28「二人ともこいつらを労働力として雇わないか?」
朝食後、ティルにも事情を説明し、俺は二人を引き連れて朝方までいた森に戻ってきていた。ゴブリンたちには念話で連絡し、待機してもらっていたのだが。
「ん?」
目の前に並ぶのは四匹のゴブリンだったはずだ。なのになぜか体が大きくなり、姿も人間に近くなっている。だが、確かに俺が眷属にしたゴブリンたちだった。その証拠に主従の繋がりが感じられるのだから。
ただ一つだけいいだろうか。ゴブリンメイジ、いやフウマの姿、ずいぶんと整っていないか。性格だけじゃなく容姿もイケゴブに近づいているとはこれいかに。
「クロム、お前の話ではゴブリンだったはずだよな?」
「そうだが」
「こいつらはホブゴブリンだ」
「ふむ?」
ホブゴブリン? どういうことだ? 別れる前は確かにゴブリンだったんだが。
鑑定で見てみると種族名が確かにホブゴブリンとなっていた。オールが言ったとおりである。
「フウマ、どういうことか説明できるか」
鑑定画面を睨んだままフウマに話しかけた。こういうことは当事者に聞くのが一番だからな。
『主と別れたあと突然進化が始まったのだ。最初はオレが。次にこいつらが。進化の理由についてはわからぬが、もしかしたら主の名付けと眷属になったことが関係しているのやもしれぬ』
「お前たちの肉体を再構築したのは、俺の魔力だからな。俺の魔力にみあうように肉体が進化したか」
別に進化するのが悪いというわけではない。むしろ進化したことで外見が人間に近づいたのは嬉しい誤算だ。これでより魔物らしい外見になっていたら、ちょっとアルベルトたちに引き合わせるのは躊躇する。
あとは服を用意しよう。さすがにその外見で腰布一枚は目に余る。
フウマたちの服をどこで調達しようか考えていると、ティルがオールにフウマたちについて質問している声が聞こえてきた。
「あの、ホブゴブリンってルビーのように私たちの言葉が話せるんですか?」
「いや、普通は話せないはずなんだが……」
『あいつらからクロ公と同じ魔力を感じるぜ。どうせクロ公が何かをしたんだろ』
「ーーああ、確か眷属にしたと言っていたな」
会話を聞いていてフウマたちの言葉をティルたちも理解していることに、俺は内心驚いていた。
俺だけならわかる。スキル異世界言語があるからだ。だが、ティルたちにそのスキルはない。普通ならわかるはずないのだ。
「ティル、オール、こいつが言っていた言葉がわかるのか?」
「はい、わかります」
「不本意ながらな。なんだ、お前が何かしたんじゃないのか」
「お前は人のことをなんだと思っているんだ」
『トラブルメーカーじゃね?』
「お前にだけは言われたくないわっ」
『主よ、少しいいか。オレたちが人間の言葉を話せるのは進化と同じで主の眷属になったからだと思われる。言語にまで主の恩恵が及んでいると見た』
「なるほど、そういう……」
しかしフウマのやつ進化して知能が上がったんじゃないだろうか。考察が鋭い。ヤンキー口調のルビーよりよっぽど賢く見える。
「それで、こいつらを従魔にして、お前たちが依頼を受けた農家の手伝いをさせると」
「そうだ。いけると思うか?」
俺の問いかけにオールはフウマたちを見回し、一つ息を吐いた。
「ーーまぁ、お前が手綱を握るならいいんじゃないか。そこのホブゴブリンなんて賢そうだし」
「そうか。なら問題ないな。ーーああ、それとフウマはホブゴブリンじゃなくてホブゴブリンメイジだ」
俺が訂正してやれば、オールの動きが止まったが、まぁ、気にすることでもないだろう。
とりあえずオールの許可がでたので、フウマたちを連れ冒険者ギルドを訪れた。いきなりホブゴブリン四匹も連れていったため、一騒動あったが、そこは割愛しよう。ただオールが騒動を収めた。つまりはそういうことだ。
受付でタグをもらい(オールは持っていなかった)そのまま従魔登録をした。依頼完了の報告もし、アルベルトたちのもとへ向かう。ちなみに四ゴブの服は古着屋で購入した。
二日続けて訪れた俺たちに驚きつつも、二人は快く迎え入れてくれた。ちょうど休憩中だったらしい。
「まぁまぁ、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
依頼は終了したのにまたやってきた俺たちをユフィは不思議そうに見ている。
「ちょっと二人に話を持ってきたんだ」
「話?」
「ああ、二人ともこいつらを労働力として雇わないか?」
俺は後ろで待機させていたフウマたちを呼び、アルベルトたちに会わせた。いきなり現れたホブゴブリン四匹に二人は驚いた様子だったが、騒いだりはしなかった。
「まぁ、この子たちを? どうして?」
「昨日働いてわかったんだが、この畑すべてを二人だけで管理するのは些か無理がある。体が若く健康であったならできなくはないかもしれないが、年老いた二人では到底無理だろう。ギルドに手伝いの依頼を出してもいつ人が来るかわからず、来るまでは変わらず二人だけだ」
「それはそうだけど……」
「ギルドでいつ来るかわからない人手を待つよりも、毎日継続して畑を手伝ってくれる存在がいたほうがいい。そう思って連れてきた。こいつらは魔物だが、がっつり俺の支配下に置いてあるし、従魔の証もつけている。報酬は採れた野菜でいいと言っているし、条件としてはいいはずだ」
俺の主張にアルベルトたちは互いに顔を見合わせた。
「クロム君の申し出は嬉しいけど、どうして私たちにそこまでしてくれるんだい?」
「もちろんアルベルトたちの作ったマトの実が美味かったからだ! これからも美味いマトの実を作ってほしい。だが、いまのままでは畑の管理など十分にはできないだろう? なら人手を増やして二人には万全の体制でマトの実の育成に取り組んでほしいじゃないか!」
すべてはマトの実のために。そのためなら人手不足だろうがなんだろうが解決してやろう!
「でも私たちのために大事な戦力を割くのはなんだか申し訳ないわ」
はて? 戦力? ユフィは何を言っているのか。その視線が四ゴブに向いていることから、どうやら四ゴブのことを戦闘用従魔だと思っているようだ。まぁ、だいたい従魔ってのは戦闘で使うものかもしれないが。
「ユフィ、気にすることはない。こいつらはここを手伝わせるために従魔にしたんだ。むしろ雇ってもらわないとこいつらの行き先がなくなる。まぁ、魔物が嫌じゃなければ、だが」
「そこは大丈夫よ。ーーねえ、あなた、クロム君の言葉に甘えちゃいましょうか」
「そうだね、私たちの体と野菜をこんなにも想ってくれているんだ。ーークロム君、君の従魔を借りてもいいかな」
「!! ああ! こいつらはしっかり働くぞっ、それこそ畑だけじゃなく柵の修繕、害獣退治なんかもできる。一応こいつらのリーダーはフウマだ」
『これからよろしく頼む。アルベルト殿、ユフィ殿』
俺の言葉に続きフウマが挨拶をする。他三ゴブも揃って頭を下げていた。
「俺も時々は見に来るが、仕事の指示はフウマに出してくれれば……、どうした、二人とも?」
なぜかアルベルトもユフィも固まっていた。その視線はフウマたちに固定されている。
「「人の言葉を喋った!!」」
二人の叫びが重なった。




