46「お伽噺?」
「オール、勇者召喚について何か情報は入ったか」
俺はベッドに座りながら、目の前のオールを見上げた。オールは息を吐き、もう一つのベッドへと座る。
場所は【猫の長靴亭】で借りている俺たちの部屋。時間はそろそろ深夜に近い。
オールに調べてもらっていたのは、勇者召喚に関する情報。不思議なことにラウルスに来てから勇者が召喚されたという話は、一度も聞いたことがなかった。
召喚を行ったのが、この国ではなく他国だったにせよ【勇者】を喚ぶのだ。かなりの大事のはずなのに誰一人として知らない。まるで勇者召喚自体が存在しないかのように。
そんなことはありえない。現に【俺】という勇者召喚に巻き込まれた者がいるのだから。
これは何かあると思い、俺はオールに調べてもらっていた。このままじゃ、明たちを探すこともできないからな。
「残念ながら何もわからなかった。だいたいなぜ勇者召喚のことを調べる必要がある? ただのお伽噺だろう」
「お伽噺?」
「そうだ。魔王が現れ、こことは違う世界から喚んだ勇者が世界を救う。誰でも知っている話だ」
勇者召喚のことを一般市民は知らない? いや、知らされていないのか。だとしたら情報を持っているのは、王族や貴族のやつらか。
俺の脳裏にここら一帯の領主であるオルヴァルトの姿が浮かぶ。あの脳筋なら何か知っているだろうか。
「勇者召喚はお伽噺じゃない。実際にある召喚術の一種だ」
「なぜそう言いきれる」
「俺がその勇者召喚に巻き込まれたからだ。ちょうどいいから言ってしまうが、俺はこの世界の魔物じゃない。地球というところにいた吸血鬼だ」
俺が暴露した内容に対してオールはなんの反応も示さなかった。いや、微妙に目が遠くを見ている。
なんだか最近、こいつのこの状態を見ることが多いような気がする。……俺のせいか?
まぁ、いいかと俺はこの世界に来てオールに会うまでのことを順に話していった。改めて話すと我ながら変なことに巻き込まれたものだとため息が出る。
すべてを話し終えるとオールは額に手を当て俯いていた。
「……もしかして俺はヤバイ奴と契約を交わしたのか?」
死にたいがために、とんでもないことに首を突っ込んでしまったと、オールはぶつぶつ呟いている。
俺はベッドから立ち上がり、いい笑顔でオールの肩に手を置いた。
「契約は絶対だからな」
逃がさないぜ、という意味合いを込めて、わざと手の甲に契約の魔法陣を浮かび上がらせる。
それを見たオールは、諦めたように肩を落とした。
「はぁぁ、なるようにしかならないか。ーーで、お前が探しているのはその勇者召喚に関わりがある奴なんだな」
「切り替えが早くていいな。探しているのは、俺と同じ地球から召喚された兄妹だ。言っておくがこの二人は人間だからな」
俺の言葉にオールは少し考える素振りを見せた。何か思い当たる節でもあるのだろうか。
「この国じゃないんだが、最近随分と活躍している新人たちがいるらしい。ギルドに登録して1ヶ月でゴブリンキングを討伐したとか」
「ほぉ」
ゴブリンキングの強さがよくわからないが、だぶんそれなりに強い。新人がどうがんばっても相手にできないくらいには。
それを討伐したと。なんだか気になるな、その新人たち。
「お伽噺が本当のことだとしたら、勇者として召喚された者は、それに相応しい力を授かるはずだ。それこそゴブリンキングなど軽く討伐できるほどの」
「つまりオールはその新人たちが俺の探し人だと?」
「断言はできん。風の噂だしな。ただ確かめる価値はあると思う」
「そうか……、ならその新人たちがどの国にいるかわかるか」
「すまん、そこまでは……、だが引き続き調べよう」
「頼んだ」
勇者として召喚されたにもかかわらずその存在はなく、かわりに出てきた新人たちの噂。
一体、何が起こっているのやら。ただ絶対ろくでもないことなんだろうなとは思う。
もう少しだけ待ってろよ。必ずお前たちを迎えに行くから。
「そういえばティルには言わなくていいのか? お前の正体」
「正体って俺が吸血鬼ということは知っているだろう」
ファーストコンタクトは吸血鬼の姿だったし。
「そうではなく、お前が別の世界の魔物ということをだ」
「ーーあぁ、別に言うことはないだろ。混乱するだけだ。俺はただの吸血鬼、それだけでいい」
「そうか……」
どうせ事が済んだら消える身だ。なら言わないほうがいいに決まっている。
ーーとある国のとある城の一室
「うぅ、今日も疲れた。毎日毎日魔物の討伐、もういやだ……」
ベッドに身を沈め嘆く少女がひとり。
「明兄もなんか変だし、これからどうなるのかなぁ」
ここに来てから不安は膨らんでいくばかり。
一緒にいた兄もだんだんおかしくなってきていて、少女にはもうどうすればいいのかわからなかった。
「怖いよ、クロ兄……」
少女の頬に一筋の雫が流れ落ちた。




