51「ダンジョンは家だったのか……」
次の日、俺たちは朝早くに出発した。移動手段は徒歩。1日かけて岩窟の洞の近くにある村へと行くそうだ。
移動中は比較的平和だった。ごくたまに雑魚魔物の襲撃があったが、ほとんどリリーが撃退していた。
日が暮れる少し前に村へと到着し、宿をとる。客はそんなにいないらしく二人部屋を二つとることができた。
食事もそこそこに俺以外は早々に休んだ。俺はというと一人ダンジョンの入り口へと来ていた。もちろんオールには一言断ってな。
暗闇の中、ぽっかりと口を開けるダンジョンの入り口。見た目はただの洞窟にしか見えない。中にクマとかいそうだ。
少し覗くくらいいいかなと足を踏み出すとビリっときた。魔力の壁が目の前に広がり俺の行動を阻む。
おお、結界か。一般人とか間違って入らないようにしているんだな。なるほど、そのための許可証か。
許可証を持っていないと結界に弾かれるシステムとは上手くできている。中を見れないのは残念だが、まぁ、いいか。どうせ明日からはいやというほど歩き回るのだから。
俺はダンジョンの入り口をもう一度見上げ、宿へと帰った。
そして翌日、俺はまたダンジョンの入り口前に来ている。今度はリリーたちと共に。
リリーが許可証を前にかざすと、一瞬魔法陣が浮かび上がり結界が消えた。これで中に入れるのか。昨夜はできなかった第一歩を踏み出し、俺はダンジョンへと入った。
「ほぉー、これはこれは」
「すごい、これがダンジョンなんですね」
俺とティルは物珍しげに、ダンジョン内を見回していた。
入り口はただの洞窟だったくせに、中は石壁に囲まれた遺跡っぽい造りになっていたのには、ちょっと驚いた。光源などないと思っていたが、壁に等間隔で魔石が埋め込まれ、それが光を発している。
『あちこちから魔物の匂いがするぜ。こりゃあ、かなりいるな』
スンスンと匂いを嗅ぐ仕草をするルビーに、俺も探知の網を広げた。内部はそんなに複雑な構造にはなっていないようだ。ただルビーが言うようにぽつぽつと魔物の反応がある。
「このダンジョンは過去に踏破されているから、すべての階の地図が発行されているのだ。これが一階の地図。とりあえず最短距離で進もうと思うのだ」
俺はリリーから地図を見せてもらい、ふむと頷く。最短で行けば時間もそんなにかけずにすむだろう。
今回の目的はレア魔物だ。いつどこで出てくるのかまったくわからないため、一階ずつ探索する必要がある。どこかの階で遭遇するならそれでよし。最悪、何回も往復する可能性もある。
食料はアイテムボックスの中にたんまりと入れてきているから問題ないが、せめて発生条件とか場所がわかればよかったのだがな。
レアらしく目撃情報もそんなにないときた。地道に探すしかないか。
「じゃあ、さっそく行くか。隊列はどうする?」
ダンジョン探索などやったことがない俺は、こういうことに詳しいであろうオールに訊いた。
「そうだな……、クロムとリリーが前衛、その後ろにティルとルビー、俺は殿を務めよう」
「了解、リリーもそれでいいか?」
「問題ないぞ」
さて隊列も決まったし、ダンジョン探索開始だ!
探索は順調に進んだ。一階にいたのは、ゴブリンとストーンゴーレムの二種類の魔物。
主に俺とルビーがゴブリンの相手をした。ストーンゴーレムはリリーとオールが。ティルには魔力を温存してもらいつつ、臨機応変に対応してもらった。
ただリリーが至極楽しそうに、ストーンゴーレムの核を拳でぶち抜いた時は、どうしようと思った。何度か共に依頼をこなしたが、こいつは戦いとなると好戦的になるらしい。
まぁ、バーサーカーとまではいかないからいいが。
しかし落とす素材は石や木の棒ばかりではずれだな。木の棒だけは焚き火の材料になるので拾っているが、石はすべて放置だ。
これだったら少し遠回りにはなるが、魔物を避けていったほうがいい気がする。ーーが、オールが受けた依頼、魔物の間引きがあるためそれもできない。
非常に面倒ではあるが、最短ルート上の魔物だけはしっかりと倒していった。
そうこうしている内に、二階へと続く階段の前に立っていた。ここに着くまでそれなりに戦闘を繰り返したが、俺はもちろん他の奴等にも疲労は見えない。ティルは少し疲れているように見えるが、顔色はいいのでまだ大丈夫だろう。
「このまま次の階へと行くぞ。ティル、もう少しだけ頑張れるか?」
「はい、大丈夫です」
「二階にはセーフティエリアがあるから、そこでひと休みするのだ」
地図を広げながらリリーがある一点をさす。そこはちょうど最短ルートの中に入っており、下手に遠回りしなくてもよさそうだった。
「セーフティエリアっていうのは、休憩所みたいなものか?」
「そうなのだ。なぜかその場所だけ魔物が寄ってこなくて、水も湧いているから休むのには最適なのだ。ダンジョンにはこういう場所がいくつかあるのだぞ」
なるほど、しかし親切設計だな。わざわざ休む所を提供してくれるとは。これで食料なんかも調達できれば文句はないのだが。
などと考えていた俺だったが、二階で遭遇したオークを倒したら肉を落としたので、思わず真顔になってしまった。
これはもうここに住めということなのか。衣食住のうち、食と住が揃っているのなら、もう住むしかないだろ。
「ダンジョンは家だったのか……」
「は?」
「いや、なんでもない」
俺の呟きをオールに拾われてしまい、俺は咄嗟に誤魔化した。とりあえず肉をアイテムボックスへ入れよう。どこの部位とかはわからないが、いい塊肉じゃないか。
「よし、お前らっ、ここのオークを狩り尽くすぞ!」
「いや、セーフティエリアに行くのが先だろ」
オールにつっこまれた。仕方ない、オーク狩りはあとで行こう。




