37「ポンポンとうぜえ!!」
オールがキングフロッグたちを相手にしている中、ティルとルビーもビッグフロッグ相手に戦いを繰り広げていた。
「【ファイヤーボール】!」
ティルが杖片手に叫べば火球がビッグフロッグたちを燃やしていく。杖がなかった時の鬱憤を晴らすようにその威力は高い。
詠唱中の背中はルビーが守ることで死角はなくなっていた。
『ご主人! 上だ!』
しかし数が多いため捌ききれず、ティルへの接近を許してしまう。
ルビーの叫びにティルは自分に向かってくるビッグフロッグを睨みつけ、その杖を振り上げた。
「ていやぁっ」
気の抜けるようなかけ声だが、本人はいたって真面目だ。その証拠にティルが振るった杖の一撃を受けてビッグフロッグが吹っ飛ぶ。
続けて第二弾が襲いかかるが、ティルは怯まず杖を振るう。その動きは正確でとても魔法職とは思えない。
クロムはティルに杖を使った接近戦の戦い方も教えていた。魔法職は魔力を使いきれば途端に弱体化する。ポーションで回復する手段もあるが、それもずっとは使えない。ポーションも飲みすぎれば中毒を起こす可能性があるからだ。
魔力切れを起こしても戦えるように、そして生き残れるように。クロムはできるだけの稽古をつけ、ティルもそれを一生懸命吸収していった。
「数、多すぎですっ、【ファイヤーボール】!」
やっとビッグフロッグから距離がとれたティルは魔法を放つ。数匹が炎に包まれ絶命するとピコンと頭の中で音がした。
ーー規定のレベルに達したので、火魔法【フレアサークル】が使用可能になりました。
世界の声が聞こえた。ティルはすかさず使用可能になったばかりの魔法を唱える。
「【フレアサークル】!」
指定した位置に炎の渦が出現した。それは瞬く間に拡大し、その範囲内にいたビッグフロッグすべてを焼き尽くしていく。
自分が起こした現象にティルは驚きを隠せなかった。確かに【フレアサークル】は中級魔法だが、こんなにすごいとは思わなかったのだ。初級と中級ではやはり威力が違う。
(魔力もけっこう消費します)
僅かに感じる倦怠感にティルは眉をひそめた。
『ご主人! さっきの魔法、すげえじゃねえかっ』
「でも魔力消費が大きいです。乱発はできないかも」
ティル自身、魔力保有量が多いわけではない。一般の人よりちょっと多いかな、といった感じであり、魔法職としては並といったところだ。
『それでもすげえぜ! この調子でクロ公が戻ってくる前に全滅しちまおうぜ!』
ヒャッハーッ、と某世紀末マンガのヤンキーのような雄叫びを上げ、ルビーはその爪を振るう。ティルもまだまだいるビッグフロッグの群れを見据え、杖を構えた。
オールたちと別れてから俺は気配に向かってずっと走り続けていた。途中何度かビッグフロッグが襲いかかってきたが、適当にあしらい進む。
「そろそろ近づいてきたと思うんだが……」
だんだんと強くなってくる気配に、俺は一旦足を止めた。正確な居場所を特定しようと意識を集中させた瞬間、急激に周囲の魔力濃度が上がる。
ビキリと足下の地面が割れ、水が大量に噴き出した。しかもその水がまるで生き物のように、俺に襲いかかってきたではないか。
俺はその場から離脱するが、地面が次々と割れていき、同じような水の柱が何本も出現する。そのすべてが襲いかかってくるとはなんとも質が悪い。
しばらく避け続けていたが、一向に終わらないこの鬼ごっこにいい加減飽きてきた。ここは一気に吹き飛ばしてしまおう。
「【ライトニングゲイル】!」
俺を中心に雷の嵐が四方に放たれる。水の柱は呆気なく吹き飛び、辺り一面は更地となった。
見通しの良くなった場所で、俺はある一点を見つめていた。そこには何もないが、気配は確かにある。
「【サンダーアロー】」
出てこい、なんてことは言わない。相手にそれを言っても無駄だし、さっさと攻撃したほうが手っ取り早い。
俺の放った雷の矢は途中で水の球と激突した。相殺する形で消えていく魔法。
水の球が雷の熱で蒸発し、水蒸気が立ち上る。そして、その水蒸気の奥に一匹のビッグフロッグがいた。
「お前か? ここのボスは」
俺が問いかければ、そいつは『ゲコ』と一鳴きし水の刃を放ってきた。それをかわし鑑定を発動させる。
普通ビッグフロッグは魔法を使えない。なのに目の前のこいつは簡単に使ってみせた。姿も大きさもビッグフロッグと若干違うようだし、キングフロッグのように上位種なのかもしれない。
と、思って鑑定した結果がこれだ。
【エルダークイーンフロッグ】 ランクA
長い年月を生きたクイーンフロッグが特殊進化した。大きさはビッグフロッグより少し大きいくらいだが、その内に秘める魔力は膨大である。水魔法を操り素早い。額に第三の目がある。
なんだかすごい結果がでたな。名前にエルダーとか入っているし、ランクはAだし。はて、Aとはどのくらいの強さなんだろうか。
エルダークイーンフロッグの動向を伺いつつ、そんなことを考えていると目の前からエルダークイーンフロッグの姿が消えた。慌てず背後を振り返り、ショートソードを交差してガードの態勢をとると、ガキリと刃に硬質なものがぶつかる。
目の前にはエルダークイーンフロッグ。しかもその体には水の鎧を纏い、水かきを被う部分は鉤爪のように鋭く伸びている。
「そうくるかっ」
鑑定の説明からてっきり魔法主体でくると思っていたが接近戦とは。いや、素早さを活かすなら理に叶っているのか。
エルダークイーンフロッグは体を回転させながら地面を跳び跳ね始めた。宙に跳び上がった際には、水の壁を作り出しそこで体をバウンドさせ地面に戻る。
そうすることで縦横無尽の動きを作り出し、俺へと攻撃を仕掛けてきた。
時には避け、時には刃で受け流すが、スピードが速くだんだんと捌ききれなくなってくる。体に小さい傷が増えていく中、俺はちょうど真正面に跳んできたエルダークイーンフロッグの体を力の限り蹴りつけた。
「ポンポンとうぜえ!!」
足に魔力を纏い蹴ったため、エルダークイーンフロッグはそりゃあもう勢いよく飛んだ。ただ、また宙に水の壁(柔軟性のあるもの)を出現させ、自身の体を受け止めていたが。
なんなく地面に降り立ったエルダークイーンフロッグに俺は舌打ちをした。
なるほど、これがAの実力か。かなりの強さだが、俺にしてみたらどうということはない。と、思っていたんだが。
いつもならあの程度の速さについていくのは造作もないことだ。その証拠に目では追えていた。だが、体の動きが追いつかない。
目の前に迫るエルダークイーンフロッグの動きは見えていても、迎撃態勢が間に合わない。まるで体だけが弱体化してしまったように。
「ーーん? 弱体化? そういえばいまの俺の体は……」
そうだ。いま俺は【偽装·極】のスキルを発動していて体は擬骸になっているんだった。確かアイリスは擬骸の能力は俺が人に化けた時の能力の半分だと言っていた。俺が人に化けると本来の能力が半分になってしまう。さらにその半分だから四分の一か。
そうするとけっこう弱くなっているんだな。うーん、スキルを解除するか、このままでいくか。……よし、このままでいこう。
どっちにしろ擬骸での戦闘は慣れる必要があるしな。いままでの相手がほぼランクFの弱小魔物だったし、修行の意味も兼ねていっちょやりますか。




