48「世知辛いな」
臨時パーティを結成した俺たちはさっそく依頼を受注した。そこからの行動は速く、村へ移動、村長から話を聞き、ブラッディウルフが目撃された場所まで来ていた。
目当てのブラッディウルフはすぐに見つかった。こちらを獲物とみなし襲いかかってきたのだ。
俺がショートソードを抜くより速くリリーが飛び出し、ブラッディウルフを空へと殴り飛ばした。
彼女の攻撃スタイルは体術による近接戦闘らしく、腕にはめたガントレットがキラリと光る。まぁ、いまそこには血液が付着しているが。
獲物から敵にシフトチェンジをはたした俺たちの周りをブラッディウルフたちが取り囲む。数は四、俺は今度こそショートソードを抜き放ち構えた。
リリーはというと笑顔で次の標的に殴りかかっていく。俺も大地を蹴り、ブラッディウルフに向かってショートソードを振るうが、硬い毛皮に弾かれてしまった。
「おっと……っ」
初撃をしくじった俺の背後からもう1匹が強襲してくる。それを体を捻ってかわし、今度は顔面を狙って飛びかかってきた奴をショートソードの柄で殴り飛ばした。
「やっぱりウルフより強いんだな」
刃に魔力を纏わせ一匹斬りふせる。続けて二匹目も撃破し、息をついたところで顔の横スレスレを、赤黒い物体がものすごいスピードで通り過ぎていった。
一度瞬きをし、おそるおそる背後を振り返れば、木に激突し事切れているブラッディウルフの姿がある。さらに視線を前に向ければ、飛び散った血で頬を汚したリリーが良い顔で笑っている。
「よっし、ブラッディウルフ撃破なのだーーーー!」
それなりに見目が良い少女が顔を血で汚し叫ぶ光景は、なんだか狂気を感じさせるな。元気なのはいいことだが。
「リリー、顔に血がついているぞ」
「むむ、ついていたか」
俺の指摘にリリーは服の袖で適当に血をぬぐっている。その間に俺はブラッディウルフの死骸を一ヶ所に集めていた。
リリーが殴り飛ばしたやつもそう遠くには飛んでおらず、すぐに集めることができた。
「さて解体は頼むぞ」
「うむ、わたしのナイフ捌きに任せるのだ。あっ、警戒のほうは頼んだぞ」
リリーが解体を始める中、俺は探知の範囲をゆっくりと広げていった。いくつか反応はあったが、どれも小さいもので放っておいても大丈夫だろう。
そう判断した途端、探知の網に強い反応がかかった。ものすごいスピードでこちらに向かってきている。
「っ、【サンダーアロー】!」
俺は間髪入れずに魔法を放つ。これで仕留められればよし。だが、やはりというか、簡単に避けられたらしい。
「リリー! 客が来た!!」
「わかってるのだっ!」
リリーは解体を放棄し、戦闘態勢をとった。木々の間から巨大な赤が飛び出し、俺たちがいる場所に落下してくる。
俺たちは左右に避け、その赤を同時に視界におさめた。そこにいたのは深紅の毛を持つ巨大な狼だった。
「げっ、クリムゾンウルフなのだ! なんでCランクの魔物がこんなところに!」
リリーが嫌そうに叫ぶ。クリムゾンウルフ、ブラッディウルフの上位種だろうか。依頼人からはこいつのことは聞かされていない。
元から知らなかったか、知っていても依頼書には書かなかったか。いや、依頼人だって生活と命がかかっているんだ。わざわざ一つ低いランクで依頼を出すメリットはない。ということは、こいつの存在は元々知らなかったと。
そんなことを考えていたら、クリムゾンウルフの毛がぶわりと広がり、その毛が鋭い針となって飛んできた。ほらっ、あれだ! 妖怪アニメのやつ! 明と一緒に見たわ、懐かしい。
昔の思い出に浸りながら、俺は飛んできた針を避ける。リリーも上手く避けたようで、怪我らしい怪我はしていないようだ。
「リリーっ、どうするっ、こいつもやるかっ!」
「逃げようにもすぐに追いつかれるのがオチなのだ。迎撃するしかない。幸いCランクだったらわたしでもなんとか対処可能だ。クロムのほうも問題ないのだろう」
「もちろん、だっ」
会話をしつつ、こっちに向かってきていたクリムゾンウルフの前足をすれ違い様に斬りつけた。だが、あまり効いていないのか、すぐさま反転し俺を噛み砕こうと突進してくる。
「このやろうっ、なのだ!」
クリムゾンウルフの死角から飛び出したリリーの一撃が顔面に決まる。だが、倒すには至らない。
衝撃で少し後ずさった程度で、クリムゾンウルフは元気に牙を剥いていた。
「【幻踏·陽炎】」
俺はステップを踏み、いくつもの幻影を作りあげていく。それもクリムゾンウルフを囲む形でだ。
気を逸らせればそれでいい。そうすればーー。
俺の目論みどおりクリムゾンウルフは幻影に食らいついている。そしてリリーはというと上手くクリムゾンウルフの死角へと入っていた。
「【ウェーブインパクト】!」
リリーの拳がクリムゾンウルフの下顎を捉えた。衝撃が波のように何重も発生し、クリムゾンウルフの顎骨を破壊、脳を揺らす。とどめとばかりに俺が頭を落とした。
生命活動を停止させたクリムゾンウルフの体がどさりと倒れる。一気に静かになった場に、俺とリリーの息づかいだけが聞こえる。
「はあー、終わったのだ」
リリーはその場に寝っ転がり大きく体を伸ばした。俺も剣を鞘に戻して人心地つく。
「まさか《飛び入り》があるなんてな、こういうことはよくあるのか?」
「件数は少ないが、ない訳じゃない。もし当たった場合の生死は半々。上手く逃げ切るか、撃退するか、もしくは運が悪かったと嘆いて命を失うか。まぁ、《飛び入り》が高ランクだったら、有無を言わさず待っているのは死だが」
「世知辛いな」
「だが、今回のわたしたちは勝ち組だ。生きて勝って臨時報酬も手に入るからな」
体のバネを使って飛び起きたリリーは、嬉々として解体を再開させる。それを俺は周りを警戒しながら眺めていた。
解体は一時間もしない内に終わった。解体したものをアイテムボックスへ入れているとかなり驚かれた。
そういえば言っていなかったな。言うほどのことでもないと思っていたから。
あとは村に戻って報告。クリムゾンウルフのことも報告すると、先方は真っ青になっていた。倒したことを話し、証拠の素材を見せると拝まれた。
宴を開かれそうになったので、さっさと依頼完了のサインをもらい村をあとにする。リリーは出たそうにしていたが、俺は早く帰りたかったので、首根っこをひっつかみ引きずっていく。
その際、リリーの腹から『ぐぎゅるるる』という音が聞こえ、それがやむことなく大合唱を始めたので、その口にプアルの実を突っ込んでおく。ご機嫌でプアルの実を噛じるリリーに、俺は深くため息を吐き歩き始めた。
ギルドに着いてからは報告と買い取りを済ませ、得た報酬はきっかり半分ずつ分けた。ただ、クリムゾンウルフに関しては俺が魔石を欲しがった為、それ以外の素材を売った分はすべてリリーに渡した。
リリーは受け取ることを渋っていたが、俺が強引に押しつけた。俺は魔石があればいいからな。
無事依頼も達成できたし、臨時報酬も手にできた。あとは帰るだけとリリーに別れの挨拶をし、一人でギルドを出る、はずだった。はずだったのだが、なぜかリリーに捕まり共に夕食をとるはめになった。




