44「は? 小屋?」
いろいろ大変だった薬草採取。流石に疲れたので、しばらくの間は冒険者稼業は休もうとオールたちと話し合った。
さいわい金もそれなりに稼げたし問題はないだろう。
ティルにはお小遣いとしていくつか金貨を渡した。そうしたらこんなにもらえないと返されそうになったので、黙って手を握らせる。
元々これはティルの取り分なので遠慮することはないのだ。食べ歩きなりショッピングなり好きなことを楽しめばいい。そう言えば嬉しそうに笑っていた。
それとオールには少々調べものを頼んだ。休みとは言ったが、こいつとは契約がある。しっかりと働いてもらおう。
まぁ、それでなくても勝手に依頼を受けてこなしていそうだがな。
そして俺だが、そうだな、アルベルトたちの所に顔を出してみるか。フウマたちの様子も気になるし、なんといってもマトの実の収穫具合がどんなものか見てみたい。
よし、予定は決まった。朝食を食べてさっそく出発だ。ちなみに朝食にはビッグフロッグの肉が入った具だくさんスープが出た。
ふふ、料理人でありここの主人でもあるダリルに肉を渡して正解だったな。これからどんどん持ってこよう。
腹も満たしやって来たのは一軒の農家。当然アルベルトたちの所だ。
アルベルトたちはすでに畑に出ているらしく家にはいなかった。なので畑に行ってみると、雑草取りをしている二人の姿が見える。
んん? フウマたちの姿が見えない。なんだ、あいつらどこ行った?
「あら? クロム君じゃない」
俺の姿に気づいたユフィが声を上げた。フウマたちの気配を探そうとしていた俺は、その声に手を上げて応える。
「どうしたんだい? 突然」
アルベルトも作業の手を止めゆっくりと立ち上がった。腰をトントンと叩いているので、やはり座り作業は腰にくるのだろう。
まったく、こういう体に負担のかかる作業はフウマたちに任せればいいのに。まぁ、その肝心のフウマたちがいないんだが。
「ちょっと様子を見にきたんだ。ところでフウマたちはどこに行ったんだ?」
さぼりだったら許さん。
「ああ、彼等なら自分たちが住む小屋を建てているよ」
「は? 小屋?」
なんで小屋? 俺が不思議そうにしているとアルベルトが苦笑しつつ説明してくれた。
曰く、フウマたちは近くの森からこの畑に通っていたそうだ。だが、フウマたちは夜になると必ず一匹は畑に残り寝ずの番をしてくれるという。そしてそのままその一匹は次の日普通に畑仕事をするのだとか。
だが、それでは体に負担がかかるのではとアルベルトたちは心配した。寝ずの番をしてくれた一匹は、次の日休んでもいいと言ったらしいのだが、大丈夫だと言われたそうだ。
まぁ、あいつらは弱くても魔物。一日くらい寝なくても活動に支障はない。
それならとアルベルトたちは自分たちの家で少し休むよう提案したが、従魔とはいえ魔物を家に入れるのは良くないとフウマに諭されたらしい。
そこでアルベルトたちは考えた。やはり魔物でも休まず働くのはよくない。森にある寝床に戻って休んでほしいが少し遠い。自分たちの家では休んでくれない。だったら敷地内にフウマたちが休める小屋を建ててしまえばいいのではないか。いや、いっそそこに住めるようにしてしまえばいい。
ということで、フウマたちはいま自分たちの住み処を作っているそうだ。
「ーーって、待て待て待て、なんでそういう発想になるんだよっ!」
つっこみどころがありすぎる。
「だってそうすれば彼らも心置きなく休めるだろう。報酬である野菜はこちらで美味しく調理して一緒に食べられるしね」
えー、魔物に対する考え方じゃない。お人好しすぎるだろう。あ、そういう奴らだった。
アルベルトとユフィはニコニコ笑っている。その笑顔に俺は深くため息をついた。
「まぁいい。で、フウマたちはどこに小屋を建てているんだ?」
「あちらの隅のほうだよ」
アルベルトが指差す方向を確認し、俺は歩き出した。そう時間もかからず四つの影と不格好な小屋のようなものが見えてくる。
『おや、主ではないか』
俺の姿に気づいたフウマが驚きの声を上げる。他の三匹も作業の手を止め、わらわらと集まってきた。
『オヤブンダ、ドウシタンダ』
『オラタチ、イマ、スミカツクッテンダド』
『サボリジャネエゾ』
三ゴブがそれぞれ話すのを手で制し俺はフウマへと向き直る。
「今日は少し様子を見にきたんだ。念話で近況はわかっていたが、やはり自分の目で確かめたいからな」
『そうだったのか』
「ああ、アルベルトに聞いたぞ。お前たち真面目にやっているようじゃないか」
『あの人たちは魔物であるオレたちと対等に接してくれる。この身も案じてくれて、このようにオレたちが休むための小屋を建てる場所も与えてくれた。感謝してもしきれない』
「そうだな……、お前たちこれからもしっかりやれよ」
俺の言葉にフウマたちは力強く頷いた。
よしよし、これでアルベルトの畑の野菜はもっと美味くなるだろう。それはすなわちマトの実も美味くなるということ。
ああ、早くマトの実をジュースにして飲みたい。
その日を楽しみにしながら俺は口の中の唾液を飲み込んだ。
「ーーそれにしても、それ、小屋のつもりか?」
さっきからずっと気になっていた。フウマと三ゴブが建てている小屋は、いまにでも崩れてしまいそうなほど粗末なものだった。
これは新しく建てているものだよな? 元からあるあばら家を改築しているわけじゃないよな? いや、目の前で建てているのを見ているから改築じゃないのはわかっているが……。
残念すぎるだろ、これ。
『もともとゴブリンは洞窟を住み処とするのが基本だからな。慣れていないんだ、こういうことは』
「だが、柵の修繕とかもあるだろ?」
『それはアルベルト殿に手本を見せてもらったからなんとかできる。それに対して小屋は一から建てなければいけないから少し手こずる』
少しじゃないだろ、この出来は。心の中でつっこみ、俺はため息をつきながら袖を捲った。
「おい、一回その小屋もどきバラせ。それと道具を貸せ」
『主?』
「俺が建てる。お前たちは木材の調達をしてこい」
さぁ! 俺のDIY技術をとくとご覧あれ!
そして出来上がったのが小屋、というか家である。いい出来だ。やはり自分の手で作り出すというのはいい。
晴れ晴れとした気持ちで家を眺めていると、アルベルトたちが様子を見にきたようだ。この家を見て驚いている。
そういえばアルベルトたちの家もだいぶ老朽化していたな。よしこの際だから修繕しよう。
そう提案すれば悪いからと首を振られた。三ゴブが木を伐りすぎて木材が余っているからと説明すれば、それならと了承してくれた。
よしきたっ、新築同然に直すからな。それからすぐに作業に入ったが、流石にその日だけでは終わらず次の日もやることになった。
そしてきれいになった我が家にアルベルトたちはとても喜んでくれた。それでこそやったかいがあったというものだ。




