53「不思議空間すぎる」
少しの睡眠でも疲労はかなり軽減するもので、俺は寝起きの体を大きく伸ばした。目の前の焚き火は消えておらず、どうやらコウモリが木を足してくれたらしい。
俺が起きたことに反応したコウモリが側に寄ってくる。特に何もなかったようで、俺はコウモリを影へと戻した。
オールも目が覚めたようで、軽く体を解している。リリーたちはまだ起きてくる気配はない。
俺は周りを確認し、増やした分の焚き火の燃えカスを土魔法で地面に埋めた。鍋は水洗いし、アイテムボックスへ入れておく。今後も活躍するだろうしな。
「リリーたちが起きたら探索再開でいいな」
「問題ない、ーーああ、軽く食えるものを作っておくか。クロム、材料出してくれ」
「こんなもんでいいか?」
適当にパンやらハムを出してオールに渡した。それでオールは手際よく軽食を作っていく。
しかしオールはすっかり料理担当になったな。まぁ、できる奴があいつしかいないからしょうがない。ただティルも最近料理の練習をしているらしく、料理担当が代わるのもそう遠くない話なのかもしれない。
その後、俺とオールがパンを食べているとリリーたちが起きてきた。二人と一匹にもパンを渡し、全員が食べ終わるのを待って、探索を再開させた。
ダンジョン内の魔物は復活していた。数は少なかったが、探知の網に確かに引っかかっている。
もう一度オーク狩りができると思ったが、いまは先に進むのが先決と我慢した。すべてが終わったらまたやろうと思う。
次の階へと続く階段にはすぐについた。そのまま三階へと降りると目の前に広がっていたのは、鬱蒼とした草木が繁っている沼地だった。もう一度言おう。沼地だった。
いきなりの環境変化にダンジョン初心者の俺、ティル、ルビーは声が出なかった。オールとリリーは慣れているのか平然としている。
「なぜ石壁から沼地になるんだ……」
統一性がない。石壁の遺跡風だったら全部それにしろよ。間に沼地入れるとかわけわからん。というかこの植物たちはどうやって育っているんだ。太陽光ないだろ。
「そうは言ってもこれがダンジョンだからな」
「ダンジョン内の環境はダンジョンマスターが決めているらしいぞ。他の所だと雪が降っていたり、砂漠になっていたりすると聞いたことがあるのだ」
『そりゃあ、すげぇな』
「雪なんて降っていたら寒くて動けなくなりそうです」
「不思議空間すぎる。納得いかん」
「まぁ、とりあえず進むのだ。悩むのは後でいくらでもできるからな」
リリーが草木を掻き分け進んでいく。俺も頭を切り替えリリーの後を追った。
三階の魔物は主にマットゴーレムとスケルトンだった。スケルトンは物理で対処可能だが、マッドゴーレムのほうが少し面倒くさかった。
マッドゴーレムは名のとおり泥の体を持っており、物理が非常に通じにくい。泥だから斬ってもすぐにくっつくし、殴れば拳圧で泥が飛び散るがそれだけだ。核が無事ならまた泥で体を簡単に再構築する。
その核でさえ体の中を常に移動しているようで、同じところにあったためしがない。
物理がいまいちなら魔法で、ということで、マッドゴーレムはティルに任せることにした。
ティルは得意の火魔法でマッドゴーレムを次々燃やしていく。核の場所がわからなくても全部燃やしてしまえば関係ないからな。
そしてお楽しみのドロップアイテム。マッドゴーレムからは粘土、スケルトンからは骨がドロップされた。
なんというか、がっかり感が半端ない。これなら何もドロップされないほうがマシだ。
俺はそっとドロップしたものを草むらの中へと置いた。
さて、気を取り直して三階を打破し、向かうは四階。地図によれば四階をクリアすれば残るは五階、コアを守るガーディアンがいる階となる。
ただし俺たちの目的はダンジョンのどこかに出現するレア魔物。ガーディアンにはこれっぽっちも興味がないので、スルーの方向でいいだろう。
ということで、四階へいざ出発。下りるとそこは洞窟でした。
ごつごつとした岩肌に、湿っぽい土の感触。洞窟の中が仄かに明るいのは、岩肌に生える光る苔のおかげらしい。
沼地の次は洞窟か。まぁ、こっちのほうがまだ納得できるか。
ここで遭遇したのは、ブラックバイパーとシルクスパイダー。両方とも特に苦戦することもなく余裕で対処できた。
ブラックバイパーのドロップアイテムは鱗、体の大きさが人間の子供ぐらいあるので、鱗もそれなりにでかい。だが、何に使えるのかわからない。
シルクスパイダーのほうは、名のとおりシルクの糸だ。これはそれなりに売れるらしい。
ここでの収穫は糸か。バイパーっていうくらいならヘビ肉くらい落とせってんだ。意外と食えるぞ、あれは。
しかし本当にこのダンジョンは碌なものがでないな。人が来ないのも頷ける。
むかってくる魔物を倒しつつ、そう時間もかけずに最終階へと続く階段まできた。一度立ち止まった俺たちは、互いに顔を見合わせる。
「出なかったな、レア」
「そう簡単に出たら苦労はしないのだ」
「何か、こう発生する条件とかないのでしょうか?」
「条件か、そもそもレアに遭遇すること自体珍しいことだからな。いままでそんなことを気にする奴は誰もいなかった」
『かといって、このまま無作為に周回してもいつ出会えるかわかんねーぞ』
発生率が低いから覚悟はしていたが、うーん、条件なあ。
いくら考えても答えは出ず、俺たちはもう一度ダンジョンを巡ることとなった。今度は上を目指し一階ずつ上がっていく。
遭遇する魔物を倒しつつ、何事もなくセーフティエリアまで戻ってきた。レア魔物に遭遇することはなかったが。
「出ないのだー」
疲れたようにその場に座り込むリリー。ティルも声には出さないが、かなり疲れているらしく一緒に座り込んでいる。
「リリーはともかくティルは限界だな。オール、一度休憩するか」
「そうだな」
ついでに食事もしてしまおうと俺は鍋を出し、食材はオールに渡した。




