52「決まっている。オーク狩りだ」
「ここがセーフティエリアか」
通路からそれる形でその小部屋はあった。小部屋といっても広さはそれなりにあるようで、いくつかのパーティが同時に過ごせるくらいはあった。
その中央にはなぜか噴水があり、水が湧き出ていた。水は透明で濁りがなく、これなら飲む分には問題なさそうだ。
「よし、休憩するか」
俺はアイテムボックスからゴブリンが落としたアイテムである木の棒を何本か取り出した。それを簡単に積み重ね、ルビーを手招きで呼び寄せる。
「ルビー、火」
『チッ、しかたねえな』
渋りはしたものの文句は言わずに、ルビーは木の棒に火をつけた。赤々と燃え上がるそれに、ゴブリンでも役に立つアイテムを落とすんだなとほくそ笑む。
続いて俺はアイテムボックスから野営に必要な道具を次々出していった。今日はもうここで休むことになるだろうしと食料も出す。
「オール、必要なものは出しておいたからあとは頼んだ」
「それはいいが、お前はどうするんだ?」
「決まっている。オーク狩りだ」
一匹残らず肉にしてやるぜ、と俺は意気揚々とセーフティエリアから出た。背後からほどほどにしろよ、と聞こえた気がするが、それはきけない話だ。
とりあえず目標は二階にいるオークをすべて狩り尽くすこと。時間がたてば勝手に復活するらしいから実質、肉狩り放題。
まずは近くにいる奴から。ただ、この階にはオークの他にアイアンゴーレムもいるから遭遇する確率は半々だな。
そうそう、アイアンゴーレムといえば、オールとルビーの無双っぷりがすごかったな。アイアンというからには物理には耐性があるはずなのに、オールは大剣で叩き潰すし、ルビーは炎を纏った爪で切り刻むし。
ルビーはまだわかる。炎を纏った爪なら物理と魔法の合わせ技だからな。だが、オールは100%物理オンリー、豪腕スキルがあろうとボッコボコにできるのはちょっと異常だ。
それを死んだ魚のような目でやるもんだから、病んでるのか、と訊きたくなる。まぁ、病んでなきゃ殺してほしいなんて言わないか。
そう思うとあいつ結構やばいんだな。こちらとしては情報源になるならなんでもいいけど。
「ーーおっと、魔物発見」
視界に入るのは三体のアイアンゴーレム。残念、オークではなかったか。
俺はすれ違いざまに一体のアイアンゴーレムの手足を切り落とした。動けなくなったところで核を破壊し、完全に機能を停止させる。
するとアイアンゴーレムの体が徐々に消えていき、あとには拳大ぐらいの鉄鉱石が残されていた。
「肉以外興味はないが、これは使えるからな」
鉄鉱石を拾いアイテムボックスに入れた俺は、そのままお辞儀をするように頭を下げた。次の瞬間、頭上をそれなりの質量をもった物体が通りすぎていく。
残っていた二体のアイアンゴーレムが俺に向かって突進してきた。俺は鉄鉱石をゲットするべくショートソードを構えた。
それからは二階をくまなく散策し、魔物を狩っていった。ちょうど一周したところで、アイテムボックスに入れた戦利品の数を見て、俺は満足げに笑う。
「しばらく肉には困らないな。ーーさて、そろそろ戻るか」
「お、戻ってきたのか。先に食べているのだ」
俺がセーフティエリアに戻ると、リリーたちはちょうど食事の真っ最中だった。
セーフティエリア内には野営の準備ができており、料理をするための竈も作ってあった。いまはそこに大きな鍋がのっており、中身をオールがかき回している。
「おかえりなさい、クロムさん」
『よぉ、クロ公、成果はどうだった?』
「なかなかのものだったぞ。折角だし焼いて食うか」
アイテムボックスからフライパンと肉をいくつか取り出し、オールに渡した。オールは眉をひそめていたが、何も言わずにそれらを受け取り肉を焼き始める。
「おお、肉を焼くのか! 野営で干し肉以外の肉が食べられるなんて夢のようなのだ」
