38「チッ、潔く沈め!」
「【サンダーアロー】!」
先手必勝とばかりに雷の矢を放つ。しかも一本ではなく計十本だ。
様々な角度からエルダークイーンフロッグへと向かうが、すべて本体に届く前に水の壁に弾かれる。防御力もおありですね、なんて思っていると長い舌を放ってきた。
一撃目はギリギリでかわす。やはり目では追えるが、体がついていかない。二撃目、三撃目がくる。つーか、その舌の軌道おかしくないか。なんで途中からカクッと曲がるんだ。
「【幻踏·陽炎】」
舌をかわすために右へ左へ避ける。その際、足は当然大地を踏む。すると踏んだ所から俺の幻影が立ち上るのだ。そう、まるで陽炎のように。
避ければ避けるほど俺の幻影は増えていく。避けられないのなら的を増やせばいい。
『ケエェェェ!』
甲高い鳴き声を上げ、エルダークイーンフロッグは広範囲に向けて水の刃を放った。どうやら増えすぎた俺の姿に癇癪を起こしたらしい。
複数の水の刃に俺の幻影が次々と消えていく。さて、問題。本体の俺は何処にいるでしょうか。
「答えは真上。【剣舞·斬光】!」
光を纏った刃がエルダークイーンフロッグに振りおろされる。それは水の鎧を砕き、体へと届いた。
緑色の体液が噴き出すが、まだ浅い。着地と同時に二撃目を加えようとしたとことで、エルダークイーンフロッグが持つ第三の目が大きく見開かれた。
放出される膨大な魔力に、俺の体は痺れたように動かなくなる。もしかしなくてもあの第三の目は、ただの飾りじゃなくて魔眼の一種だったか。
鑑定にはそこまで詳しく書いていなかったから油断した。ーーまぁ、俺の状態を見ると効果は麻痺のようだし、石化とかじゃないだけよしとしよう。
痺れる体で一人納得していると、間髪入れずにエルダークイーンフロッグが攻撃を仕掛けてきた。心なし攻撃の威力が高い気がするが、斬られた怒りからだろうか。
目の前に迫る水の刃を俺は、さも当然とばかりにショートソードで防いだ。え? 体は痺れて動かないんじゃないかって? そこは気合いでレジストして、ということはなく。
ただ単にスキルとして【各種耐性】があるからだな。アイリスが召喚者特典としてつけたやつ。意外と便利だぞ。まぁ、最初はくらうがすぐに無効化されるし。
「ということで、お前の【目】は効かん。ティルたちを待たせているからな、そろそろ決着といこう」
『ケエェコオォォ!!』
突然エルダークイーンフロッグが鳴いた。先程とは違い、その鳴き声には魔力がこもっており、何かを目覚めさせようとしているようだ。
「なんだ? ーーーー!? これはっ」
遠くの方で微弱ながら凄まじい勢いで魔力反応が増えていく。何が起きているのかわからないが、このままではまずいということはわかる。
「チッ、潔く沈め! 【剣舞·麒麟】!」
刃に雷を纏わせ一気に斬り裂いた。雷が水の鎧を破壊し、体を焼く。
こんがり焼けたところで目から光が失われていき、体は地面に倒れた。魔力反応も消え、どうやら絶命したようだった。
「はぁ、少々、手こずったな。ーーん、これは?」
エルダークイーンフロッグの側に古ぼけた鍵が落ちていた。どこかの家の鍵だと言われれば納得してしまうような普通の鍵(ただし古い)。
しかし考えてもみろ。こんなわけわからん空間に普通の鍵が落ちているか? 答えは否。
しかもこの鍵はエルダークイーンフロッグの口から出てきたようだし。え? なんでわかるかって? そりゃあ、開いた口の側に落ちているし、鍵自体が唾液で濡れているからな。
とりあえず俺は鑑定してみることにした。するとちょっとありえない結果が出た。
【反転鏡の鍵】
古代遺物。鏡の裏に世界を創ることができる。鏡であればどんなものでも入り口とすることが可能。ただし世界の大きさは使用者の魔力によって変わる。
ふむ、アーティファクトときたか。この空間も鍵の力で創ったのだろう。本来なら名の通り鏡を入り口としてその裏に使用者の魔力で世界を創るんだろうが。ここの入り口は水面か。水面もある意味鏡だからな。水鏡とかあるくらいだし。
ただ、なんでそんな大層な物をこの蛙が持っていたかということ。その辺で拾うわけもないしなぞだ。
俺はエルダークイーンフロッグをアイテムボックスへ放り込み、反転鏡の鍵をじっと見た。これも持っていこうかとしばし悩む。
便利そうだしなあ、唾液は水魔法で落とせばいいし、ここで捨て置くにはもったいない気がする。
よし、持っていくかと決めたところで、ぞわりと悪寒がし上空に視線を向けた。するとどんよりとした曇り空が、徐々にほどけていく光景が目に入ってくる。
ヤバッ、この空間が崩れてきている! なぜ? ーーって、あ、この空間を創っていたエルダークイーンフロッグが死んだからか。
俺は急いで反転鏡の鍵を拾い自身の魔力を込めた。空間を創る魔力をエルダークイーンフロッグから俺の魔力へと上書きする。
さすがはアーティファクト、けっこう魔力を消費させられた。この空間を創り維持していたエルダークイーンフロッグは、それだけの魔力を持っていたということか。
魔力の上書きが終わり、安定した空間に俺はホッと息を吐いた。ただ手の中で感じる唾液のぬるぬる感にちょっと泣きそうになってくる。
ここでのことが終わり、ティルたちと合流しなければと移動しようとした俺の目の前で、大きな火柱が上がった。距離は随分と離れているようだったが、その尋常でない大きさに呆気にとられる。
ただその火柱から感じる魔力が、よく知るものだったため、俺の口角は自然と上がっていた。




