42「ギルマスに代わり領主権限でクロムをランクDに上げる。」
たっぷりと睡眠をとったあとは、ギルドへと来ていた。ちょうど朝の忙しい時間が終わったからなのか、ギルド内に人はそんなに残っていない。
受付カウンターも空いているようで、俺は最近馴染みになりつつある受付嬢のもとへ歩を進めた。
「すまないが、少しいいか」
「あら、クロムさん、いらっしゃいませ。ティルちゃんもオールさんも」
笑顔で応対してくれたのは、受付嬢のエリンだ。エリンは俺たちがギルドに登録した時に担当してくれた受付嬢であり、その後は何かと世話になっている。
さりげなくランクに合った依頼を斡旋してくれるので、慣れない俺やティルにはとてもありがたかった。ただオールは少し苦手としているようだ。まぁ、悪気はなかったとはいえ、人前で一部の情報を叫ばれれば仕方ないか。
「ビッグフロッグを討伐したんだが、依頼は受けていないんだ。この場合どうしたらいい?」
「ビッグフロッグ討伐は常設依頼ですので、討伐部位があればこちらで依頼達成として処理します。ビッグフロッグ六匹で銀貨2枚となりますが、よろしいですか?」
「ああ、それで問題ない。ただ解体はしていないからいつも通りで頼む。それとエルダークイーンフロッグとキングフロッグ三匹もあるんだが、そっちも頼めるか」
「はい、かしこまりまし、た? …………え?」
エリンの表情が固まった。何を言われたのか脳内処理が追いついていないようで、もう一度訊いてくる。
「あ、えっと、失礼しました。確認なんですが、いまエルダークイーンフロッグと言いましたか?」
「言ったが、何か問題があるのか?」
「あ、ありますっ、おおありですっ、どこで遭遇したんですかっ、えっと、まずギルマスに報告してから高ランク冒険者を集めて……」
一人バタバタし始めたエリンに俺は首を傾げた。オールはこうなることが予想できていたのか、深いため息をつきカウンターの奥へ走っていこうとしたエリンの首根っこを掴んで止めた。
「少し落ち着け。それでもギルドの受付を預かる者か」
「うぅ、すみません」
「それとエルダークイーンフロッグはすでに討伐している。冒険者を集める必要はない。ただギルマスへの報告は必要だが」
「えっ! 討伐しているっ、もしかしてオールさんですかっ」
期待に満ちた眼差しをオールに向けるエリンだったが、向けられた本人は無言で首を横に振った。
「討伐したのはクロムだ」
「え? えええぇぇーーーー!!」
エリンの驚きの声がギルド内に響き渡った。なんというかもう少し声のボリュームを抑えてほしいと思う。
場所はところ変わってギルド内にある解体倉庫の中。
俺はとりあえずビッグフロッグ二百匹、キングフロッグ三匹、エルダークイーンフロッグをアイテムボックスから取り出した。ビッグフロッグにいたってはまだあったが、あまり出すのもあれなので、いまはこれだけにしておく。
「本当にエルダーだなぁ、しかもキングもいるときたか」
俺が出した実物を見て筋骨隆々の見知らぬおっさんが感心したように頷いていた。このおっさんはエリンが連れてきたのだが、たぶんギルマスなんじゃないかと思う。体つきが戦士のそれだし、ギルマスに報告云々言っていたからだ。
いまここにいるのは、俺、ティル、ルビー、オール、それにエリンに解体で世話になっているクワトじいさん、そしておっさん。
「これはお前が討伐したのか?」
「そうだが? まぁ、キングフロッグは違うが」
「聞けばまだランクFというじゃないか。これは、ふむ、なかなか……」
人を値踏みするような視線にイラッとする。俺たちの情報はエリンから伝えられているんだろうが、こちとらおっさんのことは何も知らねぇんだからな。まず自己紹介するのが筋ってもんだろうが。
「つーか、おっさんは誰なんだよ」
「ああ、すみません、クロムさん、この方はーー」
「そういえば名乗っていなかったな。俺はオルヴァルト·ラシュアット、ラウルス含めこのラシュアット領を治める領主だ。以後よろしくな」
「ーーーーは?」
領主? 領主だとっ、ギルマスだと思っていたらまさかの領主! 絶対執務室で書類仕事しているより、剣持って魔物退治しているほうが似合っているだろ。そんなムキムキの体をしているくせに領主となっ!
だいたいなんで冒険者ギルドに領主がいるんだよ。普通ここはギルマスが出てくるとこだろ。ギルマスどこ行った!!
「えーとですね、ギルマスに報告しにいったらいなくて、そのかわりに領主様がいたので話をしたら俺が対応すると言い出しましてーー」
「ここのギルマスには放浪癖があるからな。度々黙っていなくなる。俺もギルマスに用があってきたんだが、間の悪いことにいなくなったあとでな。なら帰るかと思った矢先、エリンが話を持ってきたんだ。Aランクの魔物が出て討伐されたとあっては確認しないわけにはいかないからな」
あーまー、そういうもんか。Aランクってのはそれだけ強く厄介な魔物につけられるランクなんだろうし。ギルマスいないんなら領主が対応しないとだめか。
ただ一つツッコミたいのが、放浪癖のあるギルマスってどうなんだろう。緊急時の対応とかできなくね?
「ラウルスのギルマスの放浪癖は有名だからな」
オールがぼそりと呟いた。どうやら冒険者の間では当たり前の話らしい。
「というわけで、ギルマスに代わり領主権限でクロムをランクDに上げる。それとティル、だったな。君もランクEに上げよう。適正年齢になるまでは見習い冒険者だが、これだけのビッグフロッグを相手に生き残ったんだ。ランクを上げるのは当然の評価だろう。エリン、二人のギルドカードの更新を頼む」
やった! ティルのランクが上がったぞ。なぜか俺のランクも上がったが(しかも二つ)そんなことはどうでもいい。
ティルの実力が正当に評価されたことがとてもうれしいのだ。
『よかったなご主人! おめでとう!』
ルビーが我がことのように喜んでいる中、ティルの表情は冴えない。ぎゅっと服の裾を握りオルヴァルトを見上げた。




