50「ダンジョン?」
それからリリーとは、顔をあわせれば雑談もしくは依頼を一緒に受けるような仲になっていた。だからといって、正式にパーティを組んでいるわけではない。あくまでタイミングが合い、気が向いたらという場合のみ共に依頼を受けていた。
今日も今日とて俺はティルと共に掲示板を睨んでいた。ついでに言うと今日はオールも一緒で、こっちは報告のために来ていた。
「おっ、クロム、ティル、ちょうどよかったのだ」
依頼の物色中、リリーが声をかけてきた。朝から元気そうで何よりだ。
「リリーさん、おはようございます」
『リリーの嬢ちゃん、おはようさん』
「うむ、ティルもルビーもおはようなのだ」
「お前も依頼を探しに来たのか? 手ごろなのがあったら一緒に受けるか?」
「構わぬぞ、ーーって、そうではなく今日はお前たちに頼みがあって来たのだ」
「頼み?」
「そうなのだ。わたしと共にダンジョンへ行ってくれないか」
「ダンジョン?」
これまたファンタジーの定番がきたな。とりあえず俺は、この世界でのダンジョンとはどういうものなのか訊くため、説明役の姿を探した。
【ダンジョン】
魔素溜まりの中から稀に出現する迷宮。ダンジョン内では常に魔物が生まれ続けているため、適度に間引く必要がある。ダンジョンの最奥にはダンジョンコアというものがあり、これを壊してしまうとダンジョンが消滅してしまう。しかしコアの傍には守護者と呼ばれる魔物がおり、片時も離れず守っているという。
「ちなみにダンジョン産の魔物は倒すと素材だけを残し、跡形もなく消える」
オールの説明を聞きながら、俺はなるほどと頷く。ダンジョンとは便利な素材採取場所か。解体しなくてもいいなど親切設計だな。
「ーーで、そのダンジョンに共に行ってほしいと」
「そうなのだが、そっちの男は誰なのだ?」
「説明役だ。気にするな」
「おい」
「えっと、オールさんは私の後見人なんです」
「後見人? クロムではなかったのか」
まぁ、いいかとリリーはオールの顔をじっと見つめた。しばらく見つめたあと、ティルの手を取り少し離れた場所へ連れていく。
何やらボソボソ話しているようだ。こちらには聞こえていないと思っているようだが、実は聞こえている。
内容としては、リリーがティルの心配をしていた。曰く「あんな死んだ魚のような目をした男が後見人で大丈夫なのか」と。
これには俺も笑いが込み上げてきた。声を上げずに肩を震わせていると、俺と同じく聞こえていたオールはなんとも言えない表情をしている。その足下ではルビーが慰めるように足を叩いていた。
ティルはといえば「オールさんはいい人ですよ」となんとかフォローしている。それでもリリーの疑いの目はなかなか消えることはなかった。
まぁ、オールのことについては置いといて、話を進めることにしよう。ティルとリリーの話し合い? が終わり、こっちと合流したところでリリーに話の続きを促した。
「わたしはとあるダンジョンに出現する魔物が落とす素材がどうしてもほしいのだ。だが、ダンジョンはソロでは入れないから、だからお前たちに臨時のパーティを組んでほしいのだ」
「私もですか?」
「できればティルにも。冒険者見習いはパーティであってもダンジョンに行くのは禁止されているが、後見人がいれば話は別なのだ」
どうやら後見人が一緒に行くのなら、見習いもダンジョンに行っていいらしい。もしティルがリリーの頼みを了承するのなら、必然的にオールも共に行くことになる。
だが、オールが断ればティルはダンジョンへ行くことができない。
リリーもそれをわかっているため、オールがなんと答えるのかじっと待っている。
二人の少女に見つめられ、オールは視線をさまよわせたあと、深々と息を吐いた。
「断ったところで、こいつに無理矢理連れていかれるのが目にみえているからな。まぁ、いいだろう。ティルにとってもいい経験になるだろうし」
「賢明な判断だ」
俺はニヤリと笑う。ただ、無理矢理とは人聞きが悪い。ちゃんと丁寧に頼むさ、そう丁寧にな。
その時の俺の顔は結構な悪人面だったらしく、ルビーが軽く引いていたらしい。
「ーーで、どこのダンジョンに行くんだ、ランクは?」
オールがリリーに質問していく。ふむ、ダンジョンにもランクがあるのか。
「Dランクの【岩窟の洞】というダンジョンなのだ」
「岩窟の洞……、ああ、あそこか」
オール曰く、Dランクダンジョン【岩窟の洞】とは、主にゴーレム系の魔物が出現するダンジョンとのことだ。もちろんそれ以外の魔物も出現するが、圧倒的にゴーレム系が多いらしい。だからなのか落とす素材も鉱物系がほとんどで、よくて鉄鉱石、通常で石や骨しか落とさないようだ。それ故にこのダンジョンに挑戦する者はほとんどいないらしい。
「なんだか実入りが少なそうなダンジョンだな。そんなところにリリーの欲しい素材があるのか?」
「うむ、岩窟の洞内でごく稀に出現するレア魔物【ジュエルゴーレム】が落とす素材【虹色の玉石】、それがわたしの欲しいものだ」
レア魔物、そんなものがいるのか。ただレアとつくからには、出現率はあまり高くなさそうだ。
「ちなみに訊くが、そのジュエルゴーレムの出現率はどのくらいなんだ?」
「まぁ、ダンジョンにおけるレア魔物の出現率はだいたい5%ぐらいか。よほどの運がなければ遭遇するのは難しい」
「なるほど、つまりは何日もかかるかもしれないと。それでもリリーは俺たちに頼むのか」
「ああ、頼むのだ。長い時間クロムたちを拘束してしまうかもしれない。だけどわたしはどうしても虹色の玉石が欲しいのだ」
頭を下げるリリーに、俺とティルは顔を見合わせた。俺としては行く気だったし問題はない。それはティルも同じだったらしく頷かれた。オールは問答無用で同行は決定している。
「もともと断る気はなかったからな。よろしく頼む」
「私もよろしくです。リリーさん」
「あ、ありがとうなのだ! それじゃあ、さっそく受付に登録してくるのだ」
元気よく走っていくリリーに苦笑をこぼし、俺たちもあとを追った。
受付では無事臨時パーティの登録もでき、ダンジョンに入るための許可証ももらえた。
ただオールだけは、エリンにダンジョン内の魔物の間引きを依頼されていた。人が来ないダンジョンは、魔物がどんどん増えていき最終的にはスタンピードを起こすため、定期的に間引く必要があるらしい。
岩窟の洞もそろそろというそんな時期に、Bランクがダンジョンに行くとなったら、そりゃあ依頼するよな。
その後は各自準備をするため、一時解散となった。




