29「クロムさん、解体しなくていいんですか?」
それから数日、フウマたちはアルベルトの元で問題なく働いていた。人の言葉が喋れることも意志疎通がスムーズにできると二人には無事受け入れられた。
フウマには三日に一度は念話で連絡を入れるよう言っておいた。何もないとは思うが、報連相は大事だからな。
さて、これで畑のほうは大丈夫だろう。そして俺たちはというと、ここ何日かはラウルスの近くにある森で採取依頼と討伐依頼を繰り返していた。
まぁ、討伐依頼といってもホーンラビットやウルフといったランクの低い魔物が主なのだが。ただティルの戦闘訓練にはうってつけなので、何度も受けていた。
俺たちが討伐依頼をこなしている中、オールもBランクの依頼を受けていた。さすがにFランクの依頼に何度も同行するのは些か外聞が悪かったのだ。
Fランクの俺たちの依頼にBランクのオールが常に同行することで、俺たちの依頼をすべてオールがこなしていると陰口を叩かれた。しかも聞こえるように。
俺とオールは他の奴に何を言われようが気にしないのだが、ティルがひどく気にしていた。ティルに悲しい顔をさせるわけにはいかない。俺はオールと話し合い、各々のランクにあった依頼を受けようということになった。たまにティルの訓練を見るため同じ依頼を受けるが、それ以外は別々にすると。
そうすれば陰口を叩く者もいなくなるだろう。
ちなみに陰口を叩いた第一号には、しっかりと灸を据えておいた。闇夜の中、証拠を残さずしっかりとな。参加者は俺とルビーである。オールは参加しなかったが、何も言わなかったので、まぁ、そういうことなのだろう。
そんなこんなで今日も朝からウルフ狩りに精を出していた。
「【ファイヤーボール】!」
ティルの放った火球がウルフに直撃する。ただし一匹だけに。
向かってきていたのは二匹。その内の一匹は倒れ、残り一匹は狙いが定まらないようジグザグに移動している。
「ルビー!」
『おうよ!』
ウルフがティルとの距離を詰める中、ルビーがその間に躍り出た。炎を纏った爪を振りかざしウルフの命を刈り取る。
ふむ、ルビーとの連携もいい感じだな。ティルも戦闘に馴れてきたようで、魔法の発動がスムーズになってきている。この調子でいけば無詠唱で魔法を発動させることもできるようになるだろう。
俺はティルの成長に頷きながら、近くに生えていた薬草を摘んで、持っていた布袋に入れた。
ちなみに俺が受けた依頼は、ポーションの材料になる薬草の採取。ティルが受けた依頼は、ウルフの討伐。
普通逆じゃないかとつっこまれそうだが、ティルにはなるべく戦闘経験を積んでほしかったので、討伐系の依頼を優先して受けてもらっていた。もちろんティルを一人で行かせるわけもなく俺も同行している。ただ戦闘はティルに任せるので、暇潰しに採取依頼を受けたというわけだ。
「よし、薬草はこれくらいでいいか。ーーティル、ウルフはあと何匹狩れば終わりだ?」
「えっと、いま二匹倒したので、残り三匹です」
「そうか。なら、もう少しこの辺りを探索してみるか」
ウルフは常時討伐依頼が出ているくらいどこにでもいる魔物らしい。戦闘能力もそう高くなく、駆け出しの冒険者にとってはもってこいの相手のようだった。もちろん戦闘経験を積むにもちょうどいい。
ウルフの討伐依頼を受ければ、賞金も手に入り経験値も手に入る。まさに一石二鳥なのだ。
俺はティルたちが倒したウルフをアイテムボックスへと入れた。この場で解体はしない。というかぶっちゃけするのが面倒くさい。
魔物がさまざまな素材になるのはわかるし、討伐部位が必要なのもわかる。だが、面倒なものは面倒なのだ。
だいたい毛皮を傷つけるなとかいちいちうるさいと思う。だったら狩った魔物をアイテムボックスに入れ、ギルドに持ち込んだほうがいい。
「あれ? クロムさん、解体しなくていいんですか?」
不思議そうにティルが訊いてきた。解体する気満々だったようで、解体用のナイフを持ってスタンバっている。
「いや、残りのウルフを片付けてからにしよう。それからでも遅くはない」
「わかりました」
俺の言葉にティルは素直にナイフをしまった。
俺は解体をしないが、ティルには毎回狩った魔物を一、二匹解体してもらっていた。オールとも話したが、ティルが将来独り立ちした時に解体の技術はあったほうがいい。その時、一人で活動しているのか、仲間と共にいるのかはわからないが、そこには確実に俺とオールはいないのだから。
解体のやり方もだが、冒険者に必要な知識はすべて教えるつもりだった。主にオールが。いや、ほら、俺は異世界の魔物だし、そういうのはまったくわからないので。
もちろん俺も教えられることは教えるし、それに俺が側についている間は、たくさんの幸せを感じてもらわないと困る。俺と出逢って良かったと思ってもらえるように。
「ティル、奥へ行ってみよう」
俺が声をかければティルは頷き、ルビーと共に先を歩き始めた。その後ろ姿を俺はゆっくりとした足取りで追いかけた。




