!?」


慌ててティーグルはブレーキをかける。

その視線の先には、凛とした佇まいの美少女が立ちはだかっていた。


デイジーと同じバトルドレスに、フェミニンな装飾の入った装甲。

しかし、その色は黄色ではなく、鮮やかな青色だった。


魔法少女、マギア・リリィ。

その彼女が、ティーグルの退路を塞いでいた。


上手くいけば、そのままティーグルはそのまま逃走に成功していたかも知れない。

しかし、彼の誤算は、「魔法少女には仲間がいる」と言うことだった。


「逃してんじゃないよ、デイジー」


「仕方ねーだろ、リリィ! ここに来て逃げ出すとは思わなかったんだよ!」


ティーグルを挟んで言い争うリリィとデイジー。

その様子を、ティーグルは冷や汗を流しながら見つめていた。


(……どうする!? デイジーだけでも勝てねぇのに、リリィまで……!)


そんなことを考えていたティーグルの思考が中断される。

リリィとデイジーではない、第三者の声が割って入ったからだ。


「……避難完了。これで心置きなくやれる」


「ありがと、コスモス」


「サンキュー、コスモス!」


「……ッ!?」


ティーグルは、慌ててデイジーの方へと振り返る。

そこには、彼女の背後にいた老夫婦の代わりに、新たな魔法少女が立っていた。


鮮やかなグリーンのドレスと装甲。

それは紛れもなく、マギア・コスモスその人だった。


(……やべえぞ! タイマンならともかく、三体一はマズイ!)


先ほどデイジーにタイマンでやられかけていたことも忘れて、ティーグルは内心で歯軋りした。

そこへ無情にも、コスモスの最後通告が投げかけられる。


「……おしゃべりはそこまで」


「そうだね。……デイジー」


「おう! アタシが止めを刺すぜ!」


デイジーが構える。

その握りしめた拳に、黄色のエネルギーが収束していく。


(……まずいまずいまずい! なんとか逃げねぇと……って足が動かねぇ!?)


慌てて逃げ出そうとしたティーグル。

しかし、その足が張り付いたように動かない。


慌てて足元を見ると、蒼い氷が彼を拘束していた。

リリィの氷が、ティーグルを縫い止めているのだ。


「逃がさないよ」


「く……クソがぁ!」


焦って悪態をつくティーグル。

しかし、全てはもう遅い。


デイジーは引き絞った拳を、ティーグル目掛けて思い切り突き出した。


黄の鉄拳(トパーズ・ナックル)!!」


「うおおおおお!?」


悲鳴をあげるティーグル。

もう彼には、なす術はない。



そのはずだった。



ドガン!と言う轟音と共に、デイジーのパンチが受け止められる。


「……何ぃ!?」


「……ッ!?」


「ーーッ!!」


驚くデイジー。

この様子を見守っていたリリィとコスモスからも、動揺する気配が漏れる。


なぜなら……。


「おーほっほ! ワタクシが来ましたよ〜!」


デイジーのパンチを受け止めていたのは、リ・ヴァースの幹部にして、魔皇のメッセンジャー。

ピエロ姿の怪人……道化師(クラウン)だったからだ。


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