25「まぁ、単なる好奇心からだ」
複数ある畑の一つに、不自然に動く影を見つけた。俺は鞘から剣を抜き放ち、その影に斬りかかる。
「!? ギギィッ!」
ガギンッと刃同士がぶつかった。少なからず俺は初撃が受け止められるとは思わなかったため、少々驚く。
だが、相手は違ったようでかなり慌てていた。どうやら俺の剣を受け止めたのは、ただの偶然らしい。
それを証拠に受け止めたあとは、持っていた剣を落とし腰を抜かしていた。
月明かりが相手の姿を照らし出す。
緑の肌にギョロリとした二つの目。大きな鼻に口の端から覗く鋭い牙。体の大きさは子供くらいしかなく、着ている物は腰に布一枚のみ。それは誰しもが知っている魔物、ゴブリンだった。
ゴブリンは腰を抜かしながらも逃げようとしているようで、ずりずりと後ずさっている。
だが、それを許す俺ではない。この畑に手を出したのだ。お代は置いていってもらわないと困る。
逃げるゴブリンを追撃しようとしたところで、あらぬ方向から風の塊が飛んできた。俺は慌てず剣で切り裂く。避けてもよかったが、畑に着弾する恐れもあったため、斬ることを選んだ。
「まったく、畑に当たったらどうしてくれる」
俺はギロリと横を睨んだ。そこにはボロボロの杖を構えたゴブリンがいた。
いまの風はこのゴブリンの仕業だろう。俺は鑑定を発動させ、相手のステータスを見る。
ふむ、ゴブリンメイジ、魔法を使うゴブリンか。もしかしたら結構珍しいのかもしれない。
「ギギッ、ギガガッ」
俺が鑑定していると、ゴブリンメイジが暗闇に向かって叫んだ。すると二匹のゴブリンが新たに現れ、腰を抜かしたゴブリンに駆け寄っていく。
というか、まだいたんだな。だが、いるだけ出てきてもらったほうが一気に片付けられるから楽だ。
さっさと済まそうと剣の柄を握り直したところで魔力が動いた。ゴブリンメイジが詠唱し、俺と自身を囲む風の渦を作り上げたのだ。なぜかゴブリン三匹は渦の外に取り残されていたが。
「ギガア! ガギギッ」
「ギィ!? ギギッ」
「ガガ、ギガ……」
ゴブリンメイジが外にいる三匹に向かって叫んでいる。それを聞いた三匹の内の一匹が焦ったように声を上げたが、ゴブリンメイジは安心させるように何かを言っている。
ぶっちゃけ他の人間が聞いたらギギ、ガガと何を言っているのかわからないだろう。それは俺も同じで、異世界の魔物、それもゴブリンの言葉などわからない。いくら俺が地球産とはいえ魔物だとしても。世界が違えば種族も違うのだから当たり前なのだ。本来はーー。
だが、ここにきて異世界言語が仕事をしたらしい。わかるのだ。こいつらの話している内容が。
ちなみにこれがさっきの会話である。
メイジ『お前たち! ここはオレに任せて行けっ』
ゴブ 『そんな!? あんたを残してなんてっ』
メイジ『いいから行け、オレも頃合いをみて逃げる……』
これは笑ってもいいやつだろうか。姿と会話内容が合っていない。
俺は目の前のゴブリンメイジを見た。あの三匹を逃がし、俺を相手に本当に逃げられるとでも思っているのか。
いや、こいつの目を見る限り逃げる気はないらしい。こっちとしても逃がす気はさらさらないが。
ゴブリンメイジがゆらりと動く。俺は剣を構えるが、ゴブリンメイジの次の行動に思わず剣を落としそうになった。
「……は?」
土下座したのだ。日本人も真っ青な完璧な土下座を。
命乞い、なのだろうか。だが、ゴブリンが命乞いなどするのか? 本能のままに襲いかかってきそうなものだが。いや、さっきの会話を聞く限りでは知性はありそうだ。
俺がゴブリンメイジの行動をそう分析していると、土下座したままのゴブリンメイジは何やら勝手に話し始めた。
『言葉は通じないと思うが、何卒殺すのはオレだけにしてもらえないだろうか。あいつらは逃がしてやってほしい』
いや、お前、いま言葉通じないって言っただろ。なんで交渉しようとしてるんだ。これが普通の冒険者だったら首をはねられて終わりだっていうのに。
深々と息を吐いた俺は剣を鞘に戻し、ゴブリンメイジに話しかけた。
「お前の言葉は理解している」
『!? 我らの言葉を理解するのかっ』
「そうだ。だが、俺はお前たちにどんな理由があったにせよ、畑を荒らしたことを許すつもりはない。いまお前を殺さないのは、まぁ、単なる好奇心からだ。いや、気まぐれとでも言おうか」
『気まぐれでも構わぬ。畑を荒らしたことも弁解などしない。ただオレの命一つで済ませてもらえないだろうか』
このゴブリンメイジ、自己犠牲が強いな。はて、ゴブリンとはこんな魔物だったか? ラノベやゲームのゴブリンしか知らないがな。それともこの世界のゴブリンはもとからこうなのか。
せっかくなので、いろいろ訊いてみることにした。




