36「さあ、お前は俺を殺してくれるか?」
ビッグフロッグの気配に向かって移動すること五分、すぐに奴らとエンカウントできた。向かってくるものすべてを相手にするつもりはなく、進むのに邪魔な奴らだけを切り伏せていく。
ティルも後方から魔法で援護してくれるので、移動も順調だ。
「!?」
俺たちの頭上に影が差した。俺はティルを抱えその場を離脱する。
直後、轟音と地響きが鳴り、そこには巨大な塊が三つ転がっていた。毒々しい色合いを持つそれらはモゾモゾと動きだし、その全貌があきらかになる。
「……でかい蛙?」
大きさを無視すればその姿はビッグフロッグと変わらなかった。ただし、頭には二本の角が生えており、そこだけがビッグフロッグとは違う。
俺が感じた三つの気配は確実にこいつらなので、ビッグフロッグの上位種か何かなのだと思う。一番でかい気配がラスボスとしたらこいつらは中ボスといったところか。
「クロム、こいつらは【キングフロッグ】。ランクCでビッグフロッグが高濃度の魔素を取り込み進化したものだ」
オールが大剣片手に冷静に言ってくる。うん、説明的なセリフをありがとう。
俺はティルを降ろし、鑑定を発動させた。概ねオールが言ったことと同じ説明が書かれている。ただ最後の一文に『その巨体から繰り出されるボディプレスは強力』とあった。
なるほど。さっきの動きはボディプレスだったのか。確かに一発くらったらヤバイだろうな。ほれ、逃げ遅れたビッグフロッグたちが奴の腹の下で煎餅状態になっている。これが本当の轢きガエ……んん、失礼。
「ビッグフロッグたちも集まってきているし、とりあえずこいつらを片付けるか」
ランクCがどれほどのものか知らないが、俺とオールだったらすぐに終わるだろう。ティルには周りのビッグフロッグたちを牽制してもらえばいい。
ざっくりとそう考えていると一匹のキングフロッグが野太い鳴き声と共に何かを放ってきた。それはぬめぬめとした太い舌で、俺は迎撃の体勢をとる。
俺が舌を斬り裂くよりも速く、間に割って入ってきたオールがその大剣で舌を斬り飛ばした。斬られた舌が地面にバウンドする中、オールは流れるような動きでキングフロッグに接近し一撃を与える。
だが、そこは曲がりなりにもランクC。傷をつけはしたが、堪えた様子はなくけろりとしている。
「こいつらの相手は俺がしよう。クロム、お前は先に行け」
「随分とやる気だな? まさか今度こそ死ねると期待しているのか」
「そんなわけあるか。俺一人でも勝機があるから言っているだけだ」
「……なら、お言葉に甘えるかな」
俺はあっさりとオールの進言を承諾した。迷いもなく即決だ。
「ーーというわけだ。ティル、俺はこの先へ進む。お前はここに残ってビッグフロッグの相手をしてもらいたい。できるか?」
「まかせてください! ルビーもいますし、クロムさんは安心して進んでください」
「わかった。だがなティル、もしもの時は【魔眼】を使うことを躊躇するな。大丈夫、ルビーが制御部分を担ってくれる。だから恐れるな」
この空間にビッグフロッグがどれだけの数いるのかわからないが、どんどん集まってきているのは確かだ。そうするといくら低ランクの魔物でも捌くのは難しくなってくるし、体力も魔力ももたないだろう。
「マナポーションは持っているな? 魔眼を使う時は飲むんだ」
いまのティルの魔力量では魔眼を一回使うのが限度だ。だが、それで充分。
ティルの魔眼は見たものをすべて燃やしてしまう類いのもの。つまりは視界にさえ入れてしまえばこっちのものだ。
俺の言葉にティルは小さく頷く。その顔色が若干悪いのは気のせいではないだろう。きっと暴走した時のことを思い出しているのだ。
だが、それには気づかないふりをし、俺はティルの頭を一撫でした。
「必ず戻るから踏ん張れよ」
背後でオールとキングフロッグたちの戦闘音が聞こえる。俺は近づいてきていたビッグフロッグたちを斬り伏せ、奥にいる気配に向かって駆け出した。
『ゲエェゴオォッ!!』
キングフロッグの舌がオールに向かって放たれる。それも三匹から同時にだ。
普通は絡まるだろう舌たちは、絶妙な間隔で互いに絡まることなくオールの姿を追う。
オールは大剣の背で軌道をずらしたり、避けたりと舌の追撃から逃れていた。最初に斬った舌は驚異の再生力でまたたくまに生えてきてしまい、結局は三本同時に相手をしていた。
「ーーりゃあ!!」
気合い一つ、オールは大剣を操り舌を一本斬り飛ばした。そのままその舌の持ち主であるキングフロッグへと肉薄し、刃を叩き込む。
だが、分厚い皮と脂肪に邪魔され、致命傷を与えるには至らなかった。
キングフロッグの厄介なところはこの無駄に厚い皮と脂肪だ。生半可な武器では傷はつけられても決定打は与えられない。剣との相性は最悪だった。
「面倒くさい相手だ」
ぼそりと呟き、オールは大剣に自身の魔力を流し始めた。オールの魔力に反応し、大剣の柄の部分に彫られていた魔法陣が淡く光を放つ。
するとどうだろうか。刃が炎に包まれ見事な炎の大剣が出来上がった。
オールはそれを確認し、もう一度キングフロッグに斬りかかった。今度はさっきよりも深い傷を負わせることができた。それどころか斬り口は火で炙ったように焼き爛れている。
「これでそうそう再生はできないだろう」
皮膚の焼ける痛みで暴れるキングフロッグを冷めた目で見つめたまま、オールは体を半身ずらした。その横を別のキングフロッグの舌が通りすぎていき、容赦なく斬り落とす。
それからすぐにその場から移動すると、轟音と共に三匹目のキングフロッグが降ってきた。お得意のボディプレスだ。
しかしボディプレスは一度落ちてしまえば動けるようになるまでしばしの時間を有する。オールはちょうどいいとばかりに、動けないキングフロッグの体を駆け登り、その頭から大きく飛び上がった。
狙うは最初に傷を負わせたキングフロッグ。
「【落墜·重】!」
落下分の勢いも加え、オールは大剣をキングフロッグの頭蓋へと叩き込んだ。刃が炎を纏っていたこともあり、分厚い皮も脂肪も関係なく真っ二つになる。
一匹目を絶命させ、オールは次の標的を見据えた。
「さあ、お前は俺を殺してくれるか?」
その目の奥にはどこまでも暗い光が宿っていた。




