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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第八十一話 感傷


「すげー熱だぞ……!? みぃ、お前いつから具合悪かったんだ?」


慌てて美香が尋ねると、美奈は苦しそうに答える。


「ぺんぎんさんと、ばいばいしてから……」


「……そうか。気づいてやれなくて悪かったな」


美香はチラリと和花たちに視線を向けた。

その表情は、いかにも申し訳なさそうだ。


「……すまん。みぃが体調を崩しちまったみてぇなんだ。わりぃんだが、アタシたちは……」


「仕方ないよ! 気にしないで! ……私も、気付けなくてごめんね」


今朝、和花だけは、美香から妹の体調について相談を受けていたのだ。

それにも関わらず、彼女は気づくことができなかった。

流石にしょんぼりとした表情を浮かべる和花を見て、美香はニッと笑って見せた。


「いや、何で和花が謝るんだよ。気にすんな」


「……ありがと、美香ちゃん」


「お前らも、わりぃな。アタシとみぃは帰るけどよ……」


「美奈ちゃん、体調が悪かったの? こちらこそ、無理させちゃって悪かったね」


「まー、体調は仕方ないっしょ。お大事にねー」


「ん。お大事に」


琴音たちも、むしろ体調を崩した美奈の方を心配しているようだ。


「……わりぃな」


それが伝わったのか、美香は照れくさそうにそう呟くと、美奈の腕をとった。


「ほれ、帰るぞ」


「……ねーね、みぃ、かえりたくないよ……」


「ワガママ言うな。こっちのねーねたちに熱が移ったら、大変だぞ」


「うぅ……かえりたくないもん……ぐすっ」


美奈も、せっかく来られた水族館なのに、途中で帰るのは悲しいに決まっている。

普段は聞き分けのいい子なのだが、発熱して不安定になっていることも手伝って、とうとう、ぐずり出してしまった。


べそをかく美奈。

小さい子どもの扱いに慣れていない和花たちは、すっかり困ってしまった。

こういった対応に一番慣れているはずの美香も、流石に泣いている美奈を強引に連れていく決心はつかないらしく、ガリガリと頭を掻いている。


「……みぃ。仕方ねぇけど、ここは……」


美香が、少し強引に美奈の手を引こうとした、その時。

琴音が微かな笑みを浮かべて、美奈に話しかけた。


「美奈ちゃん」


「……もでるの、ねーね」


「モデルのねーねが、一緒に帰ってあげる。途中で映画を借りよう。美奈ちゃん、何か観たいものある?」


「……どらえもん」


「そっか。モデルのねーねも、どらえもん好きだよ。お家で一緒に観よう」


「……もでるのねーねも、いっしょにみてくれるの?」


「うん。いっしょ」


「……ぽっぷこーんは?」


「ポップコーンも買おっか。塩味とキャラメル味、どっちがいい?」


「……きゃらめる」


この中では一番、子どものことが苦手だった琴音。

そんな彼女も、今日一日で美奈のことをすっかり好きになったのだろう。


自分からそんなことを言い出した彼女のことを、和花は驚きと喜びの混ざった表情で見つめた。

少なくとも、これまでの琴音なら、和花から離れるような提案を自分からすることなどなかったはずだ。


琴音は昔から、和花以外の人間には少し冷淡なところがあった。

そんな彼女が、自分から他者と距離を縮めようとしている。

琴音の今の言葉を聞いて、何だか和花は嬉しい気持ちになった。


琴音も、和花からの視線に気づいているのか、少しだけ照れくさそうだ。


「白石……お前、意外といい奴だったんだな……」


心から驚いた様子で呟く美香を、琴音が半目で睨みつける。

とはいえ、本気で怒っている様子ではない。

むしろ、半分以上は照れ隠しだろう。


「……“意外と”は余計。……じゃあ、美奈ちゃん、行こっか」


「……うん。もでるのねーね、ありがとう……」


優しい琴音の言葉を聞いて、先ほどまでぐずっていた美奈が、すっかり泣き止んだ。

そして、ゴシゴシと涙を服の裾で拭うと、素直に椅子から降りる。


「えらいぞ、みぃ。……じゃ、こっちのねーねたちにバイバイしような」


「うん。……小さいねーね、ばいばい」


「またね、美奈ちゃん! また遊ぼうね!」


いじらしい美奈の様子に、和花はにっこり笑う。


「ぎゃるのねーねと、めがねのねーねも、ばいばい」


「また遊ぼーね!」


「またね、ミナ」


七海とリブも、相手を思いやるような笑顔で、美奈のことを見送った。


こうして、美香と美奈の姉妹は、琴音をお供にして帰ってくのだった。


***


「……行っちゃったね」


「まー、体調悪いんじゃ仕方ないっしょ。ってか、和花は知ってたの?」


そう七海が尋ねると、和花は気まずそうな表情を浮かべた。


「……うん。朝から、ちょっと熱があるかも、って話は聞いてたんだ」


「あーね、それで朝は遅刻してきたんだねー」


「実はそうなんだ。……ごめんね、言ってなくって……」


「うーん……まー、知ってても防ぎようが無かったと思うよー? 和花は気にすることないって」


「……ありがと、七海ちゃん」


微かな笑みを浮かべる和花を見て、七海も嬉しそうな表情を浮かべる。

かなり強引に今の学校に転入させられたわけだが、七海のような友人ができたと言うだけで価値があった。

こんな状況ではあるが、素直にそう思えた和花だった。


一方、リブはというと……。

その隣で、真剣な顔でメニューと対峙していた。


「……ペンギンフロート? 気になる。ペンギン味?」


「リブ……」


「リブちゃんってば、相変わらずだねー」


「……ぷっ」


「あはは!」


