26「お前たちの返答はいかにっ!」
その結果、やはりこのゴブリンメイジは変わり者だった。
ゴブリンメイジと他三匹は群れから追放された身らしい。正確にはゴブリン三匹が、だ。力も弱く食料もまともに獲れない、気も弱いと、群れになんの貢献もできなくあえなく追放となったとのこと。
だが、それを不憫に思ったゴブリンメイジは、自分も群れを抜けこの三匹を保護した。それからは木の実の探し方や比較的弱い獲物の捕り方を教えつつ、森を移動していたのだ。
それでもいつも弱い獲物がいるわけでもなく、木の実があるとも限らない。だからゴブリンメイジは人間が作った作物に手を出すことを考えた。ただし、作物は食べる分だけを。畑を囲む柵は魔法で派手に壊し、まるで大型の獣が壊したように見せかけたという。
頭がキレるというかなんというか。だいたい追放された三匹を保護するというのが、ゴブリンとしてありえない。そう言ったところーー。
『ゴブリンといえどすべてが同一個体ではない。落ちこぼれる者も出るだろう。切り捨てるのは簡単だ。だがその者たちとて生きているのだ。できることを模索し指導してやることも必要だと考えたまで』
という答えが返ってきた。
「しかし畑の野菜はなぜ食べる分だけなんだ? 大型の獣の仕業という設定だったなら、もっと盗っても良かったんじゃないのか」
『……こちらも生きるためとはいえ、人間が丹精こめて作った作物を盗んだことにはかわりない。だから必要最低限の分しか盗らないと決めていた。自己満足かもしれないが』
……なんだ、このイケゴブ(イケメンゴブリンの略)、考えが男前すぎる。ゴブリンにしておくのはもったいない。
殺す気はとうに失せていた。畑を荒らしたことは許さないが、殺す以外で償わせる方法はないだろうか。
そういえば畑仕事をするアルベルトたちは少し辛そうに見えたな。やはり年を取るにつれて肉体労働は堪えるのだろう。
ーーそうだ、俺がこいつを従魔にしたということにして、畑を手伝わせるというのはどうだ。報酬に採れた野菜を貰えれば食べるのには困らない。
こいつの性格ならまじめにやってくれそうだし、案外いいんじゃないか。
自分の考えに自画自賛していると、遠くから慌ただしい足音が聞こえてきた。
『た、大将~っ、無事か~っ』
『あんたを見捨てることなんてできねえ!』
『オラたちも戦うだあっ』
逃げたはずのゴブリンたちが戻ってきた。台詞は勇敢だが、腰は完全に引けている。
なんだかあのへたれた男を思い出した。
『お前たちっ、どうして戻ってきた!』
三匹を叱りつけるゴブリンメイジ。だが、すぐに俺という存在を思い出したのか、杖を構えこちらを警戒している。
俺はというと労働力が増えたことに内心ほくそ笑んでいた。一匹では少ないと思っていたところにまさかの三匹追加。笑うなというほうが難しい。
「おい、警戒を解け。俺にお前らを殺す意志はない」
『? どういう……』
「場所を変える。話はそれからだ。ーーそれとそいつらに無駄なことはしないよう言っておけ」
ゴブリンメイジはハッとしたように三ゴブを見た。三ゴブは震えながらも剣や木の棒をいまだ構えていたのだ。そこにはゴブリンメイジを助けるという確固たる意志があった。
『お前たち……』
「死なせたくないのなら黙らせておけよ。ーー行くぞ」
俺は一人歩き出した。後ろは振り返らない。ゴブリンメイジほどの賢さがあれば、俺についていったほうが、生き残る確率が上がると察するだろう。
まぁ、万が一について来なかった場合は、力づくで連行するがな。
しばらくして動き始めた四つの気配に俺は口角を上げた。
移動した先は、畑からだいぶ離れた所にあった森の中。そこで俺はゴブリンメイジたちに、俺の従魔として畑で働いてはどうかという提案をした。
そうすればゴブリンメイジたちは労働の対価として野菜をもらえ、アルベルトたちは人手という労働力が手に入る。
ただ一つ不安があるとすれば、ゴブリンメイジたちをアルベルトたちが受け入れるかどうか。この提案は俺の突発的な思いつきだからな。アルベルトたちに了承をとったわけではないし。
従魔といえどゴブリンを使うのはやはり抵抗があるだろうか。見た目があれだしな。
もし断られたら幻術でこいつらの見た目を変えよう。うん、そうしよう。
俺の提案に三ゴブは戸惑っていた。ただイケゴブ、じゃなかったゴブリンメイジは何やら考え込んでいるようだった。
『一ついいか? お前の案はオレたちとその人間たちにとっては願ってもないことだが、お前にはなんの得があるんだ?』
「得か? それはもちろん旨いマトの実ができる!!」
『マトの実?』
「そうだ! 人手があれば他の畑の手入れもできる。それはすなわちマトの実畑の手入れが充実することに繋がり、いまよりもっと旨いマトの実ができる可能性がある!!」
そしてゆくゆくはそれを極うまのジュースに!!
「さあっ、お前たちの返答はいかにっ!」
マトの実の部分でテンションが上がった俺は、その勢いでゴブリンメイジたちに問いかけた。三ゴブはびくりと肩を震わせていたが、ゴブリンメイジは動じず俺を真っ正面から見返してきた。
『ーーーーその話受けよう』
俺はニヤリと笑う。
「いい判断だ。よし、お前ら。一度、死んでもらおうか」
『『『『ハ?』』』』
俺は剣を抜き放ち四匹の首をはね飛ばした。




