41「疑うなら、お前ちょっと行ってこい」
「クロムさん、それはなんですか?」
「これは反転鏡の鍵という古代遺物だ。どうやらこの空間はこの鍵の力で「ドゴンッ」……ん?」
何かを殴りつける音が聞こえ、そちらを向くとオールが素手で岩を割っていた。流石【豪腕】のスキル持ち、と言いたいところだが、なぜいま岩を割る必要があるのか。
「何やってるんだ、お前……」
「……いや、あまり聞きなれない言葉が聞こえてきたもので、つい衝動的にな。ーーで、クロム、その鍵がなんだって?」
「あ? だから反転鏡の鍵っていうアーティファクト……」
オールの目からハイライトが消えた。それと同時にものっすごい悲壮感を漂わせ、目元を手で覆っている。
『お、おい、オールの旦那。大丈夫か?』
オールの尋常ではない様子に、流石のルビーも声をかけた。ティルに至ってはどうしたらいいのかわからずオロオロしている。
「ああ。ただアーティファクトなんて名をこんなところで聞くとは思わなかったものだから、少し動揺しただけだ」
いや、少しどころではないよな。つっこみたかったが、空気を読んで黙っておいた。
「こいつといれば常識外のことが一つも二つも三つも四つも起こったって不思議じゃないんだ。諦めることも大事だよな」
なんかオールの奴、こっちを見て言ってるんだが。こっちとしては至って普通のことしかしていないと思う。
普通にスキル(超レアスキル)を使って、普通に魔物(ランクA)を倒して、普通にアイテム(アーティファクト)をゲットしているだけなんだが。えっ、カッコの中を読んでみろ? …………うん、普通じゃないな、これは。
「言っとくが、アーティファクトを持っていたのはエルダークイーンフロッグだからな。俺は倒した戦利品としてもらっただけだ」
「そのアーティファクト持ちの魔物にあたることがありえないんだ」
「くっ、ああ言えばこう言う。しかしアーティファクトがなければ、ここからの脱出ができないんだ。この空間を創ったのはアーティファクトの力だからな」
俺は鑑定で見た説明をオールたちに話した。そして、エルダークイーンフロッグ討伐時に空間が消滅しかけたこと、それを俺の魔力で上書きし、維持していることも話す。
「あ、じゃあ、ここからは出られるんですね」
安心したようにティルが胸を撫で下ろす。この空間に引きずり込まれてからは、戦闘の連続で心休まる暇がなかったからな。
ティルにしてもこんな大量の魔物と戦うなど初めてのことだったろうし、早く帰って休ませよう。
俺は反転鏡の鍵を近くにあった沼の水面へと突き刺した。すると脳裏に10ヶ所ほどの沼や湖の水面の映像が浮かんだ。
どうやらエルダークイーンフロッグが出入口として繋いでいた水面のようで、その中にラーナ湖のものもあったのでそれを選択した。
「よし、繋がった。ここに飛び込めば元の場所へ戻れる」
『本当だろうな』
「疑うなら、お前ちょっと行ってこい」
俺はルビーの首根っこをひっつかみ沼へと放り投げた。大きな水飛沫を上げ、沼へと沈んだルビーは上がってこない。
普通なら溺れたのかと疑うところだが、ルビーの気配が沼の中にはないことを考えると無事戻れたようだ。
「ティル、手を。一緒に飛び込むぞ。オールはついてこいよ」
ティルの手を握ったまま沼へと飛び込んだ。気づいた時には水面に顔が出ていた。だが、辺りは暗く何も見えないため、光魔法で光球を作る。どうやらいつの間にか夜になっていたようだ。
ティルの体を抱え岸まで泳ぎ上がろうとしたところで、目の前に赤い光が二つ浮かんでいた。それは先に戻っていたルビーの両目であり、もう少し光ってくれれば光源になるのにと思ったのは内緒だ。
『ーークロ公、よくもオレっちを沼に落としてくれたなぁ。覚悟はできてんだろうなぁ』
「……うん?」
なんでこいつはこんなに怒ってるんだ? 戻れるかどうか疑うから身を持って教えてやっただけなんだが。これだからヤンキーの考えていることはわからん。
『一発黒こげになれやぁ!!』
ルビーの怒号と共に、暗闇に一つの火柱が上がった。
ルビーの怒りを鎮め(ティルが)オールも無事戻ってきたところで、ここで一晩野宿をした。夜に移動するのは危険だし、いま戻ったところで街の門は開いていないという理由でだ。
そのかわり朝一で移動を開始し、昼前にはラウルスに到着した。
ギルドには行かず宿へと直行し休息をとる。休むことは大事だからな。
宿に帰ると女将とリアラに随分と心配された。どうやらラーナ湖に出発してから二日たっていたらしい。
女将から弁当を受けとる際、日帰りだからと伝えていたからなぁ。それが二日も帰ってこないんじゃ心配もするか。
実際問題、新人冒険者の間ではよくあることのようだ。依頼を受けたはいいが、そのまま帰らないことが。ランクに合った依頼を受けていたとしても不測の事態はいつでも起きるのだから。
とりあえず部屋にいって休もうとしたところで、俺の腹が鳴った。そういえば、朝一移動だったから朝飯食っていないんだった。
この体は擬骸だが、腹はしっかりと減る。さて、どうしたもんかと考えていると、女将が笑いながら朝の余りものでいいならだしてくれると言ってくれた。
俺たちはありがたくいただき、あいさつもそこそこに各自の部屋に戻り睡眠を貪った。ティルはもちろんオールも死んだように眠っていた。流石に疲れが溜まっていたようだ。
俺も眠り、次に目を覚ました時に朝日が昇っていたのには、流石にびっくりしたがな。




