47「俺は魔物の解体はできないぞ」
「うりゃあ!!」
力のこもった掛け声と共に、狼系の魔物ブラッディウルフが宙を舞った。その見事な飛びっぷりに、俺は遠い目をしながらその姿を追う。
よく飛んだな、が俺の正直な感想だった。俺の目の前では、この光景を作り出した少女が高らかに笑っている。
「にゃははは! どんどん来るのだ!」
拳を握り残りのブラッディウルフに殴りかかっていく姿は、実に楽しそうだった。
これ、俺いらないんじゃないか。
なんとなく少女と共に依頼を受けてしまったが、失敗だったかと思う。その時のことを思い出し、俺は小さく息を吐いた。
休暇も終わり心機一転、俺たちはギルドへと足を運んでいた。依頼書が張り出されている掲示板の前へ行き、手頃な依頼はないかと物色する。
ランクも上がったことだし、受けられる依頼のランクも上がるな。さて、どれにするか。
「できればランクDの討伐依頼がいいか。魔物の強さがどの程度なのか気になる」
何かないか探していると、ティルが一枚の依頼書を手に取ったのが見えた。どうやらルビーと一緒に決めたようで、最終確認をしているようだ。
オールもさっさと決めてしまったらしく、依頼書を剥がしていた。二人とも早いな。俺も早く決めなければ。
「……お、これなんかいいんじゃないか」
依頼内容はブラッディウルフという魔物の討伐。場所はラウルスから南に行ったところにある村の近く。どうやら依頼はこの村から出されたようだ。
距離的にもちょうど良さそうだ、と手を伸ばしたところで、横からもう一つ手が伸びてきた。
「ん?」
「はえ?」
一枚の依頼書を同時に掴む俺と見知らぬ誰か。俺たちは互いに見つめあい、しばし時が流れる。
「お前もこの依頼を?」
「そうなのだ」
「そうか」
俺はそう言い依頼書から手を離した。別にこの依頼にこだわる必要はないし、他にいくらでもある。
それに目の前にいるのはティルと同じくらいの少女だ。空色の髪を左サイドで一つに結び、動きやすそうな軽装に身を包んでいる。この少女も冒険者なのだろう。だからといって依頼の取り合いをする気はない。
別のものを探し始めた俺と、掴んでいる依頼書を交互に見、少女は困惑げに声をかけてきた。
「あの、譲ってもらっていいのか?」
「他にもあるからな。まぁ、レディーファーストだとでも思え」
俺の言葉にぽかんとした表情をする少女。なんだ? おかしなことを言ったか?
「そんなこと言う奴初めてみたぞ。普通、依頼は早い者勝ちで譲るなんてことしない。条件の良いものなんて争奪戦が起きるくらいだ」
「そういうものか」
俺は依頼が貼り出される時間帯に来たことはないからな。だいたい昼の少し前に来ることがほとんどだ。
確かにその時点では、あまり良い依頼は残っていなかったな。俺としては、ティルのレベルを上げる為の討伐系の依頼があればよかったので気にしていなかったが。そういえばオールはたまに朝早くに出ていたような。
「なぁ、もしよかったらこの依頼、一緒に受けないか」
「それは、どういう意味だ」
「そのままの意味だぞ。臨時のパーティを組んで依頼受けるのだ!」
良いこと言った! みたいな顔をしている少女だが、すまん、何を言っているのか理解ができん。なぜ依頼を譲った流れから臨時パーティを組むということに繋がるんだ。
「いま初めて会った奴に臨時とはいえパーティを申し込むのか? 実力も何もわからないのに?」
「この依頼を受けようとしていたからランクDだろ。それにエルダークイーンフロッグを倒したのってお前だよな? エリンが叫んだ時、わたしもそこにいたから惚けても無駄だぞ」
ああ、あの叫びか。まさか俺もエリンが叫ぶとは思わなかった。
「実力はわかっても人柄はわからないだろ」
「わたしと同じくらいの娘と一緒にいたじゃないか。娘のほうもなついている感じだったし、少なくとも悪人じゃないとわたしは判断したのだ」
「ーーーー俺は魔物の解体はできないぞ」
「わたしは得意だ。わたしの華麗なナイフ捌きを見せてやるぞ」
引く様子のない少女に、俺は内心ため息をついた。まぁ、たまにはいいか。
「クロムだ。短い間だが、よろしく頼む」
「わたしはリリー、よろしく頼むのだ」
リリーと名乗った少女は嬉しそうに笑った。




