43「君はそうだったのか?」
「あの、領主様、私は本当にランクEに上がってもいいのでしょうか? 領主様の話では私が生き残れたからランクを上げると、でももし私が戦わずただ守られているだけだったらそんな資格はないですよね」
「君はそうだったのか?」
「ち、がいますけど、でもそれを証明する術はないですから……」
ティルが言うことももっともだ。誰が何を倒したかなど本人からの自己申告でしかわからない。例え素材を持ってきたとしても、それを本当にそいつが倒したのか知る術はないのだ。
複数人で行動する際はそれが如実に表れる。パーティを組んでいるのならそのパーティの成果として換算されるが、俺たちのようにパーティを組まず、行動していると各々の成果を確認するのは難しい。
だが、いまそんなことを言う必要はないと思うのだ。せっかく上げてやると言われたのだから、素直に頷いておけばいいと思う。
まぁ、そこがティルのいいところなんだが。
「君は正直者だな。だが安心するといい。誰が何の依頼を受け、どの魔物をいくら倒したかは本人のギルドカードにきちんと記録されている。当然、君のギルドカードにもだ。今回のランク昇格は正当な評価だ」
「知らない冒険者も多いんですよ。お配りしている冊子にも書いてあるんですけど、どうも皆さんその部分はスルーされてしまって。文字の読めない方たちには、口頭でも説明しているのですが記憶に残らないみたいで……」
疲れたようにため息をつくエリンに、受付嬢もいろいろあるんだなと思う。
「ハハッ、そういうことだから昇格に関してはなんの心配もない。ではエリン、あとのことは任せる。このあと屋敷に戻って鍛練をしなければならないからな」
そう言って豪快に笑いながらオルヴァルトは帰っていった。
屋敷に戻ってやることが仕事じゃなくて鍛練なのか。脳筋一直線だな、ありゃあ。それでも領地経営はできているっぽいので、意外とそっちの能力もあるんだろうか。
そう分析しているとエリンが一度咳払いをしたので、そちらのほうを向く。
「んん、それでは確認ですが、クロムさんはランクDに、ティルちゃんはランクEに上がります。それとエルダー含めすべてのフロッグたちは解体したあと、ギルド買い取りでよろしいですか?」
「こいつらからは何が取れるんだ?」
「そうですね、基本は肉、皮、油袋、魔石ですね。エルダークイーンフロッグやキングフロッグはその他の部位も立派な素材になりますが」
ふむ、肉、皮、魔石はいいとして油袋ね。日本でも昔からガマの油なんてものがあったが、似たようなものか。
というか食えるのか、ビッグフロッグ。これはぜひとも猫の長靴亭に持ち帰り調理してもらわなければ。
「ではビッグフロッグ百匹分の魔石と肉、油袋はこっちで引き取る。あとエルダーとキングの魔石もだ。他はすべてそっちに任せる」
「わかりました。それではエルダークイーンフロッグは魔石を除くと金貨三十枚、キングフロッグは一匹につき金貨一枚、ビッグフロッグは依頼通り六匹で銀貨二枚ですので、百九十八匹で銀貨六十六枚、二匹は端数となりますが、こちらで引き取るということでいいですか」
「む、端数がでるのか。だったら足りない分を追加する。六匹ということだったから四匹追加だ」
「それでしたら銀貨六十八枚になります」
「それで大丈夫だ」
「ではギルドカードの更新と買い取り分と依頼報酬を用意してきますので、ここでお待ちください。ーークワトさん解体のほうをお願いします」
「任せておけ。久しぶりの上物じゃ、懇切丁寧に解体してやるわい」
クワトじいさん張り切っているな。加齢による顔のシワや白髪具合をみると、それなりに年をくっているように見えるんだが元気だ。解体の手際もそこいらの奴とは比べ物にならないくらい良い。
あれか、これが生涯現役というやつか。
嬉々として解体していくクワトじいさんの姿を見ながら、俺はエリンが戻ってくるのを待った。
無事ギルドでの用事が終わり、俺たちが次に向かったのは採取の指名依頼をもらったソフィアの工房だ。依頼品であるアクネル草はギルドに提出してもよかったんだが、ティルが新鮮な状態で届けたいというので、工房に行くことになった。
工房の名と場所は依頼を受けた際、聞いていたので、なんとか辿り着けるだろう。ちなみにオールに訊いたら微妙な顔をされ、案内と同行を拒否された。やはりオールとソフィアはなんらかの接点があるな。まぁ、こちらとしてはどうでもいいが。
というわけでオールは離脱したため、二人での工房来訪となった。道行く人々に訊きつつやっと辿り着いた工房【薬森の園】
ソフィアはちょうど店に出ていたようで、俺たちの姿を見るなり歓迎してくれた。
俺はさっそくアクネル草をアイテムボックスから取り出しティルに渡した。一束十本としてそれが三束、依頼数ぴったりの数だ。
ティルは俺から受け取った束をカウンターの上に置いた。
「ソフィアさん、ご依頼のアクネル草です」
「ありがとう、助かるわ。それにこのアクネル草とても状態がいいわね。まるで採取したばかりみたい。ーーねえ、いま見て思ったのだけれど、あなたアイテムボックスもちなの?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「いえ、随分とレアなスキルを持っているなと思っただけよ。冒険者をするならとても便利なスキルだから」
「まぁ、確かに。このスキルには世話になっている」
俺の言葉にソフィアは軽く微笑み、カウンターの上にポーションを五本置いた。
「それでは報酬よ。ポーション五本、今回は本当にありがとう、またお願いしてもいいかしら?」
「はい! 大丈夫です!」
ポーションを受け取りながらティルは元気よく返事をした。
「そういえばソフィア、油袋とは薬の材料になるのか?」
「油袋って、ビッグフロッグのよね? 傷薬の材料になるけど、それがどうしたの?」
なぜそんなことを訊くのかソフィアは不思議そうにしていた。
ビッグフロッグの解体で油袋百個を引き取ったはいいが、これが何に使えるのかまったくわからなかったのだ。肉なら食べればいい。魔石は使い道がいろいろある。ただ油袋だけがわからない。
ソフィアに訊いたのはなんとなくだった。日本ではガマの油は薬として売られていた。だったらこの油袋も何かしらの薬になるのではと訊いてみたらビンゴだった。
「実は大量に手に入れたのだが、いらないか? 正直持っていても使い道がないんだ」
「あら、そうなの? なら油袋を二十個お願いするわ。代金は相場の金額でいいわよね」
「金はいらない。そのかわり出来上がった傷薬をいくつか欲しい」
「えぇー、それでいいの?まぁ、あなたがそれでいいのなら構わないけど」
「ぜひ、そうしてくれ」
「わかったわ。なら二、三日後にまた来て。作っておくから」
よし、これで在庫が減った。俺はソフィアに油袋を渡し工房をあとにする。
今日の用事がすべて終わった俺たちは、露店で買い食いをしつつ宿へと帰った。




