31「自分で決めることも大事だからな」
その日もオールはまだ帰ってこない。なので、ギルドで行われる冒険者見習いたちのための講習会にティルと共に参加していた。
この講習会、見習いはタダだが、他の者は銀貨一枚の受講料を払わなければならない。しかしただの講習会とバカにすることなかれ。意外にも講習内容はしっかりしており、冒険者の基礎をみっちりと教えてくれる。これで銀貨一枚はむしろ安いと思う。
今日の講習内容は、採取依頼の中でもっとも多い薬草類についてだ。ランクが低いとほぼお世話になるのがこの採取依頼。特に薬草採取は常時依頼になっているほど需要があるものだ。誰でもできる依頼。できるからこそ知識が重要になってくる。
薬草は森であればどこにでも生えている。生えてはいるが、もしそこに何らかの規則性があるのならば。例えば水辺の側だとより多く生えているとか、陽の当たらないじめっとした日陰に生えているほうが品質が良いだとか。ちょっとした知識があれば、探す手間もはぶけるし、他より品質の良い物を納品できるというわけだ。いかに知識が重要なのかしみじみとわかるものだ。
まぁ、さっきから長々と語ってみたが、これすべていま目の前で説明している講師の女性の言葉だったりする。
俺はいつも適当に薬草を摘んでいるため、品質など考えたことがなかった。近くに薬草がないならコウモリ(使い魔)を飛ばして探させればいいと思っていたクチなので。これからはちょっと品質とか気にして採取してみよう。
この講習会はなかなか有意義なものであった。
「ティル、どうだった?」
「すごい勉強になりました。次もあるなら受けてみたいです」
「次、か……」
冒険者としての基礎はオールが教えていたが、こういう場で学ぶのも意外と刺激があっていいのかもしれない。ずっと死んだ魚の目のおっさんとマンツーマンでの指導ではティルが可哀想だし。
「なら、次にいつ講習会があるのか受付に訊いて帰るか」
「はい!」
善は急げと部屋を出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「こんにちは、私の講義はどうだったかしら?」
そこにはいままで講義をしていた講師の女性がいた。女性は俺たちを見てにっこりと微笑む。
「えっと、すごいわかりやすくて勉強になりました」
「そう、よかった。講師を引き受けるのは初めてだからちゃんとできたか気になっちゃて。ごめんなさい、いきなり話しかけたりして」
「いいえ大丈夫です。えっと……」
「あら、やだ、自己紹介がまだだったわね。私はこの街で錬金術師をしているソフィアよ。これでも元冒険者でね、まぁ、だからこの講師の話がきたんだけど……」
ほぉ、錬金術師。確か錬成陣を用いてポーション類などいろいろ作成する者だな。この街にもいくつか工房があったが、さて、どの工房の主だろう。
俺がそんなことを考えている間に二人の会話は続いていく。ティルも珍しく饒舌だ。このソフィアという女性、よほど話し方が上手いのだろう。
「そういえば、あなたたちの名前をまだ聞いていなかったわ」
「私はティルといいます。こっちは従魔のルビー」
「クロムだ」
「そう、よろしくね。あなたたちこの講習会に参加したということは冒険者になりたてなのかしら?」
「そうだな、なってまだ一月たっていない。ティルは見習いだしな」
見習いといっても活動内容は駆け出し冒険者に匹敵する。見習いでも後見人がいれば普通にFランクの依頼を受けられるからな。まぁ、Fランクでも農作物の収穫の手伝いといった見習い専用の依頼もあるわけだが。
「そうなの……、でもティルちゃんはこの講習会に今日初めて参加したんじゃない? 私、講師は今日が初めてだったけど講義の参考にと他の講習会にも出ていたから。そこでティルちゃんの姿は見かけなかったし、もしかしたら後見人の方がいるの?」
「はい、います」
「あら、よかったわね。後見人がいるといないとではやっぱり違うから。もしよかったらどんな後見人の方なのか教えてくれないかしら」
ソフィアのお願いにティルは俺のほうへ視線を向けた。オールのことを言っていいのかわからず、俺に判断を委ねたらしい。
俺としてはさりげなく後見人の話を出してきたソフィアに妙な違和感を抱いた。どうしていま後見人のこと訊く必要があるのか。もしかしたら声をかけてきたのもそっちが目当てなのかもしれない。
「すまないが、あいつは目立つのが好きではなくてな、できればその辺りを考慮してもらうと助かる」
「あ、私ったらごめんなさいっ、気になったことは調べないと気がすまない質で」
「そうか、今後は気をつけてもらえればいい」
とりあえずいまは穏便にすませておくとしよう。オールにも騒ぎを起こすなと言われているしな。
ああ、こういう時、魔眼が使えれば楽なのにと思う。暗示をかければソフィアが何を目的とし、声をかけてきたのかわかるのに。さすがに擬骸では使えない。
「ーーそうだ、あなたたち私の依頼を受けてくれないかしら」
「依頼?」
「ええ、特定の冒険者に依頼を出すことを指名依頼というんだけど、あなたたちに受けてもらいたいのよ」
「なぜ? こう言ってはなんだが、俺たちは今日顔を合わせたばかりだろう。俺たちの実力もわからないのに簡単に指名など出していいのか?」
「それは大丈夫。依頼のランク自体は低いし、あなたたち結構採取依頼をこなしているでしょう? 最近薬草が定期的に入ってきていてとても助かっているの。それに失礼なことしちゃったしお詫びだと思って」
まぁ、筋は通っているな。だが、受けるかは別だ。ここには俺だけではなくティルもいる。ティルにだって選ぶ権利はあるのだ。
「と、いうことだが、ティルはどうしたい?」
「え? 私ですか?」
自分にふられるとは思っていなかったのだろう。ずいぶんと驚いている。
「ああ、そうだ。自分で決めることも大事だからな」
俺が受けると言ったらきっとティルは何も言わず共に受けるのだろう。だが、それではだめなのだ。依頼を吟味し自分に合ったものを選ぶ。とても大事なことだ。
「……あの、どんな依頼内容なんでしょうか」
お、訊いたな。ソフィアは依頼を受けてほしいとは言ったが、その内容は何も言っていない。そこはきちんと訊いておかなければいけないところだ。
「あら、そういえば言ってなかったわね。内容は【アクネル草】という薬草の採取よ。アクネル草っていうのは水辺に生える薬草でね、火傷に効く軟膏を作るのに必要なの」
「水辺、ですか……」
「そう、この辺りだと【ラーナ湖】という湖付近に生えていたと思うわ」
ラーナ湖、確かここからそう遠くない場所にある湖だったな。それなら日帰りも可能か。
「ティル、どうする?」
「えっと……、その、受けてみたいです」
小さな声だったが、確かに聞こえた。俺を見上げる瞳は不安そうに揺れていたが、それでもティルが自分で考えてだした答え。
俺は満足げに頷き、ソフィアに向き直った。
「だ、そうだ。その依頼受けようと思う」
「ありがとう。なら、さっそく受付で依頼を発行してもらうわ」
ソフィアと共に受付まで行き依頼を受けた。期限はないそうなので、オールが帰ってくるのを待って久しぶりに三人で行動するのもいいだろう。