目を輝かせながら焼けていく肉をじっと見つめるリリーの様子は幸せそうだった。
「野営だろうと肉を持っていけば食えるだろ? それでなくても今日みたいに現地調達とか」
なんて、何気なく言ったら親の仇を見るような目で睨まれた。その一瞬の殺気は俺でも怯むくらいの迫力で、俺は目を白黒させる。
そして襲いかかる怒涛の言葉の波。要するに、旅または日をまたいで移動する時は、必要最低限の荷物しか持っていかないそうだ。荷物が多いと移動時の負担になるし、襲われた時にすぐに対処できないからだ。
しかも移動に日数がかかると生の食料は持っていけない。荷物量も考えると必然的に持っていけるのは、干し肉や釘が打てそうなほどに硬いパンなどの保存食になる。
俺のようにアイテムボックスを持っているなら話は別だが、そんなのはほんの一握りしかいない。一応アイテム袋なんていうものもあるが、持っているのは高ランク冒険者がほとんどだ。
というわけで、低、中ランクの冒険者が野営で食べるものは、保存食が圧倒的に多かった。ただ、パーティを組んでいた場合は、スープぐらいなら飲めるらしいが、ソロでは確実に保存食しか食えない。
大食いであるリリーにとっては、まさに地獄のような食料事情であり、放たれた殺気にも納得がいく。
俺も食べることは好きだし、旅の間ずっと保存食で過ごせと言われたらげんなりする。
「よし、わかった。リリー、今日は好きなだけ肉を食えっ、いくらでも出してやろうじゃないかっ」
俺はアイテムボックスからオーク肉の他に、ビッグフロッグの肉も出した。肉の山を見たリリーは目を輝かせ、その山に突撃する。怒りはすっかりどこかへと飛んでいったらしい。
安堵の息を吐いた俺は、肉を焼くための焚き火を増やした。フライパンは一つしかないため、焼き方は串焼き一択。木の棒を削って串を作り、それに肉を刺して焚き火で焼いていく。
オールにはそのままフライパンで肉を焼いてもらい、俺とティルはひたすら串焼きを作った。かなりの量を作って焼いたのだが、そのほとんどがリリーの腹へと消えた。
俺たちも焼いている合間に食べたりはしていたが、呆れるほどの食欲だ。
「ティル、ちゃんと食べられたか?」
「はい、もともとスープでお腹いっぱいでしたから」
『しっかし相変わらずの食いっぷりだな』
ルビーはオーク肉を食べつつリリーを見た。リリーといえば満足したらしく、いまはスープを幸せそうに飲んでいる。
「はぁ、やっと終わったか」
ずっと振るっていたフライパンを手放し、オールはその場に座り込んだ。もしかしたら戦闘の時より疲れているんじゃないだろうか。
「焼きかたご苦労さん」
俺が串焼きを差し出せば、オールは無言で受け取りかぶりつく。
「まったく、ダンジョン探索中に肉をこんなに焼かされるとは思わなかった」
「まぁ、英気を養うと思えばいいだろ。ひと休みしたら探索再開だからな」
俺の言葉にオールは食べ終わった串を焚き火の中に投げ捨て立ち上がった。
「なら、さっさと休むか。ティルとルビーもしっかり疲れをとれよ」
オールは離れた所に座り目を閉じた。テントを張っているんだからそこで寝ろよ、と思うが、たぶんティルやリリーに譲ったんだろう。
俺は満腹になってうとうとしているリリーを小脇に抱え、テント内へ入れた。ティルにも声をかけ中で休むよう促す。
ティルについてルビーも中に入ったところで念のため簡易結界を施した。
俺は焚き火の側に座り、自分の影から使い魔であるコウモリを一匹出す。このコウモリは本性に戻った時に創ったもので、影の中に潜ませておいたのだ。
「俺も少し休む。大丈夫だと思うが、見張りは任せた」
俺の命令にコウモリは頷き、セーフティエリア内を飛び回り始めた。
これで大丈夫だろう。さて、俺も休むか。