「……? 何が面白い?」


どこまでもマイペースなリブを見て、和花と七海は顔を見合わせて笑った。

当の本人は、きょとんとした表情を浮かべていたが。


***


「七海ちゃん、次の場所は?」


「えーと……沖縄フェアの特設水槽だってさー」


ゲートで配られたパンフレットを見ながら、七海が答える。

和花、七海、リブ(+ルーナ)の四人は、そのまま水族館を見学していくことに決めた。


実際のところ、美奈が帰った時に解散してもよかったのだが、せっかくなら最後まで見ていこうと言う話になったのである。


「うわ、この水槽、触れるようになってるんだね」


次のブースは、沖縄の魚や水生動物が集められた水槽だった。

その中に、上から水に手を入れて水性動物と触れ合えるコーナーが設置されていたのである。


「中にいるのは……ヒトデとナマコかー。……和花、触ってみる?」


「ええっ? 大丈夫かなぁ……」


おっかなびっくりと言った様子で、和花が水槽に手を伸ばしたり、引っ込めたりする。

それを見ていた七海が、イタズラっぽい顔を浮かべると、和花の手を掴んで、水槽に突っ込んだ。


「……えいっ!」


「ひゃああ!? も、もう! 七海ちゃん!」


「あはは! ひゃあだってー!」


ケタケタと笑う七海に、ぷぅと小さく和花が膨れる。

とはいえ、本気で怒っているわけではない。

この程度なら、女の子同士のじゃれあいの範疇だ。

その証拠に、七海も和花も少なからず楽しそうである。


「この手触り……歯ごたえありそう」


その隣でリブは、ヒトデを触ってそんなことを言っていた。

こんな時でも、全くもって、ブレない少女だった。



「あー、次で終わりかー」


「あっという間だったね」


ふれあいコーナーも終わり、いよいよ次で水族館は終わりだ。

次のブースを抜けると、お土産物やさんと出口ゲートだけになる。


「七海ちゃん、リブ、今日はありがとね!」


「あはは、気が早すぎー! まだ次があるでしょー? お土産物やさんもあるしさー」


「ふふ、確かにね!」


和やかに会話が弾む。

次のコーナーへ向かっている、その途中で……。


ぴくん、とリブの身体が動いた。

そして、バッ!とスカイタワーから見て北の方角に視線を向ける。


「……え? どしたん?」


隣にいた七海が困惑したようにそう言うが、何となく和花には分かっていた。

今のリブの反応からして、おそらくリ・ヴァースの怪人が現れたのだ。


それを裏付けるかのように、ルーナも和花の耳元で囁いた。


『……奴らが来たわ。場所は、ここから北に15km。魔素圧(プレッシャー)はそれほど高くないから、きっと下級怪人ね』


【幻想】で自身の存在自体を隠蔽しているので、姿はもちろん、その声も七海には届いていない。


リブは、チラリと和花のことを見た。

そして、そのまま水族館の出口に向かって走り出そうとする。


和花は、慌ててリブを呼び止めた。

七海がそばにいるので、耳元で囁くように、小声で話しかける。


「ちょ、ちょっと、リブ」


「なに?」


「一人で向かうつもり? 私も……」


和花の言葉を聞いたリブは、今度はチラリと七海に視線をやった。

その視線の先では、七海が困惑した表情でこちらを見つめ返している。


「和花は、ナナミと一緒にいて」


「でも……」


それでは、一人でリブを敵の元に向かわせることになる。

心配そうな和花に、リブは微かに微笑みかけた。


「大丈夫。この反応からして、敵はこの間のバッタ怪人より弱い。負けない」


「……分かった。もし、助けが必要になったら……」


「その時はよろしく」


そう言うが早いが、リブは水族館の出口ゲート目掛けて駆け出していった。

彼女の後ろ姿を、和花は心配そうな目で見送るしか無かった。


「……えっ? 急にどしたん?」


流石に困惑した表情を浮かべた七海が言った。

彼女の目線からすれば、リブがピクンと身体を震わせた後、和花とヒソヒソと何かを話して、そのままいきなり走り出した格好だ。意味がわからないのも当然だろう。


しかし、七海に魔法少女のことを話すわけにはいかない。

和花は口ごもりながら、七海に嘘の事情を説明するしか無かった。


「え、えっと……。なんか、急用?を思い出したんだって……あはは」


「……ふぅん?」


しばらく七海は疑わしげな目を和花に向けていたが、やがてスッと視線を逸らした。


「……ま、いーや。じゃ、次のスペースに行こっか」


七海は、少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

見た目は派手なギャルそのものだが、彼女は非常に聡明な人間だ。

和花たちには何か特別な事情があることを、すでに彼女は察していた。


そしてそれが、自分だけに隠されている、と言うことも。

和花とリブだけでなく、琴音や美香も、何か同じ秘密を共有している。


自分にだけ、相談してもらえていない。

自分にだけ、秘密にされている。

そんなふうに、彼女は受け止めてしまっていた。

まるで自分だけ仲間はずれにされているような……。

そんな感傷的な気分に、七海は陥っていた。


——待って!


——置いていかないで!


彼女の心の傷……過去のトラウマが、チクチクと刺激される。

七海は軽く頭を振って、ネガティブな感情を追い払おうとした。

しかし、それでも過去の記憶は、蛇のように七海の身体を這い上ってくる。


「最後のコーナー、アシカのショーだってさ! 楽しみだねー!」


それでも……。

彼女は努力していつも通りの笑顔を浮かべて、和花に話しかけるのだった。


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