40「もう怖くないだろう?」
「こっちも問題なく終わったようだな」
俺が合流した時、そこにはオール、ティル、ルビーの二人と一匹しか生きているものはいなかった。他はすべて死んでおり、あのキングフロッグたちさえも物言わぬ骸と成り果てている。
極めつけは巨大な黒焦げの山である。何をすればあんなオブジェができあがるのか。ただ、あれを作ったのはティルの魔眼だろうなとは思う。上手く制御できたようで何よりだ。
「見ての通りティルが頑張ってくれた」
「みたいだな」
地面に座りっぱなしのティルから感じる魔力はとても弱々しくなっていた。きっと魔眼を発動させるのにすべての魔力を使ったからだろう。
俺はティルの前で膝を折り、その頭をおもいっきり撫でた。手加減などしない。髪がグシャグシャになっても手を止めず撫で続ける。
だってそうだろう。頑張った子は目一杯褒めなければ。
『ーーおい、そろそろ手を止めろや。ご主人の髪が鳥の巣になるじゃねえか』
ルビーのドスのきいた声に俺は手を止めた。だが、もうすでに立派な鳥の巣ができあがっていたので、手櫛で直してやる。
「クロムさん、私使えました、魔眼」
「……そうか、もう怖くないだろう?」
「はい!」
いままでで一番の笑顔を浮かべるティルに俺も相好を崩した。
「そうだ、ティル、これを飲んでおけ」
俺はアイテムボックスから本日二本目となるマナポーションを取り出しティルに渡した。一気に飲み干したティルの魔力が回復する。
完全にとはいかないが、まぁ、そこは仕方ないだろう。所詮、下級のマナポーションだからな。
魔力が回復したおかげで体が動くようになったのか、ティルはゆっくりと立ち上がった。まだその動きはぎこちなかったが、それも時間がたてばもとに戻るだろう。
『そういやよぉ、クロ公のほうはどうだったんだよ? 一番でけぇ気配の奴、いたんだろ?』
ティルの回復具合に安心したのであろうルビーの意識がこっちを向いた。まぁ、隠すほどのことでもないので、アイテムボックスに入れていたものを取り出す。
「少し手を焼いたが、無事仕留めたぞ」
地面に置かれたエルダークイーンフロッグの死骸を、ルビーは興味深く見ている。ティルもおそるおそるといった感じでルビーの後ろから覗いていた。
ただオールだけが若干顔色を悪くし死骸を凝視していた。これはエルダーについて知っていると見た。
「お前……、それ、まさかエルダー…………」
「察しのとおり、こいつはエルダークイーンフロッグだ。でかい気配の正体はこいつだった」
俺の言葉にオールは何か言いたそうに口を開きかけたが、結局は何も言えず大きなため息だけが吐き出された。
「はぁ、キングフロッグがいてあの卵の山ときたから、気配の主はクイーンフロッグだとあたりをつけていたのだが、なぜお前はそう斜め上の事実を持ってくるんだ」
「いや、持ってくるも何もここにエルダークイーンフロッグがいたのは俺のせいじゃないぞ。変な言いがかりをつけるな」
「だいたい、エルダークイーンフロッグといえばランクAの魔物だ。普通は高ランク冒険者のパーティが討伐するものなんだが……」
知らんがな。オールは呆れた目で見てくるが、殺ってしまったものは仕方ないだろ。どちらにせよ倒さなければここから脱出することもできないし、仲間の命もかかってたんだからな。
だいたいどんな進化をしていようが、たかが蛙ごときにこの俺が負けるか。そう言ってやれば微妙な顔をされた。
「それはそうと、こいつら全部アイテムボックスに入れて持って帰ったほうがいいか? 解体すれば何かしらの素材は取れるんだろ。討伐したって証明にもなるし」
「ーーそうだな、流石にあの消し炭の山は無理だが、他のものは大丈夫だろう。ただすべて集めるとなるとかなりの時間がかかるぞ」
「まぁ、倒しながらかなりの距離を移動したからな。だが、問題はない。スキル【偽装·極】解除! プラス【人化】解除!」
俺は本来の姿である吸血鬼へと戻った。久々の姿に開放感が半端ない。
ついでとばかりにちょっとだけ魔力を解放したらオールに大剣を構えられた。いや、何もしないっつーの。
「さてさて、俺の可愛いイバラたちよ。この空間に散らばっている獲物をすべてここに持ってこい!」
魔法陣が幾重にも展開し、そこから出現したイバラが四方に散っていく。あとは待つだけ。そうすれば自動的にアイテムボックスの中へビッグフロッグが収納されていくのだ。
「そっちのキングフロッグも入れておくぞ」
俺はキングフロッグすべてをアイテムボックスへ収納し、エルダークイーンフロッグも入れた。
それから数分後、ビッグフロッグの収納も終わり、俺は人へと化けスキルも発動させた。擬骸の体へと戻ると、ずっとこちらを警戒していたオールが力を抜くのがわかった。
冒険者としての本能なんだろうが、うざったいんだよな、あれ。そもそも出会った当初こっちはずっと吸血鬼のままだったんだぞ。それでも普通に行動を共にしていたくせに、なぜいまさら警戒する。その辺ちょっと意味不明だ。
「よし回収完了。じゃあ、そろそろ脱出といくか」
『つってもあてはあるのかよ?』
ルビーがもっともらしい疑問をあげる。俺は何も言わずに手に入れた【反転鏡の鍵】を取り出した。




